新春特別企画

2010年のソーシャルWeb(後編)

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標準仕様の進化

昨年までのソーシャルWebに関する標準仕様は,主にソーシャルアプリケーションに関する仕様策定が中心でした。今年は,さらに多くの標準仕様の策定が進み,ソーシャルWebを強化するための土台が急速に整備されていく年となるでしょう。特に,アクティビティに関する仕様の策定が中心となると予想できます。

Open Stackのバージョンアップ

Web全体をソーシャルアプリケーションのためのプラットフォームとして機能させるために,一昨年にOpen Stackと呼ばれる仕様群が定義され,昨年は実際にそれらを適用した事例が現れました。Open Stackは,Open ID,XRDS-Simple,OAuth,Portable Contacts,OpenSocialの総称です。特に,OAuthとOpenSocialはよく話題になり,数多く耳にしたと思います。

今年は,個別に仕様のバージョンアップが行われ,さらに組み合わせた場合に適用しやすいように仕様の調整が行われます。これらは昨年も行われてきましたが,まだ模索段階であり,実サービスに適用されることはまれでした。例えば,すでにOpenID RPであるサービスがOAuthに対応したいと考えた場合は,OpenID OAuth Extensionがすでに策定されています。これの適用事例が登場するのも今年からでしょう。それは,OAuthへの本格的なサポートが今年から増えるという予測の元に考えられることです。OAuth自体も,OAuth WRAPという新しい仕様策定が始まっており,多くの環境にてOAuthが適用できるように各種プロファイルが規定されていくことになるでしょう。

また,OpenSocialは1.0の公開に向けて仕様策定が現在進んでいます。その内容の多くは,今まで不明確だった点の補正なのですが,やはり1.0という番号は特別な意味を持つことでしょう。またOpenSocialは,エンタープライズ領域においても適用され始めるのが今年と言えます。IBMやSalesforce,SAPなどによって,OpenSocialは新しいステージを迎えることになるでしょう。

さらに,Open Stackのほとんどは,PCを中心に考えられたものばかりです。携帯電話やスマートフォンなど,PCではないデバイスへの対応が進むのも今年であるということができるでしょう。

アクティビティに関する標準仕様の登場

ソーシャルアプリケーションやマイクロブログ,スマートフォンなどの登場によって,多種多様なアクティビティが生み出されるようになりました。SNSには,アグリゲーターとして,数多くの情報ソースからアクティビティが集められてきます。ユーザはSNSにログインするだけで,知り合いが何を考え,何をしているのか,集められたアクティビティを閲覧することで把握でき,常に新しい発見をし続けることができるようになりました。

しかし,残念ながら昨年までのアクティビティの収集は,かなり原始的なものであり,健全な状態とはとても言えないものでした。その理由として,以下があげられます。

  • アクティビティの投稿に関して,OpenSocialのActivities APIを利用するか,RSSやAtom Feedをポーリングするしか手順がない
  • アクティビティの取得に関して,OpenSocialのActivities APIくらいしか仕様が存在しない
  • 収集されたアクティビティに対するアクションについて,今まで何も考慮がない

特に3つ目については致命的です。アグリゲーターとして機能したとしても,ユーザ間のコミュニケーションはそこで終わりではありません。アクティビティに対してコメントを付けたくなることもあるでしょう。その場合,アグリゲーター上でコメントが付いたとしても,それだけでは足りません。そのコメントが情報ソース側にも送られて欲しいと考えます。アクティビティやそれに対するコメントについて,投稿,取得,返信などが複数のサービス間で非同期に連携している環境が必要です。それはブログのトラックバックに似ていますが,アクティビティやコメントについては,その発信者というソーシャル性が重要となります。

これらを実現するために,Open Web Foundationにて以下の仕様策定が進んでいます。

  • ActivityStreams - アクティビティの標準的な表現方法を規定
  • PubSubHubbub - よりリアルタイムにコンテンツ配信をするための方法を規定
  • Salmon Protocol - アクティビティとコメントに関する交換方法を規定

これらはドラフト版として既に提案されている仕様となりますが,今年はこれらの仕様を実装したサービスが次々と登場し,アクティビティとコメントがリアルタイム(ポーリングによる定期的な情報交換ではないということ)に交換される環境が構築されることでしょう。

これらの仕様策定には,Facebook,Google,Microsoftという非常に興味深い企業が関わっています。これらの名前からもわかる通り,アクティビティに関する動きは非常にオープンで標準を意識したものとなっています。これらの標準仕様によって,ユーザ間のコミュニケーションがさらに促進されるようになることが見えています。今年は,これらの仕様を実証するための試みが非常に盛んに行われる年である,ということができるでしょう。

2010年のソーシャルWebは…

昨年の動向と今年の予測について,ソーシャルWebをキーワードに紹介してきました。ソーシャルというキーワードは,今年は非常に重要な意味を持ちます。匿名性が特徴だった初期のインターネットはやっと終わりとなり,情報の身元がソーシャルグラフにより明確になった健全で非常に安全なコミュニケーションの場に進化する年になるのではないかと期待しています。さらに,このソーシャル性によって,よりインターネットが皆さんの生活になくてはならないツールになると確信しています。

すでにSNSやソーシャルアプリケーション,Twitterといったマイクロブログという形で,皆さんはソーシャルWebを体感しています。これをベースにして,今年登場するソーシャルWebの動きをぜひウォッチし続けてみてください。きっと時代の証人となることができるはずです。

著者プロフィール

田中洋一郎(たなかよういちろう)

株式会社ミクシィ所属。Google API Expert (OpenSocial)。Mash up Award 3rd 3部門同時受賞。書籍「OpenSocial入門」を出版。

URL:http://www.eisbahn.jp/yoichiro

著書