圏外からのWeb未来観測

第1回 頓智・CEO 井口尊仁

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透明な革命が起こっている

井口:私は実は「アンカテ」のファンなんです。今日の対談も楽しみにしていました。

中島:それはありがとうございます。

井口:「Web の革命は複利でやってくる」注3というようなフレーズが印象に残っているのですが,おっしゃるように,今は革命が透明化してると思うんです。Googleが何かをやると,地球のどこかで何万人という人が職を失う。そういう暴力的革命が世界中で起こっているのにもかかわらず,実際に人が死んだり倒れたりということはあまりない。そして,そういう現象がカオティックに(数学的なモデル化ができない複雑な連鎖の中で)起こるから,北米で起こったことが北米でなくまったく違うところに波及する。ドミノの倒れ方が見えない。そこで起こっている創造的破壊というべき変革が透明化しちゃてる。不可視になっていて,あまりにも凄い速度でしかも物理的現象を伴わない形で進行しているんで,革命的状況が見えない。これはどう伝えたらいいんですかね。我々の仕事の中では,そういう「透明な革命としてのインターネット」っていうような話を,インベスターやパートナーに説明して理解してもらう必要があります。これはなかなかたいへんです。それは我々だけの問題じゃないと思うんですよ。日本の企業も政府も,今進行している不可視の革命に,あまりにも無防備無関心で,非常に危機感を感じます。

中島:それはまったく同感です。

井口氏と聞き手である中島(essa)のツーショット

井口氏と聞き手である中島(essa)のツーショット

注3)
複利で効くイノベーションの中で生きるということ

ある日「降ってきた」セカイカメラのビジョン

中島:そもそもセカイカメラを作ろうとか会社を興そうというきっかけは何だったんでしょうか。

井口:今やってることは僕にとっては呼吸することみたいに自然なことで,自然なことだけにかえって説明が難しいことなんです。ちょっと長い話になりますけど,いいでしょうか。

中島:もちろん,そこはじっくりお聞きしたいです。

井口:僕は哲学が大好きでかつプログラミングが大好きなんです。人文科学が統合的に人間の創造性を喚起すべきだし,それがどんどん歴史を作っていくべきなんだと痛感します。コードを書くことと哲学を学ぶ,哲学的思念を広げることが同一義だった,プログラムのコードを通じて世界を表現することと,哲学者が世界を書物のように語る,その行為は表裏一体,同一の行為だと思っていました。哲学者のライプニッツが,⁠世界は記述し得るし演算し得る」と言っていますが,書かれてそこに焼きつけられた言葉で世界を語るって,もうその時点で死んでるわけじゃないですか。ロジックっていうのはいくらでもシミュレーション,再組み換えできるし,シムシティみたいにあるゆるものは常に動いて,変転しています。それを書き残してプリントした段階でそれはもう死んじゃっている。ハイパーテキスト,ダイナミックなテキストの世界こそが,人間の思念や思考において,より自然だし当たり前なんだ。そんなことをずっと考えていたのが,あるとき,突然スパークしたんですね。ある日,バイクで気分転換に走ってくるかと思って寮のドアを開けたときにですね,頭の中でスイッチがカチッと入った。本当にカチッと音がしたような気がするんですけど,世界中がすべてコードで書き得るってことに気づいたわけですよ。瞬間的になんか悟ったようなそういう経験があって。セカイカメラって,見たまんまで,かざしたときに,この人はどういう人なのか,この会社はどういう会社なのか,この商品はどういう商品なのか,この店がどういう店だっていうことがパっと見てわかる。それはもともと自分の哲学体験っていうか,プログラムコードで世界はすべて書き得るという直感に非常に正直に結び付いてまして,というと変ですかね。

中島:それは現在のセカイカメラというより,専用デバイスになった究極のセカイカメラをイメージするとわかりますね。モックアップを作られたという話を読んだんですが,見せていただけないでしょうか。

井口:ああ,それはこれです(写真参照⁠⁠。これで人にタギングしたりとか,物体にタギングしたりとか,建物にタギングしたりとか,すごく自然でしょ。有機ELは基本的に発光体が透明なんですよね。今のセカイカメラはカメラでキャプチャしたものをビデオにアウトプットしてるわけです。これは無駄でしょ。だって見えてるものを出すって変じゃないですか。電力の無駄使いで意味がない。

セカイカメラ専用機のモックアップ

セカイカメラ専用機のモックアップ

中島:すばらしいですね。これ見たかったんですよ。記事で読んで,今日行ったら絶対見せてもらおうと思ってて。

ミュージックデバイスのモックアップ

ミュージックデバイスのモックアップ

井口:あとこれは,モックアップを作ったときの切れ端で作ったんですが,音楽データをエアタグで配信しておくと,空間の中に音楽を置いておける。それをピックアップして,このデバイスにコピーすれば,空間から音楽をデリバリーしてデバイスで聴くことができる。空間そのものがデリバリーのチャンネルになります。スターバックスでコーヒーを飲んでて,ふとシャーロック・ホームズを読みたいなと思ったときに,そこにバーチャルな書棚があれば,そこでホームズを読むこともできるじゃないですか。それはインターネットを通じてホームズを買うっていうのとは違う体験なんです。ARAugmented RealityってUI として有望で,自然にマッシュアップできるわけですよ。そこに紐づいている情報をただ見ることで,マッシュアップできる。僕等の場合は特にゲーム性とか,ソーシャルゲーム的な特性を通じて,人がその空間を楽しむ。それから,その中にボット的な仮想生命体を導入して現実空間にもっとこう,ライブ感っていうか,そこに息づいてるっていう感じをもっと与えたい。透明なデバイスでかざしたとき,そこにあるものが持っているURI をすべてタップ可能にするわけです。僕はそれをクリッカブルワールドっていう言い方をしてるんですけども。

中島:クリッカブルワールド! それがセカイカメラの原点であると同時に未来像なんですね。

モックアップを眼の前にかざす井口氏

モックアップを眼の前にかざす井口氏

井口:新しいビジョンを提示して,新しい製品を作るべきだってことを言い続ける。そのことだけを自分のミッションにしようと今は思っています。10年自分で会社をやっていて思ったことなんですけれども,僕自身器用貧乏なところがあって,まあプログラムも書けますし会計的なことも,税務の申請なんかも,やろうと思えばできるんですけど,それはうまくないし時間もかかるんですよね。やっぱり得意なことに特化したほうがいい。それを,頓智・をはじめるときにはっきり自覚しました。

中島:なるほど。お話を聞いていて,長い間の紆余曲折がそこに集約されているように感じます。

著者プロフィール

中島拓(なかじまたく)

ソフトウェア技術者として,汎用機上での大規模プロジェクト,ミニコンによる制御システム,パソコン用のパッケージソフト,オープンソースソフトウェア(Amrita,ReviewableMindなど)といった,幅広い分野での開発に携わる。アンカテのブロガーとして,2006年アルファブロガーに選出される。現職 株式会社ブレーン 研究部長

アンカテ:http://d.hatena.ne.jp/essa/