ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第2回ありがちな「思い込み」~中途半端な"知識"はトラブルの

はじめに

会社の内と外とを問わず、第三者の著作物を無断で使ってトラブルになった当事者から、⁠こんなはずじゃなかったのに…」という相談を持ちかけられることがよくあります。

その中には、もっともだなぁ、と思われるケースもあるのですが、実は当事者が迂闊な"思い込み"で行動していただけだった、ということも決して稀ではありません。

巷では、⁠著作権」に関して様々な情報が飛び交っていますし、会社の宣伝部署や広告業界に代々伝わる「慣行」なんてものも現に存在していたりします。

我々ユーザーにしてみれば、自分たちが著作物を使う上で都合の良い情報や慣行には、ついつい飛びつきたくなるものです。

しかし、インターネットの普及により、誰もが"大量複製・大量配信"できるようになった今、コンテンツホルダーの側でも、ルールに反した利用行為への警戒感を強めており、それだけにトラブルのリスクも増してきているというのが現実です。

そんな時代だけに、ユーザーの側でも、世の中に出回っている情報や慣行が、著作権に関する(法律上の)ルールにきちんと根差したものといえるのか、単なる"思い込み"で自分たちにとって都合の良い解釈をしているだけではないか、といったことに、常に目配りしていく必要があるでしょう。

今回は、著作物の利用に伴うトラブルを未然に防ぐ、という観点から、著作権にまつわる「ありがちな"思い込み"」を検証していきたいと思います。

「営利目的じゃないもん!」

(1)

「当社のウェブサイトに来訪してくれた方へのサービスとして、先日の新聞向け企業イメージ広告で使った"カリフォルニアの大草原の写真"を加工し、PCのデスクトップの壁紙用に無料でダウンロードできるようにしました。カメラマンには特に断ってないですけど、別に商売しているわけじゃないから問題ないですよね?」

毎年のように研修でうるさく言っているせいで、さすがに最近では減ってきましたが、かつてはこんな相談が飛び込んできたこともありました(苦笑⁠⁠。

確かに、世の中で報道される「著作権侵害」の事例の多くは、未だに海賊版(不正コピー品)や模倣品の販売だったりするのが実情ですから、他人の著作物を使っていても、儲けさえ上げていなければ大丈夫、という考えに陥りがちです。

しかし、著作権法は「営利目的で複製すること」だけを禁止しているわけではありません。著作権が禁じているのは、あくまで、⁠権利者に無断で複製することそれ自体」なのです。

私的複製(後述)や、⁠引用」と評価されるような例外的な場合(これについては次回ご説明する予定です)を除けば、著作物のデッド・コピー(丸ごと複製)は、典型的な著作権(複製権)侵害行為として、権利者の許諾なく行うことを禁じられている行為にあたります。そして、複製物を販売して利益を上げているかどうかや、提供を有償で行っているかどうか、といったことは、原則として行為の違法性の評価に影響を与えるものではありません。

したがって、広告に写真を利用した際の契約条件等をきちんと確認することなく、著作権者(カメラマンや広告代理店など)に無断で(1)のような行為を行うのは、非常にリスクが高い!ということになります。

ちなみに、著作権法の中にも、⁠営利目的」かどうかが合法・違法の評価の分かれ目になるルールがいくつか存在しています。

例えば、以下のような規定です。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもってするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。⁠第1項本文)

著作権法第38条(営利を目的としない上演等)

美術の著作物でその原作品が前条第2項に規定する屋外の場所(注:街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所)に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

(略)

4 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

著作権法第46条(公開の美術の著作物等の利用)

しかし、第38条を例に取ってみても、個人がボランティアで行うイベントや、子どもの学芸会とは異なり、営利企業が行うイベントであれば直接・間接に何らかの"営利性"が付いて回るのが現実でしょう。

(2)

「公共のイベント広場に地元のアマチュアバンドを集めて、みんなで人気アーティストのラブソングを口ずさむライブイベント(参加費無料⁠⁠」

にしたって、それをどこかの会社の主催でやる、ということになれば、新商品のプロモーションから企業イメージの向上まで、事業活動に付随する何らかの"営利性"を見て取ることができるわけで、そこで演奏される曲目について何ら著作権の処理を行うことなくイベントを挙行するのは、やはり無謀と言わざるを得ません。

先に挙げた(1)にしても、無料ダウンロードサービスがサイトへの来訪者数増加→自社の商品宣伝効果アップ、につながることは十分に考えられますから、その意味でも避けられるべき行為だということになります。

「個人で楽しむだけですから!」

(3)

「自分のホームページに、マイナーな企業キャラクターを集めた『珍キャラ名鑑』というコーナーがあるのですが、そこに御社のキャラクターを乗っけてもいいでしょうか。友人・知人しか見に来ないようなサイトですし、もちろん広告も載せてません。自分の趣味で楽しむだけだからいいですよね?」

ここまで露骨ではないにしても、これに近い問い合わせがたまに来たりすることがあります。正直…困ってしまいます(苦笑⁠⁠。

著作権法の中に「私的な著作物の複製は違法ではない」というルールがあることは良く知られていますし、それゆえ、⁠個人で楽しむのであれば何でもOK」という発想につながってくるのかもしれません。

でも、著作権法の条文をよく読んでみましょう。

著作権の目的となっている著作物(略)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。⁠第1項本文)

著作権法第30条(私的使用のための複製)

ここで著作権が及ばない、とされているのはあくまで「複製」行為(及びこの規定が準用される「翻案」行為)だけです。

そして注意しなければならないのは、インターネット上に開設された自分のホームページに他人の著作物を掲載する行為は、単なる「複製」にとどまる行為ではない、ということです。

冷静に考えればわかるとおり、ひとたびホームページ上に著作物を掲載すれば、⁠理論上は)ネットワークにつながっている人なら誰でもそれにアクセスすることが可能になるわけです。そうなると、これは立派な「公衆」への「送信」行為といわざるを得ません。

したがって、著作権法30条の文言上カバーされないのはもちろん(著作権法上、⁠複製」「公衆送信」は異なる概念です⁠⁠、そもそもこのような場合に著作物の利用を"私的"という範疇にとどめて考えること自体もはや不可能、ということになってきます(実際に閲覧している人が多いか少ないか、というのは、少なくとも侵害にあたるかどうかを判断する場面では大きな意味を持ちません⁠⁠。

ちなみに、⁠公衆送信」の定義は、以下のとおりです。

公衆送信 公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が2以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。

著作権法第2条1項7号の2

「公衆」「特定かつ多数の者を含む」⁠第2条5項)もの、と定義されていますから、閲覧できる人が物理的に限定されるSNSのようなツールを使った場合は、著作権法上セーフとなる余地がないわけではありません。

しかし、⁠多数」「少数」か、の境界線すら明確になっていない現状では、ホームページに著作物を掲載する行為のリスクが極めて高いというのは間違いないところです。

なお、これに似た「思い込み」として、

「社内で使うだけですから・・」

というのもあります。

しかし、会社の中で使う、といっても、社内LAN上の情報掲示板に乗っけたりしようものなら、もはや単なる「複製」の域を超えてしまいますし、仮に特定の社員向けに少部数のコピーをとるだけだとしても、⁠私的」の要件を満たすかどうかは微妙なところです。

したがって、リスクヘッジの観点からは、⁠社団法人日本複写権センター」のような著作権管理団体と契約するなどして、憂いを減らしておくのが得策というものでしょう。

なお、⁠個人で(社内で)使うだけなら大丈夫」という"思い込み"がこれまで通用してきた背景には、権利者側がそんな瑣末なものにまでいちいち権利行使してこなかった、という歴史的事実(笑)もあったものと思われます。
しかし、インターネット上の著作権侵害コンテンツへの監視の眼は年々厳しくなっているようですし、昨今では「社内LANへの雑誌記事掲載」ですら訴訟になって、無断掲載したユーザーが損害賠償を命じられてしまう状況ですから(注:東京地裁平成20年2月26日判決参照⁠⁠、注意を払うにこしたことはありません。そんな状況が果たしていいことなのかどうか、ということは別として。

「著作物だとは思わなかった!」

(4)

「近所の工事現場で、仮囲いに『工事中!』表示が張り付けてあるのをたまたま見つけたので、少し改良して自分のホームページの工事中のページに使っています。一般的な案内サインだから著作権は問題にならないですよね?」

これはちょっと難しい問題です。

世の中に出回っている典型的な著作物(例えばアニメのキャラクターなど)には、"これでもか"と言って良いほど、©マークが付されていて、権利者が積極的に自己主張していますから、それが著作物であることはすぐにわかるのですが、そうでない「著作物」も街中にはたくさんあふれています。

人物や何気ない風景を撮影したスナップ写真が目の前にあったとして、普通はそれが「著作物」だなんてことは意識しないでしょうし、誰が撮影したかなんてことも気にしないはずです(仮にどこかに転載するとなれば、映っている人物には確認をとるでしょうが⁠⁠。

しかし、今はそんなスナップ写真を、映っている人物を紹介するために出版物に掲載した行為が(撮影者の)著作権侵害にあたる、という衝撃的な判決(東京アウトサイダーズ事件・知財高裁平成19年5月31日判決)すら出てしまう時代です。

取り上げた(4)のケースにしても、一般的なサインのように見えて、実はデザイナーが相当なこだわりを持っている、なんてこともあるかもしれません。

前回もご説明したように、著作権が発生する可能性のあるコンテンツの範囲は相当に広く、しかも、それらに実際に著作権が認められるかどうかを素人が判断するのは極めて難しい(裁判になるまで本当のところは分からない)というのが実情です。

したがって、著作権が発生する可能性のあるコンテンツについては、使用態様(私的複製など)からして明らかに著作権は気にしなくていい、という場合を除いて、"権利を持っていそうな人"の確認を取るのが無難だと言わざるを得ません。

「宣伝になるからいいんじゃない?」

(5)

「私が住んでいる地域を紹介するホームページを個人で開設しているのですが、最近できた飲食店のオーナーがアート好きで、自作の油絵を店内のあちこちに飾っています。この前お店に行った時にこっそり携帯カメラで撮影したので、ホームページに載せて紹介しようと思っているのですが問題ありませんよね? お店の宣伝にもなるし。」

「宣伝にもなるし」というのは、最近会社の中でも外でもよく聞くフレーズです。

"何となく著作権的にはマズいんじゃないかな…"と思いながらも、唱えるだけでやろうとしていることを正当化できてしまう便利なフレーズ、といったところでしょうか。

確かに、普通は、自分のところの商売や製品に関連するコンテンツをビジュアル付きで紹介してもらえば嬉しい、と思う人が多いと思います。いわゆる"アフィリエイト"関係のサービスなんかでも、商品を紹介する際には写真や関連画像がセットで掲載されるのが一般的です。

しかし、世の中にいろんな人がいますし、いろんな会社が存在します。

どういう形で自分の商売を宣伝するか、を決められるのは、商売をやっている当人だけ、というのは、あえて説明するまでもないでしょう。そして、良かれと思ってしたお店の紹介でも、それがオーナーの癪に障るような中身だった場合には、⁠無断で著作物を掲載した」という"違法行為"が最大の攻撃材料になってしまいます。

本当に好意を持って宣伝したいのであれば、宣伝される側にきちんと断りを入れるべきでしょうし、その際に、著作物の掲載(複製、公衆送信)の許諾も得ておけば済む話です。

その作業を割愛して、⁠宣伝にもなるし…」と言われてもなぁ、というのが、宣伝される側の率直な感想ではないでしょうか。

ついでに言えば、会社のキャラクターとか、商品のパッケージデザインといった類のもので、会社が著作権を管理しているものというのは、思いのほか少ないのが実情です(大抵のものは、契約上広告代理店や社外のデザイナーに権利が留保されているのが普通です⁠⁠。

取り上げた(5)のケースにしても、店内に飾っている絵は、実はオーナー自作のものではなく、知り合いの画家にお願いして描いてもらったものかもしれません。

そんな状況で、無断で著作物を使ってしまうと、宣伝してあげたつもりがかえって相手に迷惑をかけることにもなりかねないわけで、それゆえ、⁠宣伝になるから…」というエクスキューズもお勧めすることはできません。

まとめ

こうやって見てくると、

「なんだ、権利者の許諾をとらないと何もできないじゃないか。窮屈でしょうがない!」

と思わず声を上げたくなる方も出てくることでしょう。

でも、実際、⁠著作権」に関するルールを忠実に守ろうとすると、そういう側面がどうしても出てきてしまいます。

次回は、そんな窮屈な世界の中で、第三者の著作物を使った自由な表現がどこまで可能なのか、その限界を探っていきたいと思います。

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