キーパーソンが見るWeb業界

第18回 “拡張”する意義

この記事を読むのに必要な時間:およそ 6 分

画像

今回は,AR三兄弟として,ARを活用したクリエイティブを生み出す川田十夢氏をゲストにお迎えし,ARの本質,可能性,今後についてお話を伺いました。

川田 十夢(かわだ とむ)
Twitter:@cmrr_xxx
AR三兄弟

1976年生まれ,熊本県出身。大学在学中,自らがリーダーを務めるバンドのポスターやCDジャケットを手掛けるうち,デザイン事務所でうっかり経験を積む。卒業後は,メーカ系列会社に就職し,面接時に書きなぐった「未来の履歴書」の通り,自社Web広告のトータルデザイン,全世界で機能する部品発注システム,ミシンとネットをつなぐ特許技術発案,AdobeRecordsインタラクティブアート部門最優秀賞+ミュージッククリップ部門 優秀賞をダブル受賞するなど,人生を体現させていった。2010年5月,未来開発プロダクションALTERNATIVEDESIGN++として独立,自ら考案したAR三兄弟の長男として,マスメディアや物語の拡張など,奥行きのある活躍を続けている。最近では,書籍「AR三兄弟の企画書」を日経BP社より出版,初冠番組「AR三兄弟の野望」がNHKで放映されるなど,活躍と開発の場を増やしている。

http://alternativedesign.jp/

阿部 淳也(あべ じゅんや)
Twitter:@1pacfiresoul
1PAC. INC.代表取締役 クリエイティブディレクター

自動車メーカで車内のユーザインターフェース設計を約7年間手がけた後,IT部門で約4年間Webデザイン,Flash,CG制作とともに,テクニカルディレクターを経験。2004年よりCosmoInteractive Inc.に参加。多くのWebサイト立ち上げにプロデューサー,クリエイティブディレクターとして携わる。2008年にクリエイティブプロダクション「ワンパク(1PAC.INC.)⁠を設立し独立。⁠インターネットとリアルな世界を融合させ相乗効果を生むコミュニケーションをつくる」を合い言葉に,さまざまなクリエイティビティあふれるHOTな作品をリリースし続けている。

長谷川 敦士(はせがわ あつし)
Twitter:@ahaseg
株式会社コンセント 代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト

1973年山形県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(Ph.D)⁠ネットイヤーグループ株式会社を経て,2002年株式会社コンセントを設立。情報アーキテクチャの観点からWebサイト,情報端末の設計など幅広く活動を行っている。著書に『IA100ユーザーエクスペリエンスデザインのための情報アーキテクチャ設計』がある。武蔵野美術大学,多摩美術大学,産業技術大学院大学非常勤講師。NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事,情報アーキテクチャアソシエーション(IAAJ)主宰。株式会社AZホールディングス取締役。

森田 雄(もりた ゆう)
Twitter:@securecat
株式会社ツルカメ 代表取締役社長 UXディレクター

東芝EMIやマイクロソフトなどを経て,2000年にビジネス・アーキテクツの設立に参画し2005年より取締役,2009年同社退職。2010年ツルカメを設立し代表取締役社長に就任。IAおよびUX,フロントエンド技術,アクセシビリティ,ユーザビリティのスペシャリスト。米IA Institute会員。広告電通賞審議会選考委員。だれもが使えるウェブコンクール副実行委員長。内閣総理大臣賞,グッドデザイン賞など受賞多数。趣味は料理とカメラとアコースティックギター。

ARに取り組んだきっかけ

川田:僕はもともとJUKIというミシンメーカで特許開発をしていました。技術的なことばかり扱うのも飽きたので,どうすれば技術を面白く見せられるかを考えて,プログラミングと音楽の融合などを経て,AR(Augumented Reality:拡張現実)の世界に触れました。ARを知って,何か新しいメディアを作りたいと思ったのが,今に至る最初のきっかけです。

現在はAR三兄弟として,活動しています。他の兄弟二人は従業員なので,お金を払って兄弟になってもらっているんです(笑)

森田:ちなみに,僕は偽AR三兄弟なんですけどね(笑)

川田:そうですね。あのときは家入さん@hbkr)⁠山本ペロさん@pero_nmhg)⁠それと森田さん@securecatの3名でしたよね。あれも拡張の1つです。

ARに関しては,最初に10個ぐらいプロトタイプを作って,それを見た他のメディアが「これをやりたい!」って感じで声をかけてくれるのですが,そのまま過去の作品をなぞることはしません。それぞれのメディアの特性,たとえばテレビとか新聞とかに内在するAPIを発見して,その仕様に合わせてゼロから作るようにしています。

森田:まずそもそも,川田さんの考えるARってなんですかね?

川田:定義はいろいろあるのですが,僕が手掛けるものに関しては,何かが拡張されていれば,すべてARであるとしています。

阿部:本質的なところでは,拡張現実ではなくて,現実拡張,あるいは今ある領域を広げる,それがARのように感じています。

川田:その点は広告と同じで,内在するものを広げるのがARだと思っています。ただ,⁠広告と)違うのは自分たちが露出しすぎという点です(笑)

阿部:それでも,AR三兄弟自体が1つのメディアになっていますよね。AKB48とかと同じで。

川田:数では負けたくないので,今増やしています。100人超えたらイナバの物置(昔100人乗っても壊れないというCMをやっていた)にチャレンジしたいです。

阿部:なるほど(笑)⁠ARの話に戻しますが,僕がこれまで手がけてきたARは手段としてのAR,要はARアプリがほとんどです。ただ,現在の技術においては位置情報かマーカー前提になってしまうため,シミュレーション的な使い方にマッチするように感じています。

森田:たしかにWebのキャンペーンでダイレクトに活用するのは難しいです。

阿部:今の段階では,キャンペーンで使ったとして必ず最初に「マーカーをダウンロードしてください」とかなるとそこまでして本当にやるのかなと。そういった観点から見ても,今,AR三兄弟が取り組んでいるアプローチは本当にうまいと思います。

川田:ありがとうございます。僕たちは自分たちのARについて「システムを作った」とか言われたくないんです。だから,⁠拡張しました!(=価値が大きくなった)⁠というような表現を用いて。その気持ちが成果物に現れているのかもしれません。

長谷川:コンセントでは,AR単独に着目するというよりは,ARが入っているシステム全体のプロトタイプやコンセプトモデルを作っています。そこには,ARを含めたいろいろなものが織り込まれているわけです。なので,デザイナーにはまずARが普及した世界を想像できることが求められます。そのために,たとえば『電脳コイル』を観たり,あの世界観が日常になったときの想像力を持てるように,普段から心がけています。

川田:(⁠電脳コイル』とか)わかりやすいですよね。実は,僕はまだ観ていないんです。その理由の1つに,ARありきの世界も好きなのですが,ARじゃない世界からの何かを作りたいと思っています。たとえば,⁠ジョジョの奇妙な冒険』『キン肉マン』のようなマンガを見て,それをヒントにしたりします。⁠ジョジョ~』であれば,スタンドの場合,声や動きをマーカーに置き換えるわけです。

最近の活動の1つに,⁠笑っていいとも』に出演させていただいたことがあって,そのとき,まさに「人の動き」をマーカーにしたデモンストレーションを行いました。具体的には,タモリさんが観客に呼びかけて,観客の皆さんの拍手に対するリズムを取るアクションと同じように,⁠ユーザがカメラに向かってタモリさんのような動きをすると,観客の拍手音がする」というものです。他にも,オードリーの春日さんの「トゥース」というネタを使わせていただき,声に合わせて画面上に文字を出す「声の可視化」を行ったりしました。

森田:そう考えると,何がARかARでないのかという判断も大事ですよね。単なるリアルタイムレタッチなのかARなのか,という意味合いで。

川田:おっしゃるとおりで,ARは30年以上歴史があって,いろいろなARがあります。学術的な研究も多数あって,概念の設定が非常に複雑です。

ですから,自分たちの思いとしては,⁠僕たちがやっているものは広い概念としてのAR」だと認識されるようにしたいと思っています。

画像

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

Twitte ID:tomihisa(http://twitter.com/tomihisa/

コメント

コメントの記入