疾走するネット・ダイナミズム

第2回 web2.0 EXPOでティム・オライリーに聞いた――ウェブと既存メディアについて

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インタビューに答えるティム

インタビューに答えるティム

続いて「ウェブはテレビに置き換わるか?」という質問をしてみた。これについては,以下のような見解を述べてくれた。

「既存のメディアがなくなるとは思わない。人々はいまでもCDを聞くし,新聞も読む。ただし,ビジネスモデルは変わってくるだろう。インターネットはさまざまなメディアを集約するアグリゲートメディアとして働いている。メディアはおそらくロングテール化していくのではないだろうか。」

アグリゲートメディアという話は,先ほどの既存のシステムに影響を与えるという部分に通じるものだろう。すべてのメディアは,もはやお互いの存在を無視して成立しない。これはインターネット以前でも同じだ。しかし,ウェブは,それ自体メディアとしての機能も持っているが,それらを集約したり補完する機能も持っている。そして,集約機能を効率的に抽出できれば,ロングテールの効果が高まるということだろう。

「Web2.0型ビジネス」は万能か?

ところで,昨年のweb2.0 EXPOの基調講演では,ティムが聴衆に使っているブラウザを聞いていた。ヨーロッパではFirefoxユーザが多数派だったが,日本ではやはりIEが多数派だった。実際,このExpoでもスーツ姿の参加者やビジネス関係のセミナーも多かった。ティムのWeb2.0に関する論文は,ITバブル以後,生き残ったビジネスや成功事例を分類,体系化したものとしても紹介されているので,日本においてその真髄やビジネスのヒントを得たいと思った人がいても不思議はない。

しかし,Web2.0に限らずビジネスの成功事例やその分析は,参考になっても単純な解となるとは限らない。その再現性を高めるためにエンジニアリング的手法を導入したりするわけだが,製品開発やプロジェクト進行のためのメソッドやソリューションモデルがそうであるように,万能解は存在しない。個別のシチュエーションや変数が多様すぎて,モデリングやシミュレーションには限界がある。したがって,Web2.0といわれるしくみやシステム(CGMだったりデータベースだったりオープンアーキテクチャだったり)を導入しただけでうまくいくほどビジネスは甘くはない。いや,それだけで安心しているとむしろ失敗するといってもいい。

一般論として,実績のある手法のトレースは成功する可能性は高い。しかし,ビジネスや意思決定において失敗すると思ってその手段や戦略を選ぶ人はいない。成功者の影には失敗している人も多いと考えるのが自然だ。成功という結果とその行動や手法に相関はあるかもしれないが「因果関係」の証明は簡単ではない。Web2.0も同様ではないかと思う。月並みな表現だが,Web2.0はこれからのビジネスの必要条件かもしれないが,十分条件ではないということだ。

なお,余談だが,プロフィールにあるように,筆者はオライリー・ジャパンを辞めた人間だが,現オライリー・ジャパン社長,当時の社員諸氏ともいまでもつきあいがある。ティムも4年ぶりの私のことはもちろん覚えていてくれて,RBB PRESSというブランドで弱小ながら本を作っているといったら,素直に喜んでくれた。

著者プロフィール

中尾真二(なかおしんじ)

1961年生まれ。ハードウェア・コンピュータ技術者からアスキーに転職し,およそ10年ほど技術書籍・雑誌の編集に携わる。その後,オライリー・ジャパンで5年ほど企画・編集に従事。編集長時代に当時の日本法人社長とケンカしてクビに(笑)。現在はRBB TODAY,レスポンス他でニュース,コラムなどを編集・執筆。