IPv6対応への道しるべ

第8回日本唯一のIPv4アドレス移転仲介業? ipiten.jp

IPv4アドレス在庫枯渇にともない、IPv4アドレス移転が徐々に注目されつつあります。第8回は、IPv4アドレス移転仲介サービスipiten.jpを行われているサイバーエリアリサーチ株式会社の松村賢三氏と風間勇人氏にお話を伺いました。

IPv4アドレス移転仲介サービスは、現時点では恐らく同社以外にどこも行っていないと推測しています。

今回は、仲介を行う事業者の視点でのIPv4アドレス売買(金銭的な対価を伴うIPv4アドレス移転)に関して伺いました。非常に緊張されていたようで、最初のうちはあまり会話が弾まなかったのですが、徐々にいろいろと面白いお話を伺えました。

ということで、前半よりも後半の方が面白い話が入っている記事なので、最後まで読んでいただけると幸いです(笑⁠⁠。

サービスの流れ

─⁠─このサービスはいつ開始されましたか?

昨年の10月に開始しました。

─⁠─移転元となり得る組織に声をかけたりしていますか?

いまのところ、弊社から積極的に移転元を探すようなことはしておりません。

─⁠─ということは、基本的にWebサイトからの連絡を受けるのを待つという形態ですか?

はい。Webサイトもしくはその他方法でのお問い合わせをいただいたときにご対応させていただいております。

─⁠─サービス開始後にどれぐらいの件数の問い合わせがありましたか?

両手で足りるぐらいの件数です。⁠譲渡を考えている」という方々と、⁠譲受を希望されている」という両方の方々からお問い合わせをいただいております。

お問い合わせ件数としては譲受を希望される方々が多かったのですが、ただ、IPv4アドレスの数という意味では、譲受希望されている方々と譲渡を考えているという方々で同じぐらいのボリューム感になります。

─⁠─IPv4アドレスを「欲しい」という方々と、「売りたい」という方々のそれぞれのブロックサイズの規模感はどれぐらいですか?

IPv4アドレスの譲渡を考えている方々は/16、/20、/24というブロックサイズがありました。

IPv4アドレスの譲受を希望される方々は/20、/19、/18、/16という声がありました。/22というのもありましたが、/20が中心的な感じになっております。

─⁠─IPv4アドレスの譲受を希望される方々は、どういった内容の問い合わせをすることが多いのでしょうか?

IPv4アドレスを希望される方々は、やはり最初に価格に関してお問い合わせいただくことが多いです。⁠いくらですか?」という感じです。

─⁠─それはその場で価格を伝えるのですか?
松村賢三氏
松村賢三氏

いえ。弊社サービスはあくまでも仲介サービスですので、お申し込みいただいた時点での情報をご案内させていただいて、仲介させていただくという形になっております。そういった形でご連絡させていただき、ご検討いただきます。

─⁠─いままで何件かずつ譲渡したい側と、譲渡されたい側の問い合わせがあったとおっしゃっていましたが、マッチメイキングが成立した案件はありますか?

はい。現状は1件あります。4月24日にJPNICのWebサイトにIPv4アドレス移転に関する情報が掲載されています。

事業としてのアドレス移転仲介サービス

─⁠─仲介を行ううえで注意する点や苦労されている点を教えてください。

移転にまでは結びつかなかった案件も含めてですが、IPv4アドレスの譲受を希望される方々は、経路広告されているかや、bogonにかかっているかということを気にされます。

経路が広告されているかどうかに関しては、JPIRRさんとRADBさんで確認させていただいております。弊社としては、経路広告が行われているかどうかに関しての情報を収集してお客様にお知らせしますが、その情報をどのように判断されるのかはお客様次第となります。お問い合わせをいただいた方とwhois等に登録されている情報が同じであるかなど、移転元の真正性の確認も行っております。

─⁠─過去に迷惑メールやウィルスなどが発射されまくっていたIPv4アドレスは敬遠されると思うのですが、そういったIPv4過去を持つIPv4アドレスであるかどうかは、どうやって確認していますか?

経路広告が行われていないのであれば、そういった用途でIPv4アドレスが利用されていなかったということもわかりますが、それ以外に関しては検索エンジンで探してみるなどの方法など、できる範囲でチェックを行っています。

─⁠─金銭のやり取りは仲介されるのでしょうか?

はい。

私どもとしては、第三者として中立を保った状態で取引を仲介することがトラブルの防止にもつながると考えているため、金銭取引の仲介もさせていただきたいと考えています。実際の手数料は、お問い合わせをいただいたお客様にお渡しする資料に記載されています。

─⁠─申し込みがあったにもかかわらず成約に至らなかった事例を教えてください。

金銭的に折り合わなかったという事例がありました。

─⁠─「折り合わなかった」ということは、途中で金額の交渉が行われたということだと思うのですが、そういった交渉も間に入られるのですか?

それぞれ紹介書という形でご紹介させていただきまして、それに対してご要望を伺います。紹介書には、互いに相手組織の具体名がわからない状態で情報が記載されています。IPアドレスのチェックを行った結果に関しても、相手組織が特定できない範囲での情報という形を取らせていただいております。

具体的には、IPアドレスのブロックサイズや、経路広告されているかどうかです。経路表にどのように載っているのかをお知らせしてしまうと推定が可能となってしまうので、差し控えさせていただいております。

─⁠─日本で、このようにIPv4アドレス移転仲介サービスを行っている事業者は他にありますか?

現状で、他事業者による日本でのIPv4アドレス移転仲介サービスを私どもは把握しておりません。

風間勇人氏
風間勇人氏

アメリカでは、いくつかの事業者が存在しているようです。しかし、すでにIPv4アドレス在庫が枯渇したAPNIC地域とは違い、ARIN地域などではIPv4アドレス在庫が枯渇していないので、IPv4アドレスが必要な事業者はRIRに申請することで新規IPv4アドレス割り振りを受けられるため、現時点ではIPv4アドレス仲介事業者を通じてIPv4アドレスを確保するニーズはまだ大きくはないと思われます。

─⁠─移転元となる組織の傾向はありますか?

移転元として譲渡をお考えの方の多くは、歴史的PIアドレスを保持していつつも、いままで有効に活用してこられなかったと推測される企業さんです。

移転先としては、ネットワーク事業者さんが中心になっています。特に、ネットワーク事業の拡充をはかっているというような、逆に、拡充をはかるために、IPv4アドレス獲得を検討されている企業さんです。中でも、Webホスティング事業者さん、データセンター事業者さん、CATV事業者さんなどでニーズが多くあると言えると思います。

意外だったのは、IPv4アドレス獲得を検討されているお客様が東京に偏っていなかった点です。地方企業様からのお問い合わせが6割です。実は都内企業様の多くは既にIPv4アドレスをある程度確保してある一方で、地方企業様にとってはIPv4アドレス獲得が大きな要素となっているのではないかなと考えています。

IPv4アドレスの移転元に関しても、一時期インターネットをひろげるために割り振りを多く行ったり、産官学で連携して活動しようとした名残として、地方に多くのIPv4アドレスが残っているようにも思えるので、地方でのIPv4アドレスの掘り起こしというのは今後の課題としてあると思います。

日本では、表向きはIPv4アドレスが枯渇しているのですが、資源としては、まだまだ多くのIPv4アドレスが眠っている状況なのではないでしょうか。

─⁠─今後、IPv4アドレス移転仲介サービスはどのようになっていくとお考えですか?

今、まだ各事業者さんの社内在庫があるうちは、社内在庫でやりくりしていく状況が続くと思いますが、新規IPv4アドレスがないと事業が成り立たない方は、自分達で移転元を探しださない限りは、こういった仲介サービスなどをご利用いただいて移転を行うか、既存のIPv4アドレスを効率的に利用してやりくりするという二択になっていくと考えています。そのため、IPv4アドレス移転仲介サービスの利用は短期的には拡大すると思います。

IPv4アドレス移転仲介サービスがいつまで可能であるかは、多少難しい問題だと思います。どちらかというと、長期的ビジネスというよりも、短期的なサポートビジネスではないかと考えています。そういった意味でいうと、ここ3年か5年ぐらいがターゲットになってくるのではないかと思います。

サービスを始めたきっかけ

─⁠─御社のメイン事業に関して教えてください。なぜ、IPv4アドレス移転仲介サービスをやろうと考えたのですか?

なぜIPv4アドレス移転かですが、当社はIPアドレスデータベースを扱う事業を行っており、そういったこともあり、IPv4アドレスに関して業界内で貢献できることがあればいいかなという考えで事業を立ち上げました。

日本国内の広告配信やLPOのほとんどのエンジンで当社のIPv4アドレスデータベースが利用されています。そういった意味では、当社のIPv4アドレスの技術は非常に多くの方々が知らないうちに使っていただいています。

─⁠─そのIPv4アドレスデータベースを利用して移転元IPv4アドレスのチェックを行っていますか?

はい。

弊社には、どこでそのIPv4アドレスが使われて来たかという地域情報データベースやHTTPプロキシ利用等についてもアーカイブデータがあります。現時点では、件数が非常に少なく全てを手作業で行えてしまうので、正式なフローとしては行えていませんが、担当者レベルでは弊社データベースを利用したチェックも行っています。

─⁠─HTTPプロキシ情報は何故お持ちなのですか?

私たちのお客様には、世界中からアクセス可能なインターネットにおいて、動画・音楽配信先を日本国内に限定しコンテンツの配信を行っている会社様や、RMT(Real Money Trade)対策での特定の国からのアクセスを制限しているオンラインゲーム会社様等がおられます。

弊社では、このようなお客様への不正アクセスを低減させる取り組みとして、主にHTTPプロキシに関してインターネット上で調査を行っているからです。

IPv4アドレスの「価格感」

─⁠─最後に一言、お願いします。

意外と皆様、価格感を含めてバラバラだなという感想を持っています。

先日、IPv4アドレスをお求めの、とある地方の会社さんに「どのぐらいの価格感をお考えですか?」と質問した際に「1,000円から3,000円」とおっしゃってましたし、かたや「100円ぐらい」とお考えの会社さんもいらっしゃいます。

ひとつ指標として価格が公表されている移転事例としては、日本ではありませんが、NotelさんとMicrosoftさんの事例で、IPアドレスあたり11ドルぐらいというのがあります。それがひとつのベンチマークになっているようにも見えます。そういったなかで、ある程度、ビジネスとして見込めるような価格になってくると役割として果たせるのではないかと思います。

お問い合わせだけでもいただければ有り難いと考えています。ご相談をお待ちしております。仲介が成立するまでは無料です(笑⁠⁠。

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