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生まれ変わったWindows 10の全容

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Windows 10は過去のWindowsと大きく異なる役割を与えられたOSです。MicrosoftはWindows 10リリース前から,⁠Windows as a Service」というキーワードを用いて同OSを紹介してきました。それは数年に一回バージョンアップする単独のOSから,日進月歩で進化するIT技術や未知のセキュリティ脅威に対応するためです。つまり,現在のWindowsは「自身を常に更新・進化させるOS」に生まれ変わっています。

もっともこれ自体は目新しい取り組みではありません。既にクラウド型サービスであるOffice 365はほぼ毎月新たな機能を提供し,他社のアプリケーションに目を向けてもMozilla FirefoxやGoogle Chromeなど,更新頻度を著しく高めたWebブラウザーが既に存在します。MicrosoftはWindowsのサービス化に伴い,ベータやRTM(Release To Manufacturing version⁠⁠,GA(General Availability version)といった概念すら捨て去りました。WindowsというOSは新たなステージに進んだのです。

Windows 10のアピールポイント

Windows 10最大の特徴はスタートメニューの復活とMicrosoft Edgeの搭載です。

ご承知のとおり,1つのボタンにすべての機能を詰め込んだスタートメニューは,Windows 95時代に生まれた機能の1つです。Windows 3.xで問題とされていた操作性を改善するため実装に至り,今年で生まれて20年を迎えます。Windows 8.xではモダンUIを採用したためスタート画面という形でしたが,Windows 10では再びWindows 7以前のUIを採用し,スタートメニューが復活しました図1⁠。結果だけで見れば,Windows 8.xで導入したモダンUIは失敗に終わりました。この点については当時のWindows部門責任者だったSteven Sinofsky氏が見誤ったと言わざるを得ませんが,同氏はWindows 7の開発も指揮していたため,功罪相半ばしていると言えるでしょう。

ただし,Windows 10のスタートメニューは従来のプログラムメニューは存在せず,Windows 8.xのスタート画面に似た「タイルをピン留め」する形式です。そのため,Windows 7以前のように階層型のメニューからアプリケーションを起動する場合,Classic Shellといったオンラインソフトが欠かせません。筆者自身はピン留めスタイルに慣れてしまったため標準環境で使用していますが,タスクバーに加わった検索ボックスから検索してアプリケーションを起動するスタイルに切り替わりつつあります。以前からMicrosoftはスタートメニューに検索機能を加えて,ファイルやアプリケーション,設定項目の検索を推奨してきましたが,PC性能の向上や階層型メニューの廃止に伴い,ようやく脚光を浴びるようになりました。

図1 機能を集約させるという意味では及第点と言えるWindows 10のスタートメニュー

図1 機能を集約させるという意味では及第点と言えるWindows 10のスタートメニュー

そしてMicrosoft Edgeは,⁠Edge HTML」という新しいレンダリングエンジンを搭載した新しいWebブラウザーです。Mozilla FirefoxやGoogle Chromeと同じようにHTML5を始めとするWeb技術に対応し,モダンコンテンツの利用を可能にしました図2図3⁠。他方でActiveXやVBScriptといった枯れた技術を廃止しました。将来的にはJavaScriptベースの拡張モデル,Mozilla Firefox/Google Chrome用拡張機能を実行可能にするプラグイン機能の実装も予定されています。

もちろん後方互換性を維持するため従来のInternet Explorer 11も使用できますので,企業ユーザーの方は安心してください。

図2 Webページをキャンバス化するWebノート機能が注目されるMicrosoft Edgeだが,HTMLエンジンの刷新なども評価できる

図2 Webページをキャンバス化するWebノート機能が注目されるMicrosoft Edgeだが,HTMLエンジンの刷新なども評価できる

図3 あまり話題になっていないがDolby Audioをサポートする初のメジャーブラウザーである

図3 あまり話題になっていないがDolby Audioをサポートする初のメジャーブラウザーである

「様子見」も1つの選択肢

基本的にWindows 10は優れたOSですが,万全ではありません。現在Windows 7およびWindows 8.1をお使いのユーザーは,2016年7月末までWindows 10に無償アップグレードできますが,以前のデバイスやアプリケーションがそのまま動かない可能性があります。そのため日本マイクロソフトは各ベンダーと協力して情報をまとめたWindows 10 互換性情報&早わかり簡単操作ガイドや,ユーザーの投稿でアプリケーションやデバイスの互換性を確認できるWindows互換性センターを無償アップグレード開始直後から開設しました。

それでも使い込んだWindows 7/8.1からアップグレードした際,どのようなトラブルが発生するか分かりません。筆者が経験した例では,何らかの理由で関連付け構造が破壊されたことからOSの機能を呼び出せないケースや,内部機能が衝突することでスタートメニューが開かなくなるといったケースに遭遇しました。Windows 10は「OS自体の構造」が一部変化しているため,未対応のアプリケーションを使っている場合,予期せぬトラブルが多発することがあります。もちろんMicrosoftは数多くのバグフィックスを行う更新プログラムを早期にリリースし,安定性は今後も一歩ずつ高まっていくでしょう。しかし,お使いのPCやデバイス,アプリケーションの動作保証を確認してから移行しても遅くはありません。

移行する理由はセキュリティにあり

しかし周りを見渡せば,ニュースメディアはWindows 10の話題を取り上げ続けています。それを横目に古いOSを使うのは決して面白い話ではありません。そこでWindows 10に移行するメリットに目を向けてみましょう。

筆者が考えるWindows 10最大の特徴はセキュリティです。改めて述べるまでもなくセキュリティ脅威は身の回りにまで迫り,⁠知らなかった」では済まなくなりました。気づかぬうちにオンラインバンクで不正送金してしまうケースや,マルウェアに感染して踏み台になるケースなど,セキュリティインシデントは枚挙に暇がありません。

このような背景からWindows 10はWindows生体認証フレームワークの強化に取りかかりました。そこで実現する機能の1つが「Windows Hello」です。既存の指紋認証やICカード認証に加えて,顔認識および虹彩(こうさい)認識に対応した特殊な照明付き赤外線カメラでWindows 10へのサインインやロック解除が可能になりました。さらに同システムを利用して,Web上のシングルサインオンを可能にする「Microsoft Passport」もサポートしています。

以前から標準搭載していたWindows Defenderも強化しました。Microsoftが運営するメールサービスへの攻撃情報やユーザーから収集したサンプルデータを基にマルウェア解析を行い,リアルタイムで生成する定義ファイルを用いたチェックおよび保護が可能になります。また,Windows Defenderと同じロジックで動作するELAM(Early Launch Anti-Malware)の動作プロセスも変更が加わりました。BIOS環境のWindows 8.x時代はOS起動時にELAM起動前に潜んでいたマルウェアが活動することもできましたが,UEFI環境ではWindows 10ブートローダーの改ざんチェックを行い,その次にELAMが起動するため,感染済みデバイスドライバーなどからの攻撃を未然に防ぎます図4⁠。

図4 Windows 10のOS起動プロセス。ELAMの起動タイミングを変更してセキュリティを強化している(Microsoft主催の技術コンファレンス「de:code 2015」の発表資料より)

図4 Windows 10のOS起動プロセス。ELAMの起動タイミングを変更してセキュリティを強化している(Microsoft主催の技術コンファレンス「de:code 2015」の発表資料より)

他方でサポートが終了した古いOSのセキュリティホールが発覚した場合,悪意を持った攻撃に晒されますが,Windows 10は現時点で一歩進めた対策が加わりました。Windows XP時代は1台のPCから取得したクレデンシャル(ユーザー認証のための情報)は他のPCにランダムアタックするPass the HASHの脅威に晒しました。しかし,Windows 10の場合はハイパーバイザー上で動作するマイクロOS「VSM(Virtual Secure Mode⁠⁠」を実装し,資格証明書やセキュリティトークンをLSASS(Local Security Authority Subsystem Service)から呼び出すLSAIso(独立したLSA)で管理します図5⁠。VSMとWindows 10間はプロセス間通信でデータを送受信するため,現時点ではさらに高度なハッキング技術が必要になりました。このようにWindows 10は多くのセキュリティ強化を行うことで,昨今のセキュリティ脅威に対応しています。

図5 マイクロOSとして稼働するVSMがクレデンシャルをユーザー環境と分離し,セキュリティリスクを高めている(Microsoft主催の技術コンファレンス「de:code 2015」の発表資料より)

図5 マイクロOSとして稼働するVSMがクレデンシャルをユーザー環境と分離し,セキュリティリスクを高めている(Microsoft主催の技術コンファレンス「de:code 2015」の発表資料より)

新しいWindowsとともに,新しいITライフを楽しむ

新たな時代に対応したWindows 10ですが,本領を発揮するのは2015年内のリリースを予定しているWindows 10 Mobileが登場してからでしょう図6⁠。スマートフォン/タブレット向けとなる同OSとWindows 10は,ユニバーサルWindowsアプリ上のデータやOneDive経由で情報の連係が可能になります。その結果,これまで単独に存在していた各情報がシームレスに参照・操作可能になり,クラウド時代に即したITライフが実現することでしょう。

前述したように現在は互換性問題が残りつつも,機能性やセキュリティリスクを踏まえると最終的にはWindows 10に移行すべきです。近々Windows 10へのアップグレードを予定されている方は,新たな操作方法や設定手順などをコンパクトに解説した今すぐ使えるかんたんPLUS Windows 10活用大事典を是非ご覧ください。

図6 現在開発中のWindows 10 Mobile(画面はInsider Previewビルド10.0.10512.1000)

図6 現在開発中のWindows 10 Mobile(画面はInsider Previewビルド10.0.10512.1000)

著者プロフィール

阿久津良和(あくつよしかず)

編集プロダクションCactus代表。パソコン総合誌やDOS/V専門誌,Windows専門誌など,各コンピューター雑誌の編集部を経たのちに独立。OSからネットワークまでと専門分野は幅広く,常にユーザーの立場に立った記事を執筆している。

URL:http://www.cactus.ne.jp/