エンジニアに捧げる起業幻想

第10回 幻想ではない起業を目指す

この記事を読むのに必要な時間:およそ 1.5 分

本連載も今回で最終回です。持論たっぷりの内容にお付き合いいただきましてありがとうございました。

今回はこれまでのまとめをお送りしたいと思います。

この連載で伝えたかったこと

メイントピックを要約すると

  1. 起業を推奨するような情報に惑わされるな
  2. 起業に必要なスキルはエンジニアのスキルセットの傾向と相性が悪い
  3. 自分だけ良ければいいという起業はするべきではない

になるかと思います。

とにかくこの連載を通じて一番言いたいのは,起業は手段であり,目的として起業するなということです。そんなことは考えればあたりまえのことですが,なぜか目的としての起業は多く見られます。事業を起こすから起業なのであり,会社を起こすのが目的なら起社とでも呼んだら良いかもしれません。

⁠やりたいことがありそれが何らかの理由で会社に所属していては実現できない」⁠そのやりたいことというのはひとりよがりではなく普通に第三者的に見ても有意義で説得力のあるものである」という状況でこそ起業すべきでしょう。

そして,そういう状況で起業したとしても,うまくいかないケースがほとんどです。事業を起こしつつチームを作り,資金を集めて営業やマーケティングをするというのはそうそううまくいくものではありません。

⁠起業するような状況なのかどうか」「起業してうまくいくのか」か別のことです。もしかしたら素晴らしいビジネスモデルを思いついているのかもしれません。なのに事業としてそれを実現する能力や経験,適性が足らずに失敗に終わったとしたらそれはもったいないことです。

期待値の算出の仕方

基本的にはほとんどのビジネスモデルというのは,自分で起業して実現するよりもすでに存在する会社で実現するほうがたやすいと思います。起業すべき状況としては,⁠その会社では事業の提案が受け入れられなかった」という場合か,⁠その事業の収益は会社ではなく自分で独占したい」という場合ではないでしょうか。

前者のパターンは,本当に会社を説得しようという努力をしたか,さっさと諦めてしまっていないか,という点についてよく考える必要があります。

後者の場合には実現可能性とのトレードオフになるのだと思います。自分で起業してチャレンジする場合の得られるリターンの倍率と成功確率を掛けあわせて1を超えれば,まずは最低限のやる価値があると言えるでしょう。

たとえばリターンは1,000倍,成功確率は1/100であれば,この2つをかければ10になるので期待値は10倍ということになります。自分のリターンが1,000倍でも社会全体へのリターンが1/10,000だとしたら,それはトータルの期待値は1/10と考えるべきだと思います。

ただなかなかそこは難しい問題を含んでいます。

極端な例を考えてみましょう。

あるビジネスモデルを会社で実現すると自分へのリターンは1,000万円,社会へのリターンは1,000億円,成功確率は10%,自分で起業して実現すると自分へのリターンは10億円,社会へのリターンは100億円,成功確率は1%というケースがあるとします。

自分のリターンだけ考えると前者の期待値は100万円,後者は1,000万円です。社会へのリターンも含めると前者は100億円,後者は1億円です。そうはいっても人間,自分の幸せを完全に放棄して選択や判断をするのは難しいでしょう。

まあ会社に所属したまま事業を展開して大成功して,だから起業したのと同じくらいリターンをくださいといってもそれは難しいですよね。

どこかで聞いた話ですねこれは。

幻想ではない起業を目指す

この連載のテーマは「エンジニアに捧げる」です。

エンジニアは,これまで述べてきたようにビジネスモデルを実現するという部分で,傾向として「向いていない」と思われることが多いからです。また事業がうまくいかないときになんとかサバイブするという点でも向いていないように思います。

会社がうまくいかないときに最後に頼れるものは営業力だったりすることが多いです。経営がピンチだから素晴らしいコードを書こう!というシーンはあまり思い浮かびません。

経営も営業も開発も運用もすべては役割分担ですから,向いているフィールドで力を発揮するのが自分も周囲も社会にとっても幸せなことが多いのではないかと思います。

ただ,この連載で伝えたいことを裏返せば,それらをふまえたうえで起業するならやってみるのも良いでしょうということでもあります。その際に各記事で述べてきたような点を気にしながら進めると,もしかしたら少しはこの連載も役に立つかもしれません。

会社というのは諦めなければなんとかなることもあるものです。

起業しても9割以上はうまくいかないでしょうが,その中にも踏ん張ればなんとかなるケースもありますし,そういう経験こそよい糧になるとも言えるでしょう。

周囲に流されず,手段として必要だから起業して,起業したあとの様々な困難や苦労を受け止める覚悟をもって,自分だけではなく社会の中の1人ということも踏まえてする起業は,悪いものではないと思います。

著者プロフィール

山崎徳之(やまざきのりゆき)

青山学院大学卒業後,アスキー,So-netなどでネットワーク,サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータセンターである「データホテル」を構築,運営。2003年にベイエリアにおいてVoIPベンチャーであるRedSIP Inc.を創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現 ZETA株式会社)を設立,代表取締役就任(現任)。ECソリューションの「ZETA CX」シリーズとして検索エンジンやレコメンドエンジンを開発,販売している。

blog:http://blog.zaki.jp/
社長コラム:https://zetacx.com/column

コメント

コメントの記入