人工知能で明日のビジネスは変わるのか?

第3回 人工知能・機械学習の市場と収益

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今回は連載のタイトル「人工知能で明日のビジネスは変わるのか?」というテーマにふさわしく,人工知能もしくは機械学習とその市場もしくは収益について考えてみます。

人工知能でマネタイズできる分野

人工知能はいろんな切り口からの分類がありますが,前回の結びに書いたように「人間を超える」という部分がお金になるものと,⁠超えないけど人間より隈なく処理をする」という部分がお金になるものがあります。

人間を超えるもの

まず前者の「人間を超える」というケースです。

これはビジネスとして大変美しく,理想的です。人間ではできないことをやるのですから,そこに料金が発生するのも納得です。ただ,現時点ではこれはなかなかありません。

ディープラーニングによる画像認識は,人間を超える精度を出しつつあります。画像認識自体をどうお金に変えるかのほうが課題です。囲碁の棋力も人間を超えつつありますが,これもそのこと自体はやはりお金に変えられません。

ところで,精度というのは「人間を超える」というのが大変わかりやすい指標です。

これが「速度」になると,ちょっと微妙になってきます。処理速度にリミットがあって,それが人間には不可能なものであれば,これは「人間を超える」と言えます。ただ,人間より速くても,その速度自体に必要性がなければ(人間の処理速度でも許容範囲なら)⁠定量的には人間を速度で超えてはいますが「人間にできないことをやっている」とは言えません。すごいことはすごいですが。

人間よりも隈なく処理をするもの

先日のニュースで「人工知能が初めてがん患者の命を救う」というものがありました。

タイトルがちょっとあおり気味だと思いますが,⁠人工知能が診断した」わけではありません。ニュース記事の文章にも「人工知能が病気を見抜き」というような表現がありましたが,こういう表現は誤解を招くのでやめたほうがいいと思います。

膨大な症例や論文を入力しておいたため,⁠隈なく当てはまる病気をチェックできた」というのがその本質です。

もちろんそれはすごいことであってそれによって命が救われたのは素晴らしいことだと思います。人間だとそんなに隈なくデータをチェックし切れないので,人工知能が「速度によって」人間を超えたとも言えます。

一方で,もしかすると医師でもそれは時間をかければできたのかもしれません。ただそれだと治療が間に合わなかった可能性もあります。

つまり,こういうケースは「速度によって人間を超えた」と言えるかもしれません。もしお金に糸目をつけずに世界中の医師が総掛かりでチェックしたらその病気を治療が間に合う時間内で発見できていたとしたら,これは「人工知能が人間を超えた」のではなく,大幅なコストの削減,というほうがより正確です。

そのあたりは実際の診断の難易度と,許容されていた時間がわからないので,なんとも言えません。ただ記事によると,10分ほどで人工知能による診断の可能性が表示されたということですから,同じ時間を人間で達成できるとは思えないですが。

猶予が一週間あったら,人間でも可能だったのかもしれません。

理論値ではなく現実的なメリットとして考える

どのくらい時間をかけていいのかというのは,非常に微妙な線引きです。人間より速いというのが,不可能を可能にしているケースと,効率化のケースと,両方あるためです。

冒頭に挙げた,2つ目の切り口「超えないけど人間より隈なく処理をする」というのは,効率化に当たります。

ここで,最近普及している自動ブレーキについて考えてみます。これは処理としては人間ができないことをやっているわけではありません。あらゆるシーンに対応する精度で言えば人間の運転操作のほうが上でしょう。ただ機械ですから一瞬足りとももらさず動作するために,人間の運転による「ついうっかり」を防止することができるという点に価値があります。

「隈なく処理をする」「処理」に該当するのが,⁠ブレーキが必要そうなシーンでのブレーキ操作をする」であるといえます。

自動ブレーキの場合はちょっと違いますが,効率化というのはだいたい「費用を抑える」という目的で役に立つことが多いでしょう。費用的に現実的でないものが現実的になる,ということです。

わかりやすいところで,アソシエーション分析について考えてみます。⁠Aを買っている人はBを買っています」という,いわゆるAmazonレコメンドです。これは数式自体は単純なので,膨大なデータを人間が計算していっても実現はできます。

ただそれを実際に行うと,それによって得られる経済的メリットより費用のほうが上回ってしまうので,やる意味がなくなってしまいます。

現時点で人工知能や機械学習が活用されるのは費用対効果が見えるところ

人命はお金に変えられませんが,人工知能や機械学習が活用される多くのケースは,経済的メリットが目的です。経済的メリットが目的の場合,利益が費用を上回るかどうかという数字でハッキリわかる閾値があるため,人工知能や機械学習の導入で精度が人間を超えないとしても大幅に経済的メリットが生まれる(費用が削減される)というところに市場が存在することが多いでしょう。

これは,工場に機械が導入されるというのと本質的には同じですし,輸送にトラックや飛行機が使われるというのと同じです。メカニクスであれエレクトロニクスであれ,道具が人間の代わりを果たすことで大幅な効率化が行われることで利益が増える(もしくは提供価格が下げられる)という点に対して市場が存在するのです。

道具の進化によって効率化が進むのは,過去ずっと行われてきたことです。鉄の発見,電気の発見,印刷技術など枚挙に暇がありません。

人工知能もしくは機械学習の市場とは

まとめると,人工知能もしくは機械学習の市場というのは,2つに分けられます。

1つは「人間ではできないことを実現する」⁠もう1つは「人間より効率良く行う」というものです。

先ほどのがん患者のケースは,この中間と言えるかもしれません。また,どうやっても人間では出来ないケースというのは,まだ市場はほとんどないと思います。

人間だと現実的にできない(時間や費用を無視すればできる)分野が,当面の市場になることでしょう。

「人工知能がビジネスの効率を上げる!」だとあんまりすごく見えないので,⁠人工知能が不可能を可能にする」という表現が多いのではないかと思いますが,仮に人工知能をビジネスに活用するとしたら過大な期待を持たずに「道具の進化」と考えるのがふさわしいと言えるでしょう。

もちろん,テクノロジーの進化とともに,前者すなわち「人間ではできないことを実現する」ケースも少しづつ増えていくとは思います。

著者プロフィール

山崎徳之(やまざきのりゆき)

青山学院大学卒業後,アスキー,So-netなどでネットワーク,サーバエンジニアを経験。ライブドア(現LINE)のデータホテルを構築・運営の後,海外にてVoIPベンチャーを創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現 ZETA株式会社)を設立,代表取締役就任(現任)。ECソリューションの「ZERO-ZONE」シリーズとして検索エンジンやレコメンドエンジンを開発,販売している。

株式会社ゼロスタート:https://zero-start.jp/

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