Ubuntu Japanese Team代表の小林です。当連載「Ubuntu Weekly Recipe」は、今回で499回、そして次回で500回を迎えます。また、来年の1月には連載開始より10周年となります。読者の皆さま、技術評論社様、これまで記事を執筆してくださった皆さまに感謝いたします。
さて、いつもの執筆陣は、12月3日に開催される「Ubuntu 17.10リリース記念 & Ubuntu Weekly Recipe 500回記念オフラインミーティング」の準備に忙しいようなので、これに参加できない私が今回と次回の記事を担当することにしました。
やはり500回で10周年という節目ですから、この10年を総括しつつ、新たな10年へのスタートにふさわしい記事を書こうと思ったのですが……どうしても思いつきませんでした。申し訳ありません。
代わりに、以下のようなことを考えました。
- 10年前といえば……ちょうど日本でYouTubeが人気になりはじめた頃
- 今や子供の将来の夢の第3位が「YouTuber」らしい
- 10年前と違ってYouTubeもスマホで見るのが主流になってる
- というかスマホで何でもできるので、PCを使う子供や若者は減ってるらしい
- 「YouTuberになりたい!」と思った子供や若者は動画の編集ができるPCに興味を持つらしい
- じゃあ次の10年のために、UbuntuでYouTuberになるための方法を今すぐ発信しないと!
ということで、「Ubuntuで!YouTuberに俺はなる!」というタイトルだけ思いつきました。五・七・五になっていて語呂もいいでしょう。「無料OS『Ubuntu』と無料の動画編集ソフトでYouTuberになろう!」がテーマです。今週は「UbuntuでYouTuberっぽい動画を作る」ために必要な動画編集の基本機能を確認し、来週、実際に「YouTuberっぽい動画」を作ってYouTubeにアップロードすることを目標とします。
使うソフトは「Shotcut」に決定!
「YouTuberに俺はなる!」とは言ったものの、私は動画をカットしてつなぎ合わせる程度の編集しかやったことがありません。とりあえず、Ubuntuで使えそうな動画編集用オープンソースソフトウェアを探してみました。
などがあるようです。今回は、以下の理由で「Shotcut」を使うことに決めました。
- Windows版がある
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やはり、Web検索で使い方や編集テクニックを見つけやすいのは、Windows版もリリースされているソフトでしょう。ユーザー数が多くなるほど、情報も多くなるので。Windowsユーザーも多いShotcutは、ユーザーフォーラムも活発ですし、YouTubeにも解説動画が多数アップロードされています。また、新バージョンが月に1回リリースされています。
それに、WindowsでShotcutを使おうとしている思ったユーザーがWeb検索でこの記事を見つけて、Ubuntuに興味を持ってくれるかもしれません。そのためWindowsでも動くソフトを選びたいと考えました。タイトルに「Ubuntuで!」と入れてしまいましたが、気にしないことにします。Windowsでフリーソフトウェアを使ってYouTuberを目指す皆さんもぜひ参考にしてください。
- Snapで最新版がインストールできる
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動画編集ソフトは動画や音声を扱うため、インストールしてもライブラリのバージョンが合わないとか、コーデックが足りないなどの問題が起こりがちです。その点、ShotCutは最新版がSnapで提供されており、必要なものがまとめて入るのでトラブルも少ないでしょう。それに最新版をインストールするのも容易なので、「Windowsは最新版が入るのに、Ubuntuは入らないのかよ!」と言われることもありません。
では、ShotcatのSnapパッケージをUbuntuインストールしましょう。以下のコマンドを実行するだけです。
YouTuberに必要な編集技術は?
編集を始める前に、YouTuberとして動画をアップロードするために必要になりそうな編集技術を確認しておきましょう。以下の編集さえできれば、なんとかYouTuberっぽい動画を作れそうです。
- 動画の連結とカット
- 複数の動画を連結したり、不要な部分をカットする機能です。これは当然必要でしょう。シーンを切り替える時になめらかに切り替える機能も必須です。
- 読みやすい文字を入れる
- やっぱり人気YouTuberを目指すなら、文字を動画に入れる技術は必須ですよね。動画と重ねても読みやすく色を変えたり装飾することも重要でしょう。
- BGMを入れる
- BGMも重要です。「この曲といえば、あのYouTuber」と言われるようになりたいものです。
- SE(効果音)を入れる
- 動画を盛り上げるために、SEを入れるのも必須でしょう。人気YouTuberは必ず使っています。
- 画像や動画を貼り付ける
- 動画を盛り上げたり、説明を補完するために画像を張り込むような編集もよく見ますよね。
- 色を変える
- 回想シーンなどをモノクロやセピア調にする機能も使えたほうがいいでしょう。
- スローモーション・早送りをする
- 衝撃の瞬間をスローモーションにしたり、冗長な部分を早送りすれば、動画のクオリティをさらに上げることができますね。
Shotcutの使い方
では、Shotcutを使ってこれらの処理を行う方法を見ていきましょう。
連結とカット
Shotcutを起動して、まずは動画の連結とカットを試してみましょう。ツールバーの「ファイルを開く」で、動画ファイルを開きます。再生が開始しますが、スペースキーを押すか、動画の下にある一時停止ボタンをクリックすることで止められます。開いた動画の一部だけを使いたいなら、シークバーの左右にある⏵と⏴をマウスでドラッグして範囲を指定しましょう。あとで細かくカットできるので、だいたいで構いません。ツールバーの「タイムライン」をタップしてウィンドウの下にタイムラインを出し、動画が表示されている領域をつかんで、タイムラインにドロップします。すると、ビデオトラックに選択していた範囲が「クリップ」として挿入されます。選択中のクリップには赤枠が付きます。
タイムラインの現在位置(プレイヘッド)は、再生時間が表示されている「Master」の行をクリックして変更します。スペースキーを押せばプレイヘッドから再生が始まります。タイムラインはスライダーで拡大したり縮小したりできるので、必要に応じて調整しましょう。挿入したクリップはドラッグして動かしたり、右クリックしてメニューを出し、コピーなどの操作ができます。
YouTuberを目指すなら、やはり必要な部分だけをコンパクトにまとめないといけません。冗長な部分はできるだけカットする必要があります。カットする部分を決めたら、プレイヘッドをカットを開始したい位置にあわせ、タイムラインにある「プレイヘッドで分割」のアイコン(中央に破線のある長方形)をクリックします。さらに、カットを終了したい位置で「プレイヘッドで分割」をクリックします。これで、削除したい部分を別のクリップにすることができました。削除したいクリップの上で右クリックを押し、「削除」を選べばカット完了です。
他の動画を連結するには、「ファイルを開く」をクリックして開きます。後は、同じように範囲指定してタイムラインにドロップします。同じように、不要な部分を削り、クリップを好きな場所にドロップします。最初に追加したクリップの前後はもちろん、クリップを分割して途中に入れることも可能です。
このあたりの操作は、文字で読んでも今ひとつ分かりにくいかもしれません。せっかく動画編集ソフトを使っているので、動画の連結とカットから、mp4ファイルにエクスポートするまでの動画をYouTubeにアップロードしておきました。よろしければ本文とあわせてご覧ください。
編集状態の保存
Shotcutには自動的に状態を保存する機能があるため、急にPCの電源が切れるなどしても、編集内容を復活できる場合が多いです。しかし、やはり区切りのいいところで編集状態をファイルに書き出しておいたほうが安心でしょう。ツールバーの「Save」アイコンをクリックすれば、ファイル名をつけて保存できます。拡張子は「mlt」です。
なお、このファイルは編集内容を記述したXMLで、動画データ自体は含みません。そのため、読み込んだ動画ファイルを削除や移動してしまうと、次に開いたときに動画を読み込むことができないので注意が必要です。
mp4ファイルへのエクスポート
編集内容を動画ファイルに書き出すには、ツールバーの「Export」ボタンを押します。すると、図3のような表示になります。左側のリストにある「YouTube」を選ぶと、YouTubeへのアップロードに適した設定にしてくれます。特にこだわりがなければ、そのままの設定で「ファイルをExport」ボタンをクリックしましょう。ファイル名を入力してOKをクリックすれば、エクスポート処理が始まります。完了までに時間がかかりますが、処理中も編集を続けられます。
画面効果を使う
次のクリップにシーンが切り替わる時に、画面効果を設定することもできます。クリップとクリップが重なるようにドラッグ&ドロップすると、重なった部分が以下のように「トランジッション」となります。
トランジッションの効果を設定するには、トランジッションを選択してツールバーの「プロパティ」をクリックしてください。デフォルトの「分解」は、一般的には「クロスフェード」と呼ばれます。前のシーンがフェードアウトしていくと同時に、次のシーンがフェードインしてくる効果です。他にもいろいろな効果があるので、切り替えて試してみると良いでしょう。
動画の最初と最後などにフェードインやフェードアウトしたい場合も多いでしょう。その場合は、最初や最後のクリップを選択してフィルターを開き、「ビデオ Fade In」や「ビデオ Fade Out」を追加します。
文字を入れる
文字を入れるには、まず文字を入れたい部分だけをクリップに分割します。クリップを選択し、プレイヘッドを選択したクリップ内に移動し、ツールバーの「フィルター」をクリックしましょう。フィルターのパネルが表示されるので、「+」ボタンを押します。デフォルトでは「お気に入りのフィルター」だけが表示されているので、パネル下部のモニターアイコンをクリックして、「ビデオフィルター」を表示します。一覧に「テキスト」があるのでクリックしましょう。
テキスト入力欄にデフォルトで「#timecode#」が入っているので、削除して入れたい文字を入力しましょう。残念ながら直接日本語入力ができないため、日本語を入力する場合はテキストエディタなどに入力した文字をコピー&ペーストしてください。テキストの大きさや表示位置は、画面に表示されている白枠を操作して行います。大きさの変更は四隅をドラッグ、位置の変更は中央の丸をドラッグです。「ポジション」や「サイズ」に数値を直接入力することもできます。色、透明度、枠線、背景色、フォントの種類も設定できます。ただし、フォントを変更しても、テキスト入力欄になにか変更を加えないと画面表示が更新されないことがあります。なお、文字の太さを変えるには「Noto
Sans CJK JP」や「Noto Serif CJK JP」のような、文字の太さごとにグリフが用意されているフォントを用いてください。
動画に単純な文字を入れるだけなら、このテキストフィルターで十分でしょう。より凝った文字を入れる方法については、来週とりあげたいと思います。
BGMやSEを入れる
BGMやSEなどの音声を動画に重ねるには、タイムラインパネルの左上にあるハンバーガーメニュー(≡)をクリックし、「オーディオトラックを追加」を選びます。BGMとSEの両方を使うなら、2つ追加しておくといいでしょう。あとは、動画と同じように音声ファイルを開き、タイムラインのオーディオトラックにドロップするだけです。
音量を調整するには、フィルターパネルを開き、「ゲイン/音量」フィルターを追加します。ゲインを上下させて、適当な音量に設定しましょう。
BGMが最後にプツッっと切れてしまうのはかっこ悪いですね。そこで、フェードアウトも設定しておきましょう。フィルタを開いて「オーディオFade Out」を追加します。「オーディオFade In」を使って、フェードインさせることもできます。
画像や動画を貼り付ける
画像を入れる場合、ハンバーガーメニューから「ビデオトラックを追加」を選びます。そして、「ファイルを開く」をクリックして画像を開き、新しいビデオトラックにドロップします。このままだと画面いっぱいに画像が表示されるため、フィルターパネルで「サイズと位置」フィルターを追加し、サイズと位置を調整できます。フェードインやフェードアウトといったフィルターを使うこともできます。同じ方法で、動画内に他の動画を埋め込むことも可能です。
再生速度を変える
再生速度を変えてスローモーションや早送りにするには、プロパティパネルの「スピード」を変更します。
色を白黒やセピア調にする
白黒にするには、「彩度」フィルターを追加し、彩度を0に設定します。セピア調にするには、「セピアカラー」フィルターを追加します。
以上の機能で、なんとかYouTuberとしての動画作成を始められそうです。来週はもう少し凝った編集を行う方法を紹介し、実際にYouTuberっぽい動画を作ってアップロードしてみたいと思います。