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2011年の電子出版ビジネスはどうなる?

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トレンドから始まった「電子出版元年」のイメージ

すでに米国では,Amazon KindleやBarnes Noble Nookといった書店が展開する専用端末および電子出版サービスが普及し始めている中,⁠真の日本の電子出版元年到来」⁠そう言われていたのが2010年の初頭でした(過去何度か電子出版元年と言われた年がありました)⁠

2010年前半の国内の電子出版を取り巻く具体的な動きとして,大手出版社や通信キャリア,印刷所などが「戦略」「方針」を打ち出したり,また,iPadなどの端末の登場,ePubを中心とした標準フォーマット策定への動きが見られました。

コンテンツの前に周辺の盛り上がり

2010年の「電子出版ビジネス」を振り返ってみると,コンテンツの前に,周辺から盛り上がっていたことが挙げられます。とくに,大手メディアの報道,各種宣伝,またネット上のクチコミから「身近になった電子出版へのワクワク感」という雰囲気が醸成されました。これは,既存の出版業界が縮小している中への,出版業界側からの期待値も含まれていたように感じます。とくに,ケータイコミックと呼ばれた携帯電話向けコンテンツ以外のものが大幅に伸びるのではという予想が,メディアや業界内からも聞こえていました。

実際,iPhone向けのコンテンツとして日本のマンガや各種ビジネス書のアプリ化,販売が開始し,APPストアランキングの有料コンテンツにも登場するようになりました。

たとえば,岩崎夏海氏の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』⁠株式会社ダイヤモンド社)は専用ビューワでの販売をして注目を集め,その影響もあって紙の書籍がベストセラーに繋がったり,京極夏彦氏の『死ねばいいのに』⁠株式会社講談社)のように執筆者が積極的に電子書籍化に取り組んだことから大きな話題を呼び,電子出版の可能性を感じさせるニュースとなったのが記憶に新しいところでしょう。

一方で,iPhoneを中心にコンテンツが数多く登場してくるにつれ,既存の出版モデルとは大きく異なる点が改めて浮き彫りになったのが2010年の夏~秋にかけてです。

各種団体・関連企業の設立

こうした動きと並行して,2010年は電子出版を取り巻く各種団体・関連企業が多数設立しました。ここではそれらを紹介しましょう。

一般社団法人日本電子書籍出版社協会

2010年3月24日の設立総会に合わせ正式にスタートしたのが「一般社団法人日本電子書籍出版社協会(略称:EBPAJ)⁠です。旧電子文庫パブリを母体に,設立時は,文芸・ビジネス書などを展開する大手出版社31社の出版社を母体に,2010年12月現在41社の会員社数となっている出版社の団体です。

電子書籍を考える出版社の会

先のEBPAJの設立発表後,2010年6月8日に設立したのが「電子書籍を考える出版社の会(略称:eBP)⁠です。設立時は技術評論社や毎日コミュニケーションズ,翔泳社,ソフトバンク クリエイティブなど,IT系出版社を中心に14社でスタートしています。その後,2010年12月現在,参加者数は50社になり,IT系以外に専門書,実用書を扱う出版社が中心となって活動しています。

電子出版制作・流通協議会

先の2つの団体と異なり,印刷所が主導となって設立した団体が「電子出版制作・流通協議会(略称:AEBS)⁠です.2010年7月27日の設立以来,印刷所のほか,広告代理店,出版社,ベンダなど多数の企業が参画しており,2010年12月時点で77の幹事会員・一般会員の他,70以上の賛助会員・特別会員となっております。

また,1986年設立以来積極的に活動している日本電子出版協会(略称:JEPA)や,ソニー,凸版印刷,KDDI,朝日新聞社の4社による合同事業会社株式会社ブックリスタ(旧電子書籍配信事業準備株式会社)⁠の設立といったような業界を横断的にまたぐ動きが数多く目に付きました。

電子書籍に特化したストアが続々オープン

その他,大日本印刷が立ち上げたハイブリッド型電子書籍ストアhonto」⁠紀伊國屋書店が立ち上げた電子書籍向けストアBookWebPlus」⁠廣済堂が立ち上げたBookGateといった,販売プラットフォームの整備が進んだのも2010年の電子出版ビジネスを取り巻く動向の特徴と言えます。

また,各種印刷所が電子書籍の制作・配信を請け負う業務をスタートしたのも2010年ならではの出来事でした。

2010年年末には,作家の村上龍氏が立ち上げたG2010にも注目が集まったのも記憶に新しいところです。

このように,今,電子出版を企画・制作・販売を行う事業はプレーヤーの数が増え続け,戦国時代の様相を呈しています。

従来の出版ビジネスと電子出版ビジネスの比較

では,ビジネス的な観点から見た従来の出版と電子出版について比較してみます。

iPhoneアプリ化から始まったスマートフォン対応

2010年の電子書籍というと,iPhone/iPad向けアプリが主役の1つでした。とくに小説などの読み物を中心としたコンテンツ,マンガコンテンツが多数販売されたほか,電通とヤッパが取り組んだ電子雑誌販売配信サービスのiPhone/iPad対応といった取り組みにより,iPhone/iPadの登場が,読者にとって電子出版に触れる機会を大幅に増やしました。

ただ,この動きの中で,従来のビジネスと大きく異なったのが,Appleが展開するAPPストアからでしか販売ができないという制約でした。そのため,詳細な販売価格の決定権がない,流通経路が固定化されるなどの課題も見えました。また,制作面においても,iPhone/iPadで利用できる汎用リーダーの機能不足などが顕在化したことも挙げられます。

現在は,⁠ストア型課金」と呼ばれるWebを経由して販売する方式が採用されたり,また,後述する制作ツールの提供,専用リーダーのアップデートなどが今まさに進んでいる状況でもあります。

フォーマット問題とワークフロー

ePub,.book,XMDF……

2010年の電子出版に関して,ホットな話題となっていたのが「フォーマット」問題です。とくに,電子出版向け専用フォーマットとして,HTMLの流れを組む「ePub」の仕様策定が進んだり,また,日本国内で取り組まれているボイジャーが開発する独自のTTXフォーマットから制作する「.book」形式,シャープが取り組むXMLを拡張した「XMDF」形式といったものが国内の主流になる動きが見られました。

中でも,ePubに関しては次世代のバージョンであるePub 3.0の策定が2011年にも行われると予想されており,また,前述のJEPAが日本語版ePub 3.0の仕様策定に関わるなど,縦書きやルビなど日本独自の表現方式への対応が進むのではと,業界内での期待は高まっています。

その他,Amazonの独自形式であるMobiおよびAZW(MobiにDRMを実装したもの)や,今後Googleが展開を予定しているGoogle eBooksのようにWebベースにする動きにも注目したところです。

出版ワークフローに対する取り組み

いずれにしても,ビジネス的な観点,とくに出版社や既存のコンテンツを持っている立場からすると,

  • 過去の資産の電子化
  • 新規コンテンツの電子化

大きくこの2つに対応する必要があり,前者については現在の紙の出版の主流となっているInDesign形式からの電子化業務が早急に必要となります。この動きに対して,最も積極的に取り組んでいるのが,InDesingの提供元でもあるアドビ システムズです。

2010年10月に開催されたAdobe Maxというイベント内にてAdobe Digital Publishing Suiteの詳細な発表が行われ,2011年第2半期には正式リリースが予定されています。大きな特徴は,既存の出版ワークフローを踏襲しながら,電子出版物の特徴でもあるインタラクティブ性を活かしたコンテンツ制作,リッチな表現などを実現する機能が実装される点です。

2010年に登場した電子出版物の中で,とくに不得手とされていた雑誌タイプ(レイアウトが複雑なもの)の,制作ツールとして大きな期待が寄せられています。

このほか,日本のフォントベンダであるモリサワが提供するMCBookなども2011年さらなるアップデートが予定されています。

一方,読者が期待する新規コンテンツの電子化という観点では,従来の出版ワークフローを踏襲する必要性がないため,まったく新しいタイプのアプリケーションとして開発する動き,あるいは,後述のパブーやGoogle eBooksのようにWebをベースにしたコンテンツ配信の動きというのが潮流の1つになると,筆者は予想します。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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