今回はECにおける検索として,検索の入力について考えてみます。
絞り込みという概念
先日,ある記者さんと会話していたときに,「アパレルは検索というより色やジャンルで選ぶことが多いですね」というコメントを聞きました。ありがちなコメントなのですが,大きな示唆を含んでいます。
結論からいうとこれは検索です。色やジャンルで絞り込みをしているだけです。
ただ,まだまだ一般的に検索というと「検索ボックスにキーワードを入れる」と思っている人が多いと思います。記者さんでさえそうなので,一般ユーザはその傾向がもっと強いでしょう。
ECにおける検索はドリルダウンが一般的
一般検索と違ってECにおける検索というのは,ドリルダウンが使われる頻度がかなり高い傾向があります。
旅行を例に挙げれば,日程→地域→金額→設備といった流れです。旅行という分野では,こういった操作はキーワード入力がなくても「検索」と認識されているような気がします。項目でドリルダウンしているのは,アパレルにおける色も,旅行における地域も同じなのですが,面白いですね。
他にも,スマホの位置情報によって付近のレストランやカフェを表示するのもこれは検索です。地域名称をキーワードとして入力して検索ボタンを押せば検索とはっきり意識するかと思いますが,地図で付近のお店を表示だと検索とは意識していない可能性はありそうです。
検索でもてなすためにはユーザを知ることが重要
これまでの連載でもたびたび触れてきたように,今後の検索は「おもてなし」の要素をもつECサイトのコンシェルジュとなっていきます。そのためには,極力多くの「ユーザの情報」を得ることが重要となるため,意識的なユーザの入力だけではなく,無意識なユーザからの入力ももらさず把握していかなければなりません。
いくつか例を挙げてみます。
キーワード | 明示的でかなり有効な入力 |
ドリルダウン | 明示的でかなり有効な入力 |
ウィッシュリスト | 明示的ではないがかなり有効な入力 |
購買履歴 | 明示的ではないがアイテムによってはかなり有効な入力 |
リファラ | 明示的ではないが比較的有効な入力 |
参照履歴 | 明示的ではないがケースによっては有効な入力 |
位置情報 | 明示的ではないがアイテムによっては有効な入力 |
ソーシャルグラフ | 明示的ではないがアイテムによっては有効な入力 |
これら以外にも,ヒートマップや画面遷移なども有効なケースがあります。
ちょうど先日,Amazonが注文前に商品を出荷するというニュースがありました。
これは検索コンシェルジュの考え方をとことん追求した1つの例です。予測出荷と検索に何の関係があるのか,と思うかもしれませんが,「ユーザの行動から購入しそうな商品を予測する」というのはまさに検索コンシェルジュが持つべきロジックと同じです。
キーワードやドリルダウンは,相当強力でかつ「そのとき」有効な入力なので,これらがECからなくなるということは絶対にないと言えますが(※),キーワードやドリルダウン以外の「無意識の入力」をどう活用するかが今後のECの差別化の一因となっていくのは,ECを利用するユーザの裾野が広がることを考えても至極当然のながれというか必然の流れであると言えます。
個人情報の扱いはどうなるか
以前から定期的に話題になるトピックとして,ユーザの個人情報の取得問題というものがあります。FacebookのBeacon,Gmailのメール内容の利用,Facebookのメッセージ内容の利用などが挙げられます。
こういったアクションには,多くのユーザがアレルギー反応を示すことが多いのですが,これらも適切に利用すればユーザにもメリットがある貴重な情報となる可能性を秘めています。だからこそFacebookやGoogleはそれらを利用することを常に考えているといえるでしょう。
実際,たまたま興味もないのにクリックした商品のリターゲティング広告が延々出続けるよりは,見つけてよかった!と思えるような商品が出るほうがユーザも喜ぶでしょう。
まだまだECは黎明期にあるため,なかなか受け入れられない部分もあると思いますし,そもそもプライバシーポリシーの運用もまだ未成熟な部分もあるため,これは今後解決すべき課題と合わせて,期待が大きい分野でもあります。
40bitのSSLのころはカード情報の入力にアレルギーを示すユーザが多かったのが,今は256bitになって安全度が上がったため入力されるようになったというケースが思い起こされます(ただし,これは,単に鍵長だけではなく,時代の流れによる精神的許容の変化という側面もあるでしょうが)。
ユーザの入力が,すぐれたECを育てる
筆者の予測としては,ECサイト内のユーザの行動は,100%把握していくような流れになっていくと考えています。そしてそれに加えて,ソーシャルサービスなどの外部サービスや,メッセージングサービスなどのコミュニケーションをどうECに取り込んでいけるかが鍵になると思います。
そのためには,ユーザからの信頼を獲得しなければなりません。それにはやはり,優秀なロジックを実装して,ユーザが実際に喜ぶ商品を選択して提案する必要があります。コンバージョンしないようなクリック収入だけを期待するようなSPAM的アプローチではユーザーは離れていってしまいます。
実体験として,Amazonからのメールは,それまでのECにはない「実際に知ってよかった商品」が掲載されていることが多く,これは筆者はかなりショックを受けました。
これまでの連載で述べてきたような,検索のコンシェルジュ化,レコメンドやビッグデータとの連携,これらはとりもなおさず「ユーザからの入力を最大限活用して,優秀なロジックによって最適な商品を提案する」ためのものです。
その流れの中で,オムニチャネルのようなオンラインとオフラインの連携も出てくるでしょうし,前回書いたような広告やSEOとの連携も増えていくことでしょう。
次回は連載の最後ですので,これまでの総括について書いてみます。