現時点で「インターネット」という言葉が示す物は、巨大なひとつのIPv4ネットワークです。しかし、IPv4の世界は限界へと達してしまいました。
IPv4とIPv6は直接的な互換性がないので、おそらく今後はIPv4とIPv6の「二つのインターネット」が共存する世界が訪れます。
広く一般に知られているインターネットは「ひとつ」です。そして、その「ひとつ」とはIPv4によるインターネットです。
当初の設計が非常に柔軟であり、仕様も公開されたため、インターネットはさまざまな企業が提供するさまざまな機器をつなぎ合わせて、世界中に張り巡らされた巨大な通信網を実現しました。このように作られた今のインターネットは「何でも通せる魔法の土管」のような存在です。
さまざまな種類のデータを運べるインターネットは、メールを運び、Web経由で情報を発信し、さまざまな機器の制御に使われます。
このように「何でもできるインターネット」の通信はIP(Internet Protocol)という通信方式によって実現しています。IPがインターネットの「要(かなめ)」と言っても過言ではないと思います。いろいろなものがいろいろなものと相互に接続できるのは、皆がIP共通のプロトコルで結ばれているからです。
インターネットをレイヤ分けして考えると、たとえば図1のように表現できますが、IPを表す第3層(ネットワーク層)だけプロトコルが単一で、それ以外はすべて複数のプロトコルが存在しています。IPの部分だけが単一になった砂時計のような形です。
しかし、今までは単一であることが前提であった「IP」が、IPv6によって、ひとつから二つへと変わろうとしています。このとき、砂時計は図2のような形に変化します。
これは、実は非常に根本的であり、大きな変化です。
と、多少大げさに書きましたが、実は現時点でもIPv4とIPv6両方のインターネットがある状態です。ただ、2011年11月時点では、IPv6インターネットはIPv4インターネットの数パーセント程度の規模しかありません。
現時点では、一般的な家庭からのインターネット接続はIPv4インターネットに対してのみです。しかし、数年後には図のようにIPv4インターネットと接続すると同時に、IPv6インターネットとも接続する形態に変化すると思われます。
とはいえ、一般家庭への配線だけを考えれば、結局はひとつの回線の中にIPv4とIPv6の両方のパケットが流れるだけであり、物理的には全く同じ通信路やトポロジになる部分も多いと思われます。
また、ネットワークの向こう側に存在するWebサーバなどの各種サーバは、IPv4とIPv6両方で接続できるようにポートを開くと思われるので、全く異なる二つのインターネットができるというよりは、「非常に近いし、実体は同じ要素が混在している二つのインターネットが存在する」という形になるのではないでしょうか。
ということで、「二つに分離する」というのは、ちょっと言い過ぎな部分もありますが、要としてひとつだったものが二つに増えるというインパクトは小さくはありません。今までは、インターネットを構成しているIPはひとつであることを前提としていたものがいろいろあるので、それが二つに増えるというのはいろいろとややこしい話があります。
今後、多くのソフトウェアは、IPv4とIPv6が両方存在するインターネットに対応したプログラムを書くことが求められるようになるでしょう。
最後に
今回は、IPv4アドレスの枯渇し、IPv6の運用が本格的に開始されることによって、いままでひとつだったインターネットが二つになることを紹介しました。
次回は、IPv4アドレスがどのように配布され、IPv4アドレス枯渇がどのようなタイミングで発生するのかを紹介します。