スマートフォンに最適なCGMの設計や施策を紹介する前に、「CGMの構造と主要な役割」について確認しましょう。
一般的に、CGMは「投稿者ユーザー」「閲覧者ユーザー」「運営」の3つの役割でできています。
投稿者ユーザー
コンテンツを生み出す投稿者こそがCGMのキモで、これがなければCGMは成り立ちません。
全体のユーザー数に占める投稿者の割合は、投稿ハードルの高いサービスであれば5%、投稿のハードルの低いサービスであれば20%程度。スマートフォンのような投稿に適したデバイスを中心にしたサービスの場合、この比率は倍近くに高まることもあります。
反対に食べログ・クックパッドのように、特に閲覧者が多いサービスであれば、1%以下ということもあります。
サービス開始1年以内のCGMサービスであればだいたい5~20%に収まるでしょう(「反対に投稿しないと閲覧できないよ」といった制限を設けて、投稿者率を高めているサービスもありますが、それは別章で取り上げたいと思います)。
筆者は情報交換のためCGMを運営している方十数人とお話をしていますが、成功しているCGMの運営者は、この投稿者に肉薄して、ユーザー像の把握に努めていることが多いです。
個人的な意見ですが、グロースハッカーや投稿数改善チームのメンバーは、まず最初にこの「投稿者の把握」から始めるべきであると思います。すべての施策は、対象となるユーザーがいて、そのユーザーを知らなければ、施策もまと外れとなるからです(施策が打ち放題、思いついたらすべて実行してABテストをすれば良い、という恵まれたチームの方にとっては不要ですが)。
投稿者ユーザーを分類する
一言で投稿者と言っても、それを把握するのは難しいです。いくつかの基準を自分のサービスにあてはめて考えてみましょう。
分類としては、「投稿数や投稿頻度」を基準にして考えるものが一般的でしょう。いわゆるヘビー・ミドル・ライト投稿者という分類です。
投稿数や投稿頻度による分類としては、たとえば、Rettyのユーザーさんにも、
- 月1回くらい投稿する方
- 週に1回くらい投稿する方
- ほぼ毎日投稿する方
というパターンがあり、3.が一番少なく、1.が多いです。
その他にも、サービスを利用する「目的」や「地域」「投稿の内容」を基準にした分類などもあります。
- 目的による分類
- 自分のログを貯めて、便利に使いたい方(ツール派)
- 他のユーザーと情報交換をしたい方(情報収集派)
- 他のユーザーとのやり取りを楽しみたい方(コミュニケーション派)
- その他の分類
- 首都圏の方、東北の方、関西の方など(地域基準)
- ビアバーの投稿が多い方、カフェの投稿が多い方、ラーメンの投稿が多い方など。ファッション系サービスであれば、ガーリー、コンサバ、フェミニンなど(ジャンル基準)
- 投稿の文字数が多い方、写真の投稿が多い方など(内容基準)
また、スマートフォンという特性から、「シーン」という切り口もあるでしょう。
- シーンの分類
- 写真を撮影してすぐに投稿する方、まとめて後で投稿する方
- 出勤の途中に投稿する方
- お昼休みに投稿する方
- 就寝前にベットから投稿する方
サービスの種類や成長段階によって最適な分類基準は変わってくるでしょう。
運営者としては、これらのユーザーそれぞれのボリュームを把握しつつ、個性や感じ方、求めるメリットなどを知り続ける努力が欠かせないと思います。
- 「機能追加がコアユーザーの満足ばかりに偏っていないか?」
- 「地方のユーザーさんには満足してもらっているか?」
- 「Androidユーザーには、難しい操作なのではないか?」
以上のような自問自答を日々行えるように、ユーザー像の把握に努めることが重要です。
閲覧者ユーザー
投稿者が5~20%だとすれば、その他すべてのユーザーが閲覧者です。
閲覧者は、ユーザーに占める割合が圧倒的に数が多いため、ユーザーフィードバックなどの意見も多くなりがちです。運営者としては、それが閲覧者としての意見なのか、投稿者としての意見かを切り分けることができなければ、誤った施策を行うことにもなってしまいます。
サービスの立ち上げ直後の場合、限られたリソースを、投稿者に向けるべきなのか、閲覧者に向けるべきなのかを的確にジャッジすることが求められますので、この点は充分注意したほうが良いでしょう。
Rettyもサービス開始後は「お店を検索する」という機能が無く、ユーザーさんからの数多くのご要望をいただきました。グルメサービスとして当然あるべき検索機能ですが、本当に行きたいと思えるお店が見つかる機能を提供するのは、非常に難しいことです。その観点から「検索」は涙をのんで後にし、まずは投稿をしていただける方への利便性を追求するというジャッジを行いました。
とは言え、多くのサービスは、最終的には閲覧者をテコになんらかのマネタイズを展開することが多いと思います。そういった意味でも、長期的に閲覧者をどう獲得するかを考えるのは非常に重要です。本連載の主旨と外れますが、閲覧者の獲得方法とマネタイズもCGM運営の初期から構想すべき課題だと思います。
閲覧者ユーザー分類のポイント
閲覧者の分類としては、「見たいコンテンツの種類」「流入元」「地域」などがありますが、「閲覧者を投稿者にチェンジすること」が重要な初期フェイズでは、どんな閲覧者を集めるかによっての、投稿者の質も変わってきます。
その意味で、「投稿者となりうるか否か」という視点で閲覧者を分類することも大切です。たとえば、40代の大人ユーザーに投稿してもらいたいのに、学生ユーザーを集めてもしようがないので、大人向けのコンテンツを増やすなどが有効かもしれません。この場合は「年齢」で閲覧者を分類するわけですね。
運営
ここで言う運営はユーザーにとっての「運営」という存在についてです。CGMにおいて、主役はもちろんコンテンツとそれを生成する投稿者です。運営はそれを補助し、CGMの発展とともに生まれてくる問題を解決し、ときには投稿者を導き、さらにCGMが発展するためのスパイスを加えることが命題です。
- 運営の基本的なタスク
- 使い方に関する回答、ヘルプデスクの用意
- 投稿に対するジャッジ、監視(たとえば、サービスと関連しない内容ではないか、個人情報が記載されていないかなど)
- 不具合の修正
- ユーザーへのお知らせ
- 機種変更にともなうユーザーデータの移行
- 投稿では集まりにくい、投稿の元となるデータの整備(たとえば、クックパッドであれば食材情報、iqonであれば旬のファッションアイテムの情報など)
運営している会社にとっては、ユーザー数を増やし、収益を拡大することが念頭になってしまいがちですが、前述したとおりCGMは投稿者・閲覧者・運営の3者で成り立っています。
基本的なタスクは、ユーザーとしては当然必要なものですし、これが疎かになっているサービスに「愛着」は沸きません。特に頻繁にサービスを使うユーザーは、どういうスタンスで運営をしているのか、ユーザーへの対応が手厚いか、安心して使えるかという点に注目しています。「運営の対応に不満」「お金を儲けることしか考えていない会社だ」「もっとはやく対応してほしい」などの意見がアプリのレビューに書き込まれるサービスも多いですが、これも「運営」という役割を期待するユーザーの声といっても良いでしょう。
反対に運営としての基本的なタスクを、しっかりユーザーが安心できるような形で行うことで、ユーザーに愛着を持ってもらい、さらにサービスが拡大するというサイクルを回す事もできます。
Rettyを3年間運営してきた実感として、グロースハックや機能追加よりも、運営としての基本タスクをしっかりと行う事のほうが結果として良質なコミュニティ形成につながっていると実感しています。また、スマートフォンユーザーは、メール主体の遅い対応よりも、素早い対応を求める傾向が強いため、ヘルプデスクのレスポンス速度は非常に重要なポイントです。
トラブル対応も運営の重要タスク
リリース前に想定することは難しいですが、CGMには様々な問題が発生します。
- 発展とともに生まれてくる問題
- ユーザーどうしのトラブル
- 増えてきたコンテンツを見せるための、導線の不足
- ステルスマーケティング問題(ステマ)
- コミュニティを崩壊させるための書き込み(荒らし)
- 犯罪に関する書き込み
- システムの負荷
ユーザーどうしのトラブルなど、どこまで運営が関わるかというのは、サービスの種類やコミュニティの雰囲気によって異なるでしょう。
ですが、投稿者にとって直接的で大きなメリット(ポイントや金券など)がないCGMの場合、「トラブルの放置で運営に不信感をもつ」「ステマの書き込みで、コミュニティに不信感をもつ」「誰かの書き込みでシラケる」などの問題が拡大すると、投稿者が離れてしまいCGM自体が成り立たないという自体が発生してしまいます。特に頻繁にサービスを使うユーザーほどこれに敏感な傾向があります。
また「犯罪に関する書き込み」などは、社会的にNGとされている問題が一度でも発生すると、それに対応するコストも必要ですし、そもそもサービス閉鎖などの事態も考えられます。営利企業として、また多数のユーザーに影響を与える存在として、これらの事態を防止する仕組み、素早く対処する仕組みが求められます。Rettyでは専属のヘルプデスク、投稿のチェック担当が常時対応し、問題発生時にはサービス責任者の自分が即座に対策を打つ体制としています。
- CGMの発展のために運営が考えなければいけないこと
- コミュニティの雰囲気
- コンテンツの質、方向性
- 新規ユーザー、既存ユーザーの棲み分け、共存の方法
- 運営としてのスタンスを明確にすること
たとえばクックパッドなら「毎日の料理を楽しみに」というコンセプトのため、「楽しみになるようなレシピ」がコンテンツの中心になるように、規制や運営をしているでしょう。反対に食べログは「お店選びで失敗したくない人のためのグルメサイト」のため、「良いお店」だけでなく「失敗したお店」「悪いお店」も積極的に集めて、失敗例も共有できるようにしています。Rettyの場合は「おすすめのお店が探せる」がコンセプトのため、「おすすめのお店」を投稿して頂いています。
このようにコンテンツの質や雰囲気を決めるのに、運営の役割は重大です。最初に運営が目指すサービス像をユーザーと共有したうえで、その実現をユーザーに協力してもらえるような運営を行って行くのが理想と言えるでしょう。
以上、記載してきたような、投稿者・閲覧者・運営の特性・役割があるうえで、サービスの設計や施策を考えて行くことがサービス運営者には求められます。
次回は、こういったCGMの成り立ちに加えて、従来のCGMとは違う「スマートフォン」という端末を使って成功するCGMとなるための、企画・UI/UXの考え方について書いて行きたいと思います。