ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第3回 ユーザーにとっての福音?-「引用」ルールの可能性とその限界

この記事を読むのに必要な時間:およそ 4 分

はじめに

前回までの連載の中で,他人の著作物を無断で利用することにはリスクが伴う,ということを繰り返しお話ししてきました。

もちろん,例外がないわけではなく,たとえば,「著作物」であっても,著作権法が明文で保護しない(権利の目的になることができない)と定めている「法令」「裁判所の判決」などは,誰でも自由に使うことができます(著作権法13条)。

また,

「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は,…著作物に該当しない。」

著作権法10条2項

という規定の存在からも分かるように,作成者の個性が表れていない創作物の場合,そもそも著作物に該当せず,同じものを丸々複製したとしても著作権侵害にはあたらない,とされる可能性があります。

先日,社会的関心の高い刑事裁判の「傍聴記」の一部がブログ上に無断で転載されたとして,「傍聴記」の作成者がプロバイダーに対して発信者情報開示や記事の削除を請求した事件のニュースが話題になりましたが(知財高裁平成20年7月17日判決,作成者側敗訴),これなどはまさに,転載した「傍聴記」「著作物に該当しない」ということが裁判所の判断の決定的な理由になったものです。

もっとも,著作権法13条は列挙されたごく限られた著作物にしか適用されませんし,「作成者の個性」の有無という問題にしても,どこまでが「事実」で,どこからが「著作物」か,という境界線は非常に曖昧です。

「著作物」と言えるかどうかの判断は,誰が書いたものか,によっても左右される可能性がありますし,創作性が乏しいものでも"丸移し"された場合には著作権侵害が肯定されやすくなる,といった相関的な判断が入り込むものでもあります。この辺の話題については,次回あらためて説明する予定です。

他人の著作物を利用して,自分なりの新しい表現や情報発信をしたいと思った時に,安心して頼れる拠りどころはないのでしょうか・・?

そこで登場するのが,今回ご紹介する「引用」のルールです。

「引用」というルールの存在

(1)
「自分が応援している作家の紹介記事をブログに書こうと思っているのですが,その際に,その作家が書いたエッセイの一節を使って記事を書きたいと考えています。このような場合でも,本人の許可を取らない限り,著作権侵害になってしまうのでしょうか?」

今は,個人,企業を問わず,インターネットを通じて容易に自己表現ができる時代です。そして,そのような表現や情報発信に際して,他人の「著作物」を取り込んで新たな創作物を再生産することも(以前に比べれば)技術的には簡単にできるようになっており,それがインターネット文化の一つの特徴になっているということができるでしょう。

自分のブログにネット上のニュース記事の一節を取り込んで論評する(そしてそのような論評記事をさらに引用して新たな論評を加える),といった類のものから,動画サイトに投稿されるパロディ動画まで,数え上げればキリがないくらい,今のインターネット上には,他人の「著作物」を利用したコンテンツがあふれています。

このようなコンテンツを創作することにリスクがある,というのはこれまでの連載の中でも説明してきたとおりですが,かといって,あらゆる形態での他人の「著作物」の利用が否定されたのでは表現活動を行う上であまりに不便ですし,「批評・評論」のように対象となる「著作物」が明確でなければ意味をなさない性質の表現活動の場合,活動自体が成り立たなくなってしまうかもしれません。

そこで,著作権法には,以下のようなルールが設けられています。

公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。(第1項)

著作権法第32条(引用)

ここでは「引用」という概念が用いられていますが,その意味は,世の中一般で使われている"引用"という言葉の意味とはちょっと違います。

例えば,俗に,"無断引用はいけません"などということが言われたりしますが,上記の条文にある「利用することができる」いうくだりは,「著作物」の権利者の許諾がなくても利用できる,ということを意味しています(著作権法32条は,本来著作権者が行使しうる権利を制限するための規定(権利制限規定)です)。

誤解を恐れずに言うなら,「引用」という行為は,"無断でできるからこそ意味がある"と言っても過言ではありません。

また,私的使用に関する例外規定(著作権法30条)とは異なり,「引用」が認められるための要件に,「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」といった限定は付されていませんので,理屈の上では,個人のみならず企業や団体による利用であっても,「引用」として認められる余地があることになります。

もっとも,「引用」は,著作権に関する様々なルールの中で,「例外」として位置づけられるものです。したがって,どのような形態であっても他人の「著作物」の取り込みが許されるというわけではありません。

ここからは,事例を交えながら,どのような場合に,「引用」として著作権者の許諾が不要になるのかをもう少し詰めて見ていきたいと思います。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。

コメント

コメントの記入