新春特別企画・2008年を展望する!

2008年のWeb標準

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あけましておめでとうございます。株式会社ミツエーリンクスの木達です。私はWebサイト構築の現場において,標準化された技術の適切な利用をエンジニアの立場から推進してきました。Webで用いられる標準技術を総じてWeb標準と呼びますが,私が注力しているのは主に(X)HTMLやCSSといったフロントエンド分野に属するWeb標準で,その多くはW3Cによって策定されています。本稿では,Webコンテンツ制作者にとって身近な存在である狭義のWeb標準に関し,今年2008年中にどのような動向が予測されるか,私見と期待を交え書かせていただこうと思います。

更なる標準準拠が期待されるWebブラウザ

かつてはブラウザ側の対応状況が芳しくなかったがゆえに,Web標準を用いたコンテンツ実装にデザイナーや開発者がなかなか踏み切れない時代がありました。しかしそうした時代も,Internet Explorer(以下IE)Mozilla Firefox(以下Firefox),SafariOperaといったメジャーなブラウザが揃ってW3Cの勧告仕様に準拠するよう開発を進めている今となっては,既に過去のものとなりつつあります。

2008年の上半期には,IE7よりも更にWeb標準のサポートを改善したIE8のベータ版が公開される模様です。Web標準にどれだけ忠実に準拠しているかを確認するための一種の指標として,私もメンバーの一員であるWeb Standards Project(通称WaSP)よりAcid2と呼ばれるテストが提供されていますが,IE8の開発版は先月12日にこれをパスしているのです。もちろん,Acid2がテストしているのはWeb標準と呼ばれるもののごく一部に過ぎませんが,先行してOperaやSafari,そしてFirefoxの次期バージョンの開発版が同じテストにパスしていることを考えれば,有意義ではないでしょうか。

IE以外のブラウザに目を向けますと,本稿執筆時点でOpera 9.5やFirefox 3,Widows版Safari 3の各ベータ版が公開されていますが,いずれも正式版のリリースが2008年中に期待されます。これらはいずれもWeb標準に良く準拠したブラウザですが,とりわけ標準化活動に積極的なOpera SoftwareのリリースするOpera 9.5は,個人的に非常に期待をし,また正式版のリリースを楽しみにしているブラウザです。

以上は主にデスクトップ環境を前提にしたお話でしたが,Operaは携帯電話や任天堂製のゲーム機上でも利用できますし,SafariはAppleのiPod touchやiPhone(どの通信キャリアからはさておき,今年こそ日本で発売して欲しいものです)上でも利用することができます。これら非デスクトップ環境向けのWebブラウザは,搭載ハードウェアの性能向上に伴い,レンダリング性能がデスクトップ環境向けと遜色なくなってきています。Webデザイナーや開発者の立場にとって,より多様なデバイスやソフトウェアからコンテンツを利用できるようにするためにも,標準技術を適切に用いた実装の重要性は,一層高まっていくことでしょう。

ゆっくりと,しかし確実に進むWeb標準の策定

Webの創始者にしてW3Cの現ディレクターを務めるTim Berners-Lee氏が,2006年10月に自身のBlogに書いた記事Reinventing HTMLに端を発し,目下HTML 5の仕様策定が進められているのは,業務としてWebサイト構築に携わっている方なら耳にしたことがあるでしょう。仮にスケジュール通りに標準化作業が進むとして,仕様が勧告されるのは2010年のこと。しかし今年中には,その最初の草案(Working Draft)が登場する予定です。もちろんHTML 5が登場したからといって,既存の(X)HTMLが使えなくなるわけでもなければ,すべての人がHTML 5を採用しなければならないわけでもありませんが,HTMLの未来に興味ある人にとっては注目の的でしょう。

HTML 5と並行してXHTML 2.0同1.1のSecond Editionなどのマークアップ言語がW3Cで策定作業中ですが,CSSについてはどうでしょうか? 勧告済みのものとしては,いまだ1998年に勧告されたCSS Level2が最新という状態です。同Revision1(CSS 2.1)は,昨年7月に勧告候補が出されていますので,今年中にCSS 2.1は正式に勧告されるのではないかと思います。もっとも,ブラウザ側の実装が先行してかなり進んでおり,またそうした状況を前提としたコンテンツ実装が浸透していますから,その影響は大きなものではないと思いますが。それよりは,モジュール化されたCSS Level 3の進捗が気になる方のほうが多いかもしれませんね。

CSS 2.1と同様,草案が出されてからなかなか正式勧告に至っていないWeb標準に,アクセシビリティ分野のWeb Contents Accessibility Guidelines(WCAG)2.0があります。1999年に勧告されたWCAG 1.0と比べ,特定技術に依存しない内容とするなど,大きな方針転換が図られています。それだけに草案段階から多くのフィードバックが寄せられているのが,策定に時間を要している最大の理由です。WCAG 2.0のステータスは,最終的な草案(Last Call Working Draft)が先月11日に公開されたばかりですが,年内に勧告されるかどうかは微妙な情勢です。

W3Cの仕様は,その策定プロセスにコンセンサスを重視したフローを採用しており,勧告までにはどうしても時間がかかります。その一方,草の根的に標準化が進められるもののなかには,よりスピーディな策定を実現しているものもあります。Web標準という範疇に括られる存在ではないものの,それに極めて近しいものの一つにmicroformatsがあります。microformatsは,既存の(X)HTML仕様を用いながらも,仕様にはないセマンティクスを提供するものです。Firefox 3ではmicroformatsのネイティブサポートが噂されているほか,2006年にMIXというイベントの場でBill Gates氏が言及したことからも知られるようにMicrosoftも関心を寄せているらしく,IE8での対応の有無が気になります。microformatsもまた ,引き続き要注目の技術要素ではないかと思います。

ブラウザの進化と共に変化する実装トレンド

(X)HTML文書では構造的かつ意味的なマークアップを行い,その視覚表現にはスタイルシートを用いる,Web標準に準拠した実装手法は,ブラウザ側のWeb標準サポートの改善や必要とされるノウハウの普及,学習コストの低下によって,既にWeb制作業界では一般化しつつあります。そうした流れは今後も継続,強化されるものと思います。Web標準への準拠はアクセシビリティを確保するうえで必要不可欠であり,SEO上のメリットが殊更に喧伝されることの少なくなった昨今においても,その重要性が変わることはありません。

またサイトの大規模化や運用業務の省力化に対する期待の高まりと共に,近年ではCMS導入のニーズが顕著です。多くのBlogツールもそうですが,CMSはあらかじめコンテンツとその視覚表現を切り分けて扱うように設計がなされているのが一般的で,つまり見た目はスタイルシートで制御する方式が当たり前となりつつあります。そういう側面からも,今後Web標準準拠はサイト構築の必須要件となることでしょう。

今年2月13日には,日本語版IE7の自動更新機能を用いた配布がいよいよ始まります。IE6のシェアはこれと対照的に下がる一方でしょうから,今後スタイルシート作成における対象ブラウザのベースラインとして,それまでIE6としていたところをIE7に変更するサイトが増えてくるように思います。

そうなりますと,IE6を理由にこれまで採用できなかった実装手法も,積極的に利用されるようになることが期待されます。たとえばスタイルシートを適用する際,IE6まではサポートされていなかったセレクタを活用することにより,文書にとって本質的には不要な(セレクタとして利用するためだけの存在の)要素やid/class属性を減らすことができ,以前よりもコンパクトなマークアップが実現できるようになるはずです。

また,ブラウザ間にあるCSSへの準拠の度合いや解釈の違いを逆手に取った「CSSハック」と呼ばれるテクニックは,ますますマイナーな存在となるでしょう。同一のスタイルシートで意図した通りの視覚表現がより多くの環境で提供できれば,ブラウザ間にあるWeb標準サポートの差異をスタイルシート側で吸収する必要性が減るわけです。ひいてはスタイルシート作成や,その品質保証にかかる工数を減らすことも期待できますが,これらはWeb標準準拠という方向性でブラウザが進化していることの恩恵といえます。

最後に,Web標準と深い相関はないのですが,ブラウザ進化という文脈において,ページ全体を拡大・縮小するページズームについても触れておきます。Operaがまず搭載し,そしてIE7でも採用された機能ですが,Firefox 3でもこのページズームが利用できるようになります。本稿執筆時点では,文字サイズのみを変更する選択肢を巡り議論の最中のようですが,こうした機能やユーザインタフェースといった部分でのブラウザ進化も,実装トレンドに影響を及ぼすことでしょう。たとえば,ページ上に文字サイズ変更ウィジェット(「大」「中」「小」のようなボタンでもって適用するスタイルシートを切り替え,文字サイズを変更する機能)が置かれているのを目にしたことがあると思いますが,こうしたウィジェットへのニーズは,2008年中に変化するかもしれません。

著者プロフィール

木達一仁(きだち かずひと)

宇宙開発関連組織でWebマスターとしての経験を積んだ後,IT業界へ。以後,ウェブコンテンツの実装工程に多数従事。2004年2月より,株式会社ミツエーリンクスに参加。現在は,R&D本部Web標準チームのフロントエンド・エンジニアとして従事。同社のW3C Advisory Committee Representativeを務める傍ら,Web標準の普及・啓蒙活動を展開している。Web Standards Project(WaSP)メンバー。

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