gihyo.jpキーパーソンインタビュー~気になる“あの”人に逢ってきた!

#03The Perl Foundation Richard Dice氏に訊く―Perlの世界、世界のPerl

2009年9月10、11日に開催されたYAPC::Asia Tokyo 2009の開催に伴い、The Perl Foundation Richard Dice氏が来日しました。今回、Japan Perl Association代表 牧大輔氏の協力により、インタビューを実施しましたのでその模様をお届けします。

図1 YAPC::Asia Tokyo 2009の会場にて。Dice氏と牧氏。
図1 YAPC::Asia Tokyo 2009の会場にて。Dice氏と牧氏。

Richard Diceという人物

Q:まずはじめに簡単な自己紹介をお願いします。
D:私は、カナダのトロントの出身です。The Perl Founcation(TPF)には2005年頃から活動して2007年から最近まで代表をしていたのですが、これから始める新しいプロジェクトに携わるにあたって一度代表の座を降りています。 それから、今回初めて日本に来日しました。とても大きく圧倒的な街ですね。しかも人がとても多いです。個人的に手こずったのは、地下鉄のシステム(の複雑さ)です(笑)

YAPC東京開催の意義、日本におけるPerlの価値

Q:アジア最大規模のYAPCが、ここ東京で開催されることについての感想をお願いします。

D:東京でYAPCが開催されることに関してはとくに驚くべきことではなく、自然なことであると思います。すでにアメリカでもYAPCは開催されており、シカゴでは400人もの参加者が集まっています。YAPCの参加人数は単純に開催都市の規模に比例するという傾向があるようですし、東京もシカゴと同じく大都市であり、イベント規模という観点では、このようにたくさんの来場者が集まるのはいたって自然なことではないでしょうか。

一方で、今回YAPC::Asia Tokyo 2009に参加してみて、他の地域のそれより日本の的Perlコミュニティが、より実用的な内容に踏み込んだものが多いように感じられておもしろいです。私が海外で見る日本のPerlハッカーというと宮川さんのように特定の方になってしまうのですが、今回、たくさんの他の日本人Perlハッカーに会えるのを嬉しく思っています。

牧:以前のYAPC::Asia でも海外のスピーカーに「日本のPerlハッカーのプレゼンテーションは海外のものと比べて、何かを説明するときに"HOW"(どうやって)より"WHAT"(それがなにか)を説明することのほうが多いね」と言われたことがあります。

Q:日本のWebサービス企業を見ると、Perlを採用した企業が多くあります。この点について何かご意見などありますか?

D:おっしゃるとおり、日本のほうがいわゆる「大規模」サイトでのPerl採用が多いと感じています。これは良いことですね。

しかし、実は世界で見てもいろいろな企業がPerlを使っていて、たとえばある保険会社を例に挙げると、そこは800人ほどの従業員がいて、300人のPerlプログラマが在籍しています。このような企業が表に出にくい理由として、まだまだPerl(を伝える)チャネルが少ないからだと感じています。

この点は、これから私たちが取り組んでいかなければいけない課題の1つです。

牧:私が勤めていた3,000人規模の会社も製品のビルドおよびQAツールを含む内部システムのほとんどがPerlで書かれており、ここに100名強のPerl技術者が在籍していました。当時の他の知り合いの会社でもそのような構成は、とくに珍しいことではなかったと思います。

大規模サイトでPerlが使われる理由

Q:なるほど。Perlという技術に対する露出が必要なのですね。前の質問をもうちょっとふかぼりしたいのですが、なぜ(そういった大規模サイトの)企業がPerlを採用していると思いますか?

D:とても良い質問であり、重要な質問ですね。

まず、私自身Perlという言語はとてもすばらしい技術だと思っていて、どんな分野でも適用できるものだと思います。これは、GUIを中心とした言語と大きく異なる点で、ユーザ向けのアプリケーションだけではなく、システムのバックエンドなどでも利用できるメリットとなります。

さて、今の質問にあった日本の企業が採用してくれているというのは、とても嬉しい知らせです。おそらく、Perlという技術というよりは、その周辺にあるライブラリ、CPANの存在が大きいのではないかと思います。さらに、環境を整えるツールや開発プロセスのためのツール、フレームワークなどが揃っているというのも、企業が採用するうえで大きい要因です。

逆に、Perlを利用していない企業では、たとえば自己流の開発スタイルを採用していたり、あるいはJ2EEのような、よりエンタープライズな方向に向かっているように思っています。

今話した、Perlを使うと開発プロセスまで網羅できる点は、これからもっと伝えてスタンダードにしていきたいですね。

牧:たしかに私が勤務してきた企業でも開発プロセスやビルドツール、QAシステムなどがPerlで書かれ、それらが連動して動いていました。私が対企業の講習などでPerlの利用の仕方について話すときもまずMekfile.PLの使い方、テストなどを含めた開発ツールの説明から始めることが多いです。なかなか表に出てこないPerlの利点の1つかもしれませんね。

The Perl FoundationのこれからとPerl6の展望

Q:少し質問の内容を変えて、現在、Dice氏が関わっているプロジェクトについて教えてください。

D:まず、大きなものとしてTPFがあります。昨年、過去最高となる20万ドルの寄付を受けることができました。これは、半分はPerl6の開発用途として、もう半分は、TPFそのものを良くしていくための資金として活用していきます。

現在、私が関わっているのがとくに後者のほうで、TPFからのPerlに関する露出を増やしたり、TPF内部に関しての組織強化、また、JPAなど世界の団体への働きかけなど、TPFの目的を達成するために尽力したいと思っています。

Q:Perl6はどうなるのでしょうか?ご自身が考える展望・考察などを教えてください。

D:Perl6については2つのテーマがあります。1つはスペック、1つは実装です。スペックについては1つしかなく、実装は複数あります。

まず、前者のスペックについてはほぼ完成していて、最後に残っているものとしてスレッド周りに関する開発が挙げられます。これは、実装を進めてテストを行いながら調整、修正を行ったほうが良いと思いますし、実際、他の機能を実装してから開発していくものと思います。

それから、スペックについては現在1万7,000のテストが存在していて、約70%がクリアされています。

一方、実装に関しては複数あり、TPFがサポートしているのがRakudo Perlです。すでに70%完成しており、2010年4月にはリリースされる予定です。Rakudo Perlについては、一度公開してからスペックテストを行い、安定化を図っていく予定です。

図2 編集部からのたくさんの質問に対し、気さくに答えてくれたRichard Dice氏。
図2 編集部からのたくさんの質問に対し、気さくに答えてくれたRichard Dice氏。
Q:最後に、日本のPerl Mongersへ一言お願いいたします。

D:まず、アドバイスというものはありません。Perlコミュニティがあること、これが最も重要なことです。

そのうえで、今回YAPC::Asia Tokyo 2009に参加して、とても実用的なセッションが多く見られました。多くが、アプリケーションやソリューションといったものです。他にも、技術にフォーカスしたものなども重要なので、今後はさらにそういった取り組みに期待したいと思っています。

そして、Perl Monger同士、お互いが高めあう関係だというのを知ること、これが重要です。私たちTPFとしても、これから周囲に認められそういった存在になれるよう、積極的に活動していきたいと思っています。

牧:JPAはTPFのようにまだPerlの開発そのものに直接関与するところまでは行っていませんが、 日本でのPerlの利用状況などをTPFなどの海外の団体に伝えたり、また逆に海外での利用状況や最新情報を日本に伝えるなどの形でTPFとともにPerlの利用を促進して行きたいと考えています。

―ありがとうございました。

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