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第6回 Webデザインにも「心地良い裏切り」を―non-intentional communication design―(その2)

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中間ドキュメントの重要性

「つなぎとしての」中間ドキュメント

武蔵野美術大学造形学部
デザイン情報学科教授 今泉洋氏。
「何がリソースと表現をつないでいるのか
っていうのがテーマ」

武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科教授 今泉洋氏。「何がリソースと表現をつないでいるのかっていうのがテーマ」

今泉:

つながりっていうとね,お借りした本※1もそうなんですけど,わりと「人と人との」つながりってなっちゃうことが多い。でも,僕の最近のテーマはちょっと違って,何がリソースと表現をつないでいるのかっていうのがテーマなんですよ。

前田:

あー,その話すごく気になりますねぇ。

今泉:

具体的に言うと,いわゆる中間ドキュメントってやつ。美大では学生はモノを作らなきゃいけないんですけど,うちの学科では,それと同時に,モノを作るプロセスをとにかく記述しなきゃいけない。記述しない限り,表現だって認めないんですよね。

中間ドキュメントって,たとえば映画を撮るときの企画書みたいなものです。企画書を読んで,その話に乗りましょうっていう人が出てこない限り,モノってできないわけですよね。1人でお金貯めて映画を作ることもあるかもしれないけど,ほとんどの場合は他人がその気になって話に乗らない限り映画ってできないわけで,その人を乗せるための,リソースと最終的な表現をつなぐ,中間のつながりというかつなぎとしての中間ドキュメント。

別の例だと,たとえば,テニスラケットを世界で初めて考えついたときの絵,スケッチなんて残ってるんですよ。それも,ちゃんとした紙じゃなくてナプキンとかに書いたりするわけ。それってようは,自分のイマジネーションと最終的な製品をつなぐドキュメントなんですよ。そのドキュメントをどう作るかっていうのが結構重要だと思ってます。前に,図をご覧いただきましたっけ?僕が「ヒューリスティックサーキット」※2って言ってるやつの真ん中に中間ドキュメントがあるんですけど,あれなんです。

前田:

今の話はすごくネットサービスの話とも近いです。たとえば,僕は『関心空間』を作るときは,中間ドキュメントなしに作っちゃたんですよね。そういうのがなくても作ってくれる友人がたまたまいたから作れたんです。

でも,だんだんネットサービスが大きなものになると,さすがに何のドキュメントもなしに開発のきっかけも作れないし。ネットサービスを維持発展させるために開発の仕様書だけでなく,サービスのコンセプトを伝える中間ドキュメントみたいなものが作れないかと考えていました。

今泉:

(ヒューリスティックサーキットの図を見せながら)こういう図図1なんですけど……美大って形を作ることをやっているわけですけど,作れば良いってものじゃない。本当は,作ってから気が付くことが大事。つまり,自分が形にして初めてわかることがあるんですね。それで,気が付いたらまた考え始めるわけですよね。「ここの線の引き方おかしかったな」とか。考えてまた作りますよね。そしてそれをまた形にして…って繰り返す。その考えるときに,いろんなものをよく読んでいないと,なかなか考えられないんです。昔は教養って言ってたけど,要は直接役に立たない雑学です。

図1 美術大学の機能 heuritic circuit(1)

図1 美術大学の機能 heuritic circuit(1)

たとえば専門学校に行っちゃうと,こっち(雑学)がなくなっちゃう可能性が大きいんです。美大に入ると,うちの学校なんて体育があるくらいですからね。心理学とか法学とか,マーケティングもやってるんですよ。ただ単に美術をやる,モノを作るだけだったら必要のないものも,やっぱり必要なんですね。

で,重要なのは,考えてから作るまでの間のプランの部分なんです。どんなものを作ったら良いのかを決めちゃう。これを決めないと,自分が本当にそれを作れたのかどうか,評価したり,その結果を反省できないんですよね。この図では,こっち側が自分の外でできること「体験」で,こっち側が自分の頭の中でできること「内省」ですよね。その間を何回往復するかが重要だって言ってます。

さらに大事なのが,この図の真ん中のあたり。「プラン」がこのように図2複数の人をつないでいることなんです。Aさんもクリエイティブに考えているし,Bさんも同じようにクリエイティブに考えようとしている…そこで彼らをつなぐのはプランなんですよね。これが絵コンテだとかプロジェクトシートなどのドキュメントになる。これをどうやって手に入れるか,つまりこれをどうデザインするかとか,どういうふうにこの中間に入るドキュメントを持つかというのが大事だということなんです。

図2 美術大学の機能 heuritic circuit(2)

図2 美術大学の機能 heuritic circuit(2)

※1
『ジンメル・つながりの哲学』菅野 仁著,NHK出版刊
※2
「自己発見的な回路」という意味。美大で行われているクリエイティブな活動を体験と内省の反復運動として捉え,それを図化したもの。

「らしさ」の規定

前田:

我々は構造物を作っているんだけど,ビシッって止まった構造物じゃなくて。その中心は絶対ブレないんだけど,他はちょっとずつズレていて…音楽でいうと,皆バラバラに演奏していて,毎回演奏するたびに音が違う感じ。でも,それに何かちゃんとした秩序を見せないと,らしさっていうのが見えないので,ものすごく困っているんです。「『関心空間』らしいね」っていうらしさのフチは,どうやって規定したら良いんだろうってことを。自分たちが作ったものなんだけれども,定義できないんですよね。

今泉:

多分それは,それこそ2ちゃんねるのまとめサイトみたいな感じで,「『関心空間』まとめページ」みたいに編集し直さないとできないと思います。だけど,自分で輪郭をはっきりさせるよりは,まとめの編集をうまく促すようなしくみを作ってユーザに輪郭を確かめてもらう。そして,そのなかにこそ発見があるということをわかってもらうほうが良いんじゃないかと思いますね。

前田:

そうですね。それが数百人規模のときは,みんなでたぶん確認し合えていたんだけど,数百万人規模になると,確かに編集物が必要で,それを作ることが紙の場合はすごいコストになるので,なかなかできないですよね。

今泉:

まぁ,まとめるってそういうもんですよ。たとえば今朝僕が起きてここに来るまでの話をし始めたらいくら時間があっても全然足りないくらいで。

ただし,ネットとずっと付き合っている人も,自分の生活のほんのごく一部しかタイピングはしていないですよね。僕はそれもちょっと問題だと思う。つまり,コトとしての自分というか,自分の経験が全部タイピングされたテキストの形でネットの中に残っていると考えるのはすごくおかしいなと思ってるんです。もちろん,最近は写真や動画で残している人もいるんだけど,もっと簡単に残す方法ってあるんじゃないか。たとえば僕が今ここに殴り書きしてますよね。こんなものが残るべきだと思うんですよ。ようはタイピングの文化に僕らがあまりにも意識を吸い取られすぎちゃって,それしかあんまり考えていないからまずいんじゃないかと思ってます。

(つづく)

著者プロフィール

今泉洋(いまいずみひろし)

1951年生まれ。武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科教授。武蔵野美術大学在学中よりライターとして音楽評論,ラジオ番組構成などを手がける。'80年に(株)アスキーの駐在員として渡米し,新しいメディアビジネスを調査。帰国後,新雑誌企画,ネットワーク番組制作などを経てコンサルタントとして独立。'99年の学科創設時より現職。


前田邦宏(まえだくにひろ)

株式会社関心空間 代表取締役。1967年兵庫県宝塚生まれ。1990年より公共機関や企業向けデジタルコンテンツの企画制作ディレクションに従事。1998年ユニークアイディ設立(現:株式会社関心空間)。2001年クチコミ情報コミュニティサイト「関心空間」を発表。同年に関心空間エンジンを利用したASP事業を,また2005年よりメディア事業を開始。

受賞歴:
2002年10月「関心空間」にてグッドデザイン賞新領域デザイン部門入賞。
2005年9月日本広告主協会WebクリエーションアウォードWeb人賞受賞。

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