新春特別企画

2011年のソーシャルWeb(前編) −ソーシャルアプリ展望とソーシャルグラフ活用の本格化−

あけましておめでとうございます。ミクシィ よういちろう です。昨年は「ソーシャルアプリ」一色となった一年でした。本稿では、今年2011年のソーシャルWebがどうなっていくのかを考えてみたいと思います。

実は昨年も同じ記事を寄稿させていただいております。その内容と合わせてお読みいただくと良いかもしれません。

ソーシャルアプリケーション市場の拡大

昨年のインターネット業界において、ソーシャルという言葉は非常に大きく取り上げられることが多く、多くの人に認知された年となりました。その中でも日本において最も急成長した市場は「ソーシャルアプリケーション[1]⁠」分野であったことは、誰も異論はないでしょう。

その原動力となったSNSは、mixi、モバゲータウン、そしてGREEです。2009年にオープン化を遂げたmixiを追いかけて、モバゲータウンが1月に、そしてGREEが6月にオープン化に踏み切っています。この3つのプラットフォームは、技術仕様がほとんど同じであり、同一タイトルをほぼコードを変更することなくこの3つのプラットフォームにて展開することが可能です。これは、日本におけるフィーチャーフォン向けソーシャルアプリケーションの技術仕様「OpenSocial WAP Extension Specification」がOpenSocial FoundationによってOpenSocial v1.1に正式採択されたことによって裏付けられました。

さらに、どのプラットフォームにおいても、SAP(ソーシャルアプリケーションプロバイダ)がビジネスを行う上で重要となるアドプログラムや課金APIを最初から備えていたことは非常に注目すべきことでした。今ではソーシャルアプリケーション開発「のみ」で事業が成り立つ企業も当たり前となっています。

スマートフォンへの進出

2010年のソーシャルアプリケーションの提供デバイスは、ガラパゴス携帯と呼ばれる、JavaScriptやiframeがサポートされていない、いわゆるフィーチャーフォンが中心でした。mixiは早期からPCおよびフィーチャーフォン向けに、そしてモバゲータウンにおいてもYahoo! Japanと組んで「Yahoo!モバゲー」というPC向けソーシャルアプリケーション環境をリリースしましたが、ユーザからのアクセスの割合としてはフィーチャーフォンがそのほとんどを占めています。もちろんGREEを加えれば、その割合はより大きなものとなります。

この傾向自体は、2011年においても大きく変わることはないでしょう。今年のソーシャルアプリケーションの主戦場は引き続きフィーチャーフォンとなると思います。

ただし、2010年末から相次いで発売され始めたスマートフォンは、今年のソーシャルアプリケーションを考える上で大きなキーワードになります。非常に多くの技術的制約を受けざるを得ないフィーチャーフォンでは実現できないようなリッチな機能を、スマートフォンでは作り込むことができるようになります。現在はiPhoneの一人勝ち状態ですが、徐々にその構図は崩れ、Android陣営がシェアを広げていくと見られています。このシェア拡大は、同時にフィーチャーフォンのシェアが縮小していくことを意味しています(だたしそのスピードは騒がれているよりも小さいでしょう⁠⁠。

長期的に見たときに、スマートフォン市場に向けた投資をいかに早く行い、そして多くのSAPをその市場に参加させることこそが、オープン化したプラットフォームが進むべき道であると言うことができるでしょう。そして、その投資が本格化するタイミングこそが、今年になります。特にモバゲータウンやGREEのプラットフォーム上に展開されているソーシャルアプリケーションの傾向はゲームに代表されるエンターテイメントな性質のものであり、それらが望むリッチな作り込みを考えれば、この2つのプラットフォームにおけるスマートフォンへの対応は急速に進むと考えて良いでしょう。

現時点では、まだスマートフォン向けソーシャルアプリケーションの技術仕様は確立したものは存在していないと言えます。しかし、技術的な共通性が大きな市場を生み出すことは、フィーチャーフォンにおける市場形成を見れば明らかです。この流れを各プラットフォームが読み間違えることがなければ、2011年は日本が世界に先駆けて、ソーシャルアプリケーションのスマートフォン市場を構築する年になることでしょう。Webブラウザベースにおける展開はすでにmixi Platformが始めていますし、JavaやObjective-Cによるネイティブアプリケーションでの展開はGREEが昨年すでに表明しています。早ければ今年前半には、その方向性は見えるのではないでしょうか。

ゲーム業界のソーシャルアプリケーション市場への参戦

フィーチャーフォンに比べて、スマートフォンは豊かな表現力を持ち、そしてユーザにリッチな体験を提供することが可能です。昨年までのソーシャルアプリケーション市場に参加していた企業は、新規のベンチャー企業や、今まで自社でのインターネット事業を行ってきた企業がその事業内容をスイッチして参入したケースがほとんどでした。そして、ソーシャルアプリケーションという分野は、昨年のうちに多くの人々や企業に広く認識されました。つまり、今年はそういった新興企業ではない企業のソーシャルアプリケーション市場への参入が活発になるのではないか、と見ています。

特にスマートフォンへの対応を考えているゲーム提供企業などは、単にゲームタイトルをスマートフォン向けのアプリケーションとしてリリースするだけでなく、ソーシャル性を持ったアプリケーションとして各プラットフォームに展開することを考え始めるでしょう。SNSが持つバイラル性を期待し、より多くのユーザを獲得するために、ソーシャルアプリケーションという分野は非常に魅力的に映っているはずですので、ソーシャルアプリケーションへのチャレンジを行う企業は徐々に増えていくのではないでしょうか。もちろん、昨年においてもいくつかの試みがされていましたが、それが本格化するのは今年からではないかと思っています。

しかし、そのチャレンジのすべてが成功するかというと、残念ながらそうとは言い切れないでしょう。なぜなら、ソーシャルアプリケーションというものを理解することは、簡単なことではないからです。オンラインゲームやコンシューマ機向けにリリースされているゲームタイトルと、人気があるソーシャルアプリケーションとを比較してみれば、違いはいくつも見つけることができます。その差を把握し、理解し、そして開発するタイトルにバランス良く取り込んでユーザの心を掴むために、少なくともあと半年はかかると私は見ています。

ゲームというジャンルがこれだけ確立されている国は、そうないでしょう。日本のソーシャルアプリケーション市場への良い影響という意味でも、そして世界に通用する市場となるためにも、ゲーム業界の動向は目を離せない年となると思います。

プラットフォームのコンシューマ機への歩み寄り

ゲーム業界によるソーシャルアプリケーションへのアプローチとは逆に、ソーシャルアプリケーションプラットフォームがゲーム業界に歩み寄ることも、今年進むと考えられます。これは昨年に起きてもおかしくはなかったのですが、残念ながら各プラットフォームがそれを実現するまでに整備されるところまでは進みませんでした。

これは、ゲームタイトルそのもののソーシャル化ではなく、Xbox360やPlayStationなどに代表されるコンシューマ機とSNSとの連携を指しています。例えば、以下のような連携が考えられます。

  • あるゲームにてハイスコアやレアアイテムなどを得た際にそれがSNSにフィードされる
  • 同じゲームで遊んでいる友人のゲームの進行状況が、そのゲームの画面で閲覧できる
  • 同じゲームで遊んでいる友人に、アイテムをギフトとして送る

つまり、ユーザが所有するコンシューマ機との間にSNSが入ることで、情報のやり取りができるようになります。また、SNSが持つソーシャルグラフを通じて情報がバイラルすることで、その発信元となるゲームタイトルについても広く認知が進みます。もちろん、そこにユーザの感情が付加されれば、その効果はより大きなものとなるでしょう。

すでにFacebookやTwitterとコンシューマ機との連携は実現されています。コンシューマ機の普及率が非常に高い日本ならではの連携形態が、今年はニュースとなると予想できます。

市場規模のさらなる拡大

ソーシャルアプリケーション市場は、昨年は1,200億円(アイテム販売+広告収入)を超えたくらいの試算で着地したと見られています。これは2009年と比べて、3倍を超える数字です。

2010年の中盤において、昨年の到達規模の予測は、800億円を超えない程度だとされていました。しかし、モバゲータウンやGREEの参入は、さらなる市場規模の拡大をもたらしたと言うことができるでしょう。この規模は、2010年のテレビゲーム市場の着地予想である約4,780億円と比較すると、約4分の1に匹敵します。

今年は、スマートフォンやコンシューマ機を始めとした新しいデバイスの普及、そしてソーシャルアプリケーションの他市場への進出、という材料を背景として、さらに全体の規模は拡大を続けるでしょう。2011年の終わりには、2010年を倍近く上回る規模に成長すると言っても言い過ぎではないでしょう。

ただしこの数値予測には、DeNAやGREE自身がリリースしたソーシャルアプリケーションも含まれています。個人的な希望としては、各SNSがオープン化を遂げている今、他の企業がDeNAやGREE純正アプリケーションを上回る売り上げを達成するような活性化が起きて欲しいと期待しています。

ソーシャルグラフの活用

SNS、およびソーシャルアプリケーションの原動力は、言うまでもなくソーシャルグラフの存在です。昨年は各SNSがオープン化を「始めた」年であり、多くの企業や開発者がソーシャルグラフを扱うことに慣れていなかったと言えます。しかし、徐々にそのノウハウが蓄積されてきたことにより、今年は真の意味でソーシャルグラフの活用が本格化する年になると言うことができるでしょう。

ソーシャルグラフの積極的な開放

ソーシャルアプリケーションの開発を目的としたオープン化によって、多くの企業や開発者がソーシャルグラフを利用することができるようになりました。しかし、その結果開発されたアプリケーションは、mixi、モバゲータウン、そしてGREEのサイト内で動作するものとなります。つまり、開発できるアプリケーションに一定の制限があるという言い方ができます。

それに対して、より幅の広いアプリケーションが登場することを期待するため、各SNSのAPI化が昨年以上に促進し、その結果多くの開発者が自由にアプリケーションを開発し、その中でソーシャルグラフを利用することができるようになるでしょう。例えば、mixi Platformにて提供されているmixi Graph APIを想像すれば良いかもしれません。つまり、アプリケーションの動作環境としての枠組みの提供とソーシャルグラフの提供がセットであった昨年に対して、今年は後者のみが積極的に外部に提供されると予想できます。

ソーシャルグラフの開放は、インターネットのソーシャル化を行う上での第一歩であり、SAPだけでなく、インターネット上でビジネスを行っているすべての人がソーシャルグラフをどう利用するかを考え始める年になるという言い方ができるでしょう。

技術的には、今年もOAuthとOpenSocialが中心となります。特にOAuthにおいては、各プラットフォームがOAuth 2.0への対応を進めることでしょう。OpenSocialにおいては、すでにVersion 0.9にて一定のレベルに達していることと、日本ではRESTful APIの利用が中心であることから、今年はさほど動きはないかもしれません。

段階的なソーシャルグラフ利用への試み

とはいえ、ソーシャルグラフを活用することは、簡単なことではありません。いくつかの段階を経た上でソーシャルグラフは活用されるようになるでしょう。昨年のソーシャルアプリケーションの普及が第1段階とすれば、今年のソーシャルグラフの活用は、スマートフォン上で数多く行われることになると予想されます。既に主要SNSのすべてが、スマートフォン向けのWebサイトの最適化、そしてスマートフォン向けの公式アプリケーションの提供を昨年の内に完了していることも、そのことへの裏付けと言えるでしょう。

汎用的に利用可能となったソーシャルグラフや各種APIを利用することで、そのアプリケーションはソーシャル性を持つことになり、結果としてユーザに長く使ってもらえる可能性が高まります。さらに、ソーシャルグラフによってバイラル性が働きますので、使いやすいアプリケーションであれば、一気に多くの利用者を獲得することが可能です。単にAppStoreやAndroid Marketの新着やオススメに掲載された際のユーザ獲得よりも、SNSの性質が使われることで短期間に多くのユーザを獲得することができると考えられます。今までスマートフォン向けアプリケーションを開発してきた開発者がソーシャル分野にこぞって参入してくるのではないでしょうか。

そもそも、モバイル端末はユーザの最も身近にあるデバイスであり、ソーシャルとモバイルの相性は言うまでもなく抜群です。そして、友人とのコミュニケーションを促進するためには、リアルタイム性が高ければ高いほどその効率は良くなります。スマートフォンによってもたらされるプッシュ技術などの機能がソーシャルを組み合わされることで、ますますユーザ間のコミュニケーションが豊かになるはずです。開発者がこのことに気がつき、そして技術的なチャレンジや実用例が今年は進むものと考えられます。

そして、スマートフォンでのソーシャルグラフの利用の先には、インターネット全体でのソーシャルグラフの利用が待っています。今年の後半から末にかけて、よりインターネット上でのソーシャルグラフの利用の試みが増えてくると思います。さらに、効率的にソーシャルグラフを利用するための新しい技術仕様の登場も期待できるでしょう。

ユーザからの反発

さて、ソーシャルグラフの開放が今年進むと同時に予想される、非常に重要な事態に各SNSは直面することになるでしょう。それは、⁠ユーザからの反発」です。

ソーシャルグラフを開放するということは、APIにて取得可能となっているユーザのプロフィール情報や各種コンテンツを、アプリケーションの作者に渡すということに他なりません。今までSNS運営企業が提供している機能の範囲内で楽しんできたユーザは、⁠登録した情報はSNS運営企業の保護下に置かれ、第3者に渡ることはない」という意識を強く持っていると想像できます。しかし、ソーシャルグラフの開放は、その意識とは反対の結果となります。つまり、登録した情報がSNS運営企業外に渡る、ということになるのです。

このギャップをすぐに受け入れるユーザと受け入れることができないユーザの両方が存在し、特に後者のユーザはそのギャップを「不安」に思うことでしょう。そして、その不安を公の場で発言する、つまり奇しくもSNSが持つバイラル性によってその不安が広まることで、非常に多くのユーザを同じ気持ちにさせ、そしてSNS運営側が行うことへの反発という形で明確に表面化するという事態が今年は何度か発生するのではないか、と懸念しています。

SNSのオープン化によって、⁠外部の)開発者というアクターが追加されたことにより、ユーザが持つ情報の管理は単純ではなくなりました。既に昨年からこの状態は始まっています。ソーシャルグラフ上で共有されるコンテンツの公開範囲や、自分のプロフィール情報に関する閲覧範囲の指定をちゃんとユーザが把握し、それをコントロールすることが、今年は非常に重要になってきます。SNSは、何らか関係を持つ他のユーザと様々な情報を共有し交換することが価値です。そして、その価値をもたらしてくれるソーシャルアプリケーションの開発は、今後ますます多くの開発者が担うことになります。

この相反する状態をうまくバランスを取っていくことが、SNSの今年の課題であり、そしてユーザに対しても課題となると考えています。

(明日公開の後編に続く)

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