新春特別企画

2016年のWebアクセシビリティ

この記事を読むのに必要な時間:およそ 2.5 分

あけましておめでとうございます。株式会社ミツエーリンクスの黒澤剛志です。本稿では,昨年に引き続いて,2016年のWebアクセシビリティの短期的な予測を寄稿させていただきます。

WCAG 2.0の今後

2015年はWeb Content Accessibility Guidelines 2.0(WCAG 2.0)の今後について動きがありました。2016年もWCAG 2.0をめぐる動きがいくつか出てくるでしょう。

WCAG 2.0は2008年にW3C勧告となって以来,これまで変更されていません。これはWCAG 2.0が特定の技術に依存しないガイドラインになっているためですが,その間にWebへのアクセス方法が急激に変わったことも事実です。また,W3Cによると認知障害および学習障害者から彼らのニーズをより良く満たすための提案がWCAG 2.0に対して行われてきたとのことです。

そこで,WCAG 2.0やサポート文書UnderstandingTechniquesのメンテナンスを行っているW3CのWeb Content Accessibility Guidelines Working Group(WCAG WG)は,追加の達成基準を拡張仕様(Extension)として定義する枠組みをつくり始めています。拡張仕様が利用できるようになると,それぞれの組織やコミュニティがWCAG 2.0と拡張仕様を組み合わせて,自分たちのニーズを含んだガイドラインを定められるようになります。

現時点では,拡張仕様に必要な要件の検討やいくつかの拡張仕様の検討が進んでいます。具体的な拡張仕様の検討では,モバイルデバイス向け拡張仕様と認知障害や学習障害者向け拡張仕様の動きが活発です。

モバイルデバイス向けの拡張仕様は,まだ最初の草案(First Public Working Draft)も出ていませんが,GitHubで作業中のEditor's Draftが公開されています。その中ではタッチ操作に関する要件や,操作できる部分が他の部分と視覚的に区別できる(ボタンがボタンであると分かる)要件が検討されています。

認知障害および学習障害に関するアクセシビリティでは,近年,W3CのCognitive and Learning Disabilities Accessibility Task Force(Cognitive A11Y TF)が活発に活動しています。2015年には障害の種類や影響をまとめたCognitive Accessibility User Researchの草案が公開されました(この文書はW3C勧告ではなくNoteになることを目指しています)。現在はUser Researchの結果と現実とのギャップ分析(Gap Analysis)が進んでおり,GitHubで課題の取りまとめのEditor's Draftギャップを埋める方法のEditor's Draftが公開されています。現在検討されている内容は,オンライン決済のありかたから文章の書き方まで多岐にわたっています。これらの内容をWCAG 2.0の拡張仕様として整理したり,足りない技術を仕様として標準化していったりするには更なる時間が必要だと感じていますが,今年も作業が進められることは間違いなく,要注目です。

Accessible Rich Internet Applications(WAI-ARIA)

2015年はWAI-ARIAの今後についても動きがありました。2016年も引き続き動きがあるでしょう。

現在W3Cで標準化されているWAI-ARIA関連の仕様は大きく,WAI-ARIA 1.0の後継となる仕様群と特定の分野やコンテンツで使われることを意図したモジュール仕様群にわかれます。このうち,WAI-ARIA 1.0の後継となる仕様は大きく3つあります。

Accessible Rich Internet Applications 1.1(WAI-ARIA 1.1)では,WAI-ARIA 1.0から存在するセマンティクスの調整と新たなセマンティクスの追加が行われています。既存セマンティクスの調整では,ランドマークに分類されるロールの変更など,後方互換性のないものもあります。本稿執筆段階におけるWAI-ARIA 1.1草案のランドマークの定義は,スクリーンリーダーのJAWSが持っているジャンプ機能(Region)に近いものになっています。一方,この変更によって,HTMLではsection要素もランドマークのセマンティクス(regionロール)を持つようになります。コンテンツの意味と関係なくsection要素を使う(div要素の感覚でsection要素を使う)ことの問題はこれまでも論じられてきましたが,今後は一層の注意が必要でしょう。

WAI-ARIAのモジュール仕様では,2015年に電子出版向けモジュールとグラフィックス向けモジュールの最初の草案が公開されました。

電子出版向けモジュールであるDigital Publishing WAI-ARIA Module 1.0では,出版物などで使われているセマンティクスが数多く検討されています。分かりやすいところでは概要,導入部,章,注記,脚注,Q&A,例などのセマンティクスなどがあります。

グラフィックス向けモジュールのWAI-ARIA Graphics Module 1.0は図版のパーツを表すセマンティクスが検討されています。ただし,支援技術のサポート状況があまり良くないことから,当初検討されていたセマンティクスの大部分は2.0に先送りされ,1.0の草案には,線や点といった図形の集まりを,家の図や電球の図といったまとまりとして扱うためのセマンティクスのみが含まれています。2.0ではまとまりの具体的なセマンティクス(グラフのX軸やY軸,寸法線など)が検討されています。

電子出版やグラフィックスのセマンティクスに関しても,ブラウザーなどが支援技術に対してどのようにセマンティクスを伝えるべきかを定義した仕様が検討されています。これらの仕様を見るとあることに気がつきます。それは,HTMLやWAI-ARIAの主要なセマンティクスは支援技術側にも対応するセマンティクスがあるのに対して,電子出版やグラフィックスはそうではないという点です。

例えば,リンクや表は支援技術側にもリンクや表のセマンティクスがあり,ブラウザーなどはHTMLやWAI-ARIAのリンクや表を,支援技術側のセマンティクスに変換して支援技術に伝えています。しかし,電子出版やグラフィックスのセマンティクスでは,支援技術側に対応するセマンティクスがないため,ブラウザーなどはWAI-ARIAのセマンティクスをそのまま伝えるという形を取っています注1)。このことは,Web技術が支援技術の取り扱えるセマンティクスを拡げていっていると言えるのではないでしょうか。2016年にはこの拡がりの実が結び始めることを期待しています。

注1
例えば,Digital Publishing Accessibility API Mappings(電子出版向けモジュールにおける,ブラウザーなどが支援技術に対してどのようにセマンティクスを伝えるべきかを定義した仕様)は,ほぼすべてのロールについて,role属性に指定された値をそのまま支援技術へ伝えることをブラウザーなどに求めています。Windowsの支援技術が使っているアクセシビリティAPIについてみた場合,IAccessible2(Mozilla FirefoxやGoogle Chromeなどが使用しているAPI)ではxml-rolesプロパティ,User Interface Automation(UIA;Microsoft Edgeなどが使用しているAPI)ではAriaRoleプロパティを経由して,role属性に指定された値がそのまま支援技術に伝わる場合がほとんどです。

画像の長い代替コンテンツ

2015年は(も)画像の長い代替コンテンツの指定方法をめぐる議論がありましたが,今年もしばらくは議論が続くでしょう。

HTMLで,画像の長い代替コンテンツを指定するlongdesc属性は2015年2月にW3C勧告になりました。WAI-ARIA 1.1の草案にも長らく,longdesc属性に対応するaria-describedatプロパティが含まれていました。しかしながら,現時点で最新のWAI-ARIA 1.1の草案には,aria-describedatはWAI-ARIA 1.1仕様から削除される方向であることが記載されています。

これはaria-describedatで代替コンテンツを指定しても,支援技術の利用者しか代替コンテンツにアクセスできず,支援技術を使っていないユーザーがアクセスできないのではないか,といった議論が行われたためです。そこで,HTMLのdetails要素とsummary要素を使ってマークアップしてはどうか,といった提案が挙がっています。ブラウザーがdetails要素とsummary要素を適切に実装していれば,支援技術の有無やデバイスに関係なく,ユーザーは長い代替コンテンツにアクセスできます。現時点では,Mozilla FirefoxとEdgeはdetails要素とsummary要素を実装していませんが,Mozilla Firefoxでは実装が進んでいますBug 591737)。一方で,WAI-ARIAで指定したセマンティクスをもっとブラウザーが活用し,支援技術を使っていないユーザーに機能を提供しても良いのではないか,という意見も出ています。

いずれにせよ,Webアクセシビリティを担保するための仕組みを,特定のユーザーや特定の状況向けの技術によって実現するのではなく,より多くのユーザーや状況をカバーできる技術によって実現したいという思いは一致しているように感じます。今年もWebのメインストリーム技術でより多くのコンテンツがアクセシブルになることを期待しています。

著者プロフィール

黒澤剛志(くろさわたけし)

株式会社ミツエーリンクス 第二本部第一部(アクセシビリティ)所属。業務では顧客のWebサイト診断やコンサルティング,社内制作物のチェック業務の他,アクセシビリティBlogの執筆なども行う。

コメント

コメントの記入