新春特別企画

2018年のスマートスピーカー

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通知に関する模索が始まる

スマートスピーカーといえば,⁠おっけー,グーグル」「アレクサ!」など,きっかけとなるフレーズをユーザが言う行為がとても特徴的です(個人的オススメは「おっけーぐるぐる」⁠荒木さん」です⁠⁠。これは,ユーザが能動的にスマートスピーカーを利用することを意味しています。少なくとも,昨年末の時点では,スマートスピーカーにユーザが話しかけるまで,スマートスピーカーは黙ったままです。じっとユーザに話しかけられるのを待っています。唯一の例外は,目覚ましなどの目的で使用される,アラーム機能です。

しかし,実はAlexa Skills KitやActions on Googleにおいて,既に通知機能が提供されています。

残念ながら,どちらも開発者が自由に利用できる状態ではなく,事前に申請するなどの手順を踏んで利用を許可してもらう必要があります。さらに,通知(Notifications)という名前が付いている機能ですが,スマートスピーカーがいきなり話し出すことはなく,以下のような振る舞いとなります。

  • Amazon Echo:通知が来ると,Amazon EchoのLEDが点灯し,効果音が鳴って通知を受け取ったことをアピールする。その後,ユーザが"Alexa, read my notifications"と話しかけることで,受け取った通知の内容が読み上げられる。
  • Google Home:通知が来ると,Googleアシスタントが存在するAndroid端末にOS通知としてユーザに通知を受信していることが伝えられる。その後,Googleアシスタント内で受け取った通知の内容が表示されるGoogle I/O 2017のKeynoteではAmazon Echoと同じような体験が紹介されていたので,Android端末への通知送信は暫定的な実装と思われる⁠⁠。

もちろん,これらは現時点での動作であり,近い将来はスマートスピーカーから通知内容を適切なタイミングでユーザに読み上げられるようになると考えられます。Amazon Echoの現状での動作がそれに近いように思えますが,例えばスマートスピーカーがユーザの存在を検知することができれば,部屋に入ってきた時点で話しかけて通知内容を読み上げるかどうか聞いてくる,などの動作を実現できるかもしれません。

スマートスピーカーからユーザに対して自然に話しかけて,受け取った通知をどうユーザに伝えるべきか,その適切な方法については今年中に一定の答えが出ると思われます。特に今年前半は,様々なアプローチが登場し,何がユーザに受け入れられるか,模索が続くでしょう。

スマートスピーカーでIoTが加速する

スマートスピーカーのテレビCMを見ていると,テレビの電源をON/OFFしたり,部屋の照明をつけたり消したりすることを,声によって制御している様子が含まれています。今までリモコンや壁のスイッチによって操作してきたテレビや照明を,声のみで操作できるのです。映画などで「未来の生活」として必ず登場してきた生活の姿が,やっと実現する時代に突入したと言って良いでしょう。

テレビや照明などの家電製品をインターネットに接続して操作することは,IoT(Internet of Things)と呼ばれる分野の一つとして語られてきました。様々なモノがインターネットに接続されることで,そのモノの状態を監視したり,遠隔地から操作したりできるようになります。IoTが示す範囲は非常に幅広く,具体的な例が今までなかなか出てこなかった印象が筆者にはありますが,スマートスピーカーの登場によって,IoTは一気に多くのユーザに近寄ってきました。

もちろん,スマートスピーカーを購入したからといって,テレビや照明などの家電製品がIoT対応になるかというと,残念ながら違います。スマートスピーカーから家電製品を制御するためには,現時点では以下の工夫が必要となります。

  • IoT対応の家電製品Philips Hueなど)を購入し,部屋に設置する。
  • 赤外線リモコンの代わりとなる機器Nature Remoなど)を購入し,部屋に設置する。

筆者の自宅は,Google HomeとNature Remoの組み合わせにより,照明,テレビ,そしてエアコンの制御を声で行うことができます。特徴的なのは,一言話しかけるだけで,照明がつき,テレビが流れ,そしてエアコンの電源が入ります。それぞれ別々にON/OFFを指示することなく,一気に制御ができるのです。さらに,例えば「映画を見るよ」と話しかければ,照明が自動的に暗くなり,エアコンが静音モードに切り替わる,なんてこともできます。

上記のことができるようになった後に,筆者の両親(高齢です)に対して,実際に声で制御を行って見せた時に,⁠あんたこれに数百万円かけたんじゃないでしょうね!?」と半分叱られました。実際には2万円程度です。それくらい,インパクトのあることが実現されていることだと言えるでしょう。

今までのIoTは,それぞれの機器がインターネットに接続されますが,それを制御するのはスマートフォンであったりPCであったりして,利便性としてはイマイチなものでした。どうせスマートフォンを手にする必要があるならば,リモコンや壁のスイッチを操作するほうが手間がかからないからです。しかし,スマートスピーカーの登場によって,声で制御することができます。これは,IoTに対してユーザフレンドリーなUI/UXがやっと整備され始めた,と考えて良いでしょう。

スマートスピーカーの販売台数の増加につれて,特に家電製品におけるIoT対応が今年は進むものと思われます。照明だけでなく,様々な家電製品が,本格的にインターネット接続に対応されるはずです。また,Nature Remoに代表される赤外線リモコンの代わりとなる機器についても,広く普及するのではないかと予想できます。

つまり,今年はスマートスピーカーが「IoT元年」をもたらすことになります。

スマートスピーカーの次は?

さて,最後にもう少しだけ未来のことを想像してみたいと思います。今年は,昨年よりも更にスマートスピーカーが話題になり,より多くの人々が手にし,そして多くのアシスタントアプリやスキルが開発され,エコシステムが大きくなっていくことでしょう。では,スマートスピーカーとは,リビングなどの部屋に置かれて利用されるだけのものなのでしょうか?

数年前に,Google Glassというメガネ型のウェアラブル端末が話題となりました。主に声を使って操作し,メガネに様々な情報が表示される,そんなデバイスでした。販売開始間近であることが盛んに伝えられましたが,結局一般向けに販売されなかったのが残念です。

このGoogle Glassですが,少し分析するならば,以下のようなデバイスだと言うことができます。

  • 入力:マイク,タッチセンサー,カメラ,赤外線や加速度などのセンサー
  • 出力:液晶ディスプレイ,骨伝導スピーカー

つまり,Google Glassは「全部入り」のデバイスであることがわかります。何でもできそうですが,それだけにプライバシーの問題など多くの問題を抱えていました。また,Google Glassが登場した当時のソフトウェアの技術がまだウェアラブルデバイスの実現に追いついていなかったことも,問題としてあげても良いでしょう。特に,自然言語での会話の技術は未熟だったために,Google Glassが想定しているユーザへのフィードバックは,液晶ディスプレイでの視覚的な情報提供でした。骨伝導スピーカーも搭載されていましたが,その用途は音楽を再生するための出力装置という側面が強いものでした。

Google Glassは,ハードウェアデバイスとして時代の先を行きすぎた,つまり人類にとっては当時はまだ早過ぎた,と言って良いと思います。

ところでGoogle HomeやAmazon Echo,そしてClova WAVEは,どれも小型のシリーズを持っています。Google Home MiniAmazon Echo DotClova Familyです。これらはすべて,手のひらにちょうど載る程度の大きさです。中に搭載されている回路に関しては,もう少し小さなサイズに仕上がっています。製品の形は,どれも部屋に置いて使うために適した形になっていますが,実際には(バッテリーのことを考えなければ)身につけてもギリギリ大丈夫な大きさに小型化を遂げることはできそうな印象があります。

さらに,現在ではスマートスピーカーが実証しているとおり,自然言語によるAIアシスタントとのやり取りが可能になっています。これは,Google Glassが頼っていた液晶ディスプレイがなくても,ユーザが機能を利用できることを示しています。入力についても,マイクや各種センサーのみでよく,カメラなどのプライバシー保護の観点で問題となりそうな機器を外しても,デバイスとして成立しそうです。

ここまで読んで気がついた方々も多いかと思います。筆者は,PC,フィーチャーフォン,スマートフォン,スマートスピーカー,と来て,次に来るデバイスは,Google Glassではなく,高性能イヤホン(スマートイヤホン?)ではないかな,と考えています。

すでにGoogleは,Googleアシスタントを利用可能な翻訳イヤホンPixel Budsを販売していますし,LINEからもMARSにClovaを搭載する予定であることを発表しています。もちろん,すでにAppleのAirPodsは,Siriを呼び出すことができます。

現在は,人々が歩きながら下を向いてスマートフォンを操作しています。今年から来年にかけて,もしかしたら比較的大きなイヤホンをして何かをつぶやきながら歩いている人を見かけることになるかもしれません。

今年は,部屋に置くスマートスピーカーの普及が進む一方で,スマートスピーカーの小型化とウェアラブルデバイスとしてスマートイヤホンの実験的な製品の発表や販売が始まるのではないか,と予想しています。これは筆者の個人的な希望が多く含まれた予想ですが,人々の生活を大きく変える可能性があるデバイスとして,早く自分の耳に装着したいと思っています。

まとめ

IT業界にいる方々にとっては,スマートスピーカー元年は昨年であるという印象があると思いますが,多くの人々にとってスマートスピーカー元年は2018年であると記憶されることになりそうです。

そして,多くの開発者がスマートスピーカーのアシスタントアプリやスキルの開発に参加するようになります。その結果,自然言語処理の分野は昨年よりも活発になり,またVUIという新しいUI/UX分野が確立されて研究されていくことになるでしょう。また,IoT分野もスマートスピーカーの普及と共に需要が増えていき,様々な製品が投入されて人々の生活を変えていくことになるでしょうし,スマートイヤホンという新規デバイスについても様々な実験が行われる,そんな年になりそうです。

スマートスピーカーは一家に一台,という時代がすぐそこまで来ました。例えば,Actions on GoogleとDialogflowの組み合わせであれば,アシスタントアプリの開発は驚くほど簡単です。また,IoT製品との組み合わせについても,少ない手順で実現できます。このムーブメントに乗り遅れることなく,ぜひスマートスピーカーの世界に足を踏み入れましょう。そして,共にエコシステムを大きくしていきましょう。

著者プロフィール

田中洋一郎(たなかよういちろう)

1975年2月生まれ。業務アプリ向けの開発ツールやフレームワークの設計に携わった後,mixi Platform,LINE Platformの技術統括を行う。日本でのソーシャルアプリケーションの技術的な基礎を確立しただけでなく,メッセージングアプリにおいても世界に先駆けてBOT Platformの立ち上げを主導した。その後もプラットフォームのさらなる進化に日々チャレンジしている。趣味で開発しているChromebook向けアプリは,Google Open Source Programs Officeから評価を得ている。Google Developers Expert(Web Technology担当)。Mash up Award 3rd 3部門同時受賞。著書『OpenSocial入門』,『開発者のためのChromeガイドブック』,『ソーシャルアプリプラットフォーム構築技法』。