Ubuntu Weekly Recipe

第194回 UbuntuでVSTプラグインを使う

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今回は,一般的なデジタルオーディオワークステーションソフトウェアによく採用されているプラグイン規格,VSTをUbuntuで使うレシピをお届けします。

VSTとは

VST(Visual Studio Technology)は,ドイツのSteinberg Media Technologies社が開発したサウンドプラグイン規格です。音声とMIDI信号の入出力やソフトウェア間の連携,典型的なサウンドプラグインの操作画面に必要な「スライダー」「タブ」と言ったウィジェットの描画を統一的に扱い,エフェクトプラグインやMIDI音源プラグインの作成を目的としています。Steinberg社のデジタルオーディオワークステーションソフトウェアのCubaseのみならず,現在は様々なソフトウェアにおいて標準的に実装されています。

開発キットはVST Audio Plug-Ins SDKにて公開されています。バージョン2系と3系があり,2006年にリリースされたバージョン2.4と,2011年にリリースされたバージョン3.5が最新となっています注1)⁠

なお,2011年はVSTが開発されてから15周年の節目の年であり,ヨーロッパの方ではキャンペーンが敷かれています。しかし,Steinberg Media Technologies社の資本上の親会社であるYamaha社がある日本では,特に動きが見られないようです。

注1)
なお,このVST3系の開発キットのサンプルには,Paul Kellett氏が作成した一連のMDA(Maxim Digital Audio)プラグインが同梱されています。このMDAプラグイン,現在はオープンソース化されており,UbuntuでもLV2プラグインパッケージ「mda-lv2」として利用可能です。

Wineとは

VSTの開発キットがサポートするオペレーティングシステムは,Microsoft社のWindowsとApple社のMacOS Xです。このため,LinuxをベースとするUbuntuでは通常,利用することができません注2)⁠

同じソースから作成されたVSTプラグインでも,Windows環境とMacOS X環境でその実体が異なります。Windows環境では大抵の場合,ダイナミックリンクライブラリー(DLL)の形となります。このDLLファイルを使用できるようにすることが,UbuntuでVSTプラグインを使う第一歩です。そこで登場するのが,Wineプロジェクトです。

Wineは,Windows向けに作成されたソフトウェアを,Windows以外のオペレーティングシステムでも動作させることを目的とするソフトウェアです。MacOS X, FreeBSD and Solaris向けにもリリースされていますが,Linux向けのソースが最も開発が進んでいるようです。

UbuntuではUniverseリポジトリからWineのパッケージをインストールすることができます。Ubuntuで提供されているパッケージは,Wineの開発のレベルに応じて,⁠wine1.0」⁠⁠wine1.2」⁠⁠wine1.3」の3種類があります。Ubuntu 11.10リリース現在,バージョン1.2は安定版,バージョン1.3は開発用のベータ版となっています。

注2)
実はJOSTというソフトウェアがあり,こちらはVST 2.4 SDK自体をLinuxで使えるようにしてしまう開発環境兼実行環境です。VSTのフレームワークに合わせて作成されたひとつのソースコードからWindows用,MacOSX用そしてLinux用のバイナリを生成します。そのため,ソースが公開されているVSTであれば,Linuxで動作するバイナリを作成できる可能性があります。

Linux向けVSTホストプログラム

VSTプラグインを使うにはさらに,VSTというフレームワークを適用したホストプログラムが必要です。Wineをバックエンドとして用い,VSTプラグインを動作させ,音声入出力やMIDI入出力を取り持つソフトウェアです。

これまでLinux向けのホストプログラムがいくつか開発されてきました。

vstserver
Kjetil Mattheussen氏が2002年から2004年にかけて開発していたホストプログラム。vstiやladspavst,k_vstといったソフトウェアも合わせて配布されていましたが,現在は開発を終了しソースを手に入れることは難しいです。
dssi-vst
2004年から開発が継続されているホストプログラム。VSTプラグインをDSSI(Disposable Soft Synth Interface)プラグインとして扱うのでJACKサウンドサーバーを併用する必要があります。
fst(Free ST)
Torben Hohn氏が2004年から開発を継続しているホストプログラム。開発に加わっているPaul Davis氏によりArdourにも同梱されています注3)⁠JACKサウンドサーバーの直接のクライアントとなって動作します。

Ubuntuではdssi-vstのみ,パッケージの形で提供されています。

注3)
ただし次章で言及するライセンスの問題により,この機能は標準でオフにされています。

ライセンスの問題

VSTの本体はオープンソースライセンスに基づいてリリースされているわけではなく注4)⁠開発キットに同梱されているSteinberg VST Plug-in SDK Licensing Agreementによってリリースされています。ライセンスには再配布に関する制限があるため,上記のVSTホストプログラムは以下の2つの方法で配布されています。

  1. VSTのSDKはユーザーが入手しVSTホストプログラムのソースの特定の場所に配置してからビルドを行い実行プログラムを作成する
  2. LMMS(Linux MultiMedia Studio)プロジェクトのプラグインとして開発されたVeSTigeのソースの一部を同梱する

かつては1の方法が主流でしたが,Javier Serrano Polo氏がVeSTige向けにVST 2.4 SDK(の主要機能)の互換ヘッダファイルをオープンソースライセンスで公開して以来,2の方法が主流となりました。そのため現在入手可能なオープンソースソフトウェアでは,VST 2.4までのSDKが提供する機能のみ利用可能となるため,最新のVSTプラグインはうまく起動しない可能性がある点に注意してください。LMMSのウェブサイトでVeSTigeにおけるVSTプラグインのテスト結果を見ることができるので,参考になるでしょう。

注4)
ただし,開発キットのモジュールのうち画面描画を担うVSTGUIは,BSDライセンスの元でオープンソースとして開発されたものを同梱しています。

著者プロフィール

坂本貴史(さかもとたかし)

Ubuntuのマルチメディア編集環境であるUbuntu Studioのユーザ。主にUbuntu日本コミュニティとUbuntu Studioコミュニティで活動。いつかユーザ同士で合作するのが夢。

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