継続的Webサービス改善ガイド

第1章 なぜ「継続的Webサービス改善」が必要なのか~変化に対応し,10年後も生き残るWebサービスのために

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特集のはじめに

本特集は「継続的Webサービス改善」と題し,Webサービスの継続的な改善について,そもそもそれがなぜ必要なのか,どのような改善が必要なのか,それをどう実践していくのかという3点について,特集執筆陣が勤務するpaperboy&co.(以下,ペパボ)での実際の取り組みを題材に解説していきます。

Webサービスを改善するには,技術的な取り組みはもちろん,開発投資とそのリターンという経営的な観点,チームビルディングなどの開発プロセス,ビジネスメトリクスへの注視など,考慮するべきことがたくさんあります。多様な職種からなる執筆陣による本特集は,きっと読者のみなさんのお役に立てることと確信します。

10年という節目

ペパボは今年で設立10周年を迎えました。10年前のことを思い出してみましょう。当時,インターネットはブログブームにわき,いろいろなブログサービスがローンチされました。少しあとのWeb 2.0ブームを経て,ブログに限らない多種多様なコンシューマ向けWebサービスが当たり前になる少し前,といった時代です。

当時あったWebサービスのうち,今も生き残っているものもあれば,すでに消えてしまったものもたくさんあります。ペパボで言えば,レンタルサーバを提供するロリポップ!や,ドメイン取得サービスのムームードメインといったWebサービスが,この10年間を通してユーザに価値を提供し続けてきました。一方で,いったんローンチしたものの,そのあとの事情の変化により閉鎖を余儀なくされたものもあります。

この10年の間に,インターネットを含む世の中はもちろん,技術的環境も大きく変わりました。いったい何が,成功したサービスと失敗したサービスの運命を分けたのでしょうか。

継続的改善の必要性

10年続いたWebサービスは,それぞれのWebサービスとしての魅力や,ローンチされたときの運が向いていたといった理由によって,長きにわたる運営が可能であった面はあるでしょう。それはそれで非常に重要なことです。しかし,いずれのWebサービスも,ローンチ時からそのままの状態におかれているということはあり得ないでしょう。その間に継続的な改善を行ってきたからこそ,現在があるのは確かです。

すでに10年を迎えたWebサービスも,これから10年を迎えるWebサービスも,今後も継続して運営し,ユーザに価値を提供し続けることを目指すからには,継続的な改善を続けていく必要があります。

Webサービス運用のファイナンス

そもそも,なぜWebサービスを継続的に改善する必要があるのでしょうか。Webサービス開発にかかるコストと,それがもたらすだろう価値について検討することを通して,考えていきましょう。

開発コストと価値

Webサービス開発にかかるコスト・価値を大別すると,「初期開発コスト・価値」「運用コスト・価値」とを考えることができます。

初期開発コストとは,Webサービスの企画立案・設計・実装・ローンチといった,新サービスの計画から,実際にユーザのもとへ届く初めの一歩までにかかる,一連のプロセスにおけるコストです。

一方で運用コストとは,いったんローンチされたWebサービスが,変化していく社会情勢において継続的にユーザに価値を提供し続け,さらにはそのもたらす価値を増大するために行う施策にかかるコストです。

開発コストと価値の方程式

さて,上記のように分解したそれぞれのコストと,それがもたらすだろう価値について,『コード・シンプリシティ』注1に登場する簡単な方程式を導きの糸に,考えてみましょう。

コストと価値の定義

まず,コストとそれがもたらすだろう価値とを,初期開発と運用における上記の分解に基づいて示すと,次のような簡単な式として表せます。

  • コスト=初期開発コスト+運用コスト
  • 価値=現在の価値+将来の価値
開発判断の尺度

このとき,コストとそれがもたらすだろう価値を勘案し,開発を行うべきかどうかを判断する尺度desirabilityを次のように表現します。

  • 開発を行うべきかどうかを判断する尺度
  • =価値/コスト
  • =( 現在の価値+将来の価値)/(初期開発コスト+運用コスト)

開発を行うべきかどうかを判断する尺度は,

  • 開発がもたらすだろう価値に比例する
  • 開発にかかるコストに反比例する

ものとして,この方程式により表現されます。これは読者のみなさんの経験上からも,納得のいくものではないでしょうか。種々の案件について,そこから得られるだろう価値が高ければ高いほど開発を進める判断を行いやすい一方で,それにかかるコストを勘案して最終的な判断を下すことを,開発の現場において日々行っているはずです。

注1)
Max Kanat-Alexander著/福嶋雅子,株式会社トップスタジオ訳『コード・シンプリシティ―ソフトウェアの簡潔性を保つ事実,法則,真理』オライリー・ジャパン,2012年

方程式を展開する

さて,ここでWebサービスのライフサイクルを通して流れる時間について,もう少し深く考えてみましょう。この時間には,初期開発にかかる時間と,Webサービスを運用していく時間とが考えられます。

長期に運用されるサービスに当てはめる

世の中にはいろいろなWebサービスがあります。一時的な用途のために開発されるものもあれば,長期的な運営を目指して開発されるものもあります。ここで,その時間がある程度以上の長さ(たとえば冒頭で述べた10年のような)であることを前提にすると,一般には初期開発コスト・価値は,長く続くそのあとの運用フェーズでのそれと比較すると,無視し得るほど小さいものとなります。

すなわち,先ほどの方程式は次のように簡略化できます。

  • 開発を行うべきかどうかを判断する尺度
  • =将来の価値/運用コスト

この式の意味するところとはつまり,ある程度の長期間を前提とするWebサービスの場合,初期開発コスト・価値よりもむしろ,運用フェーズにおけるコスト・価値こそが,Webサービスのライフサイクル全体を通して見た場合の開発判断を左右する要素になるということです。

長期に運用されるサービスの開発判断

開発を行うべきかどうかを判断する尺度を増大させる方法として,次の3つが論理的に導かれます。

  • a.得られる価値を増大させる
  • b.費されるコストを減少させる
  • c.価値を増大させつつ,コストを減少させる

このうちのcを実現できるとすればそれに越したことはないでしょう。とはいえ,両方をいっぺんに実現することは困難ですので,本特集では主にbに焦点を合わせ,いかに運用のコストを改善していくか,どのように効率良くWebサービスの開発を行っていくかを考えていきます。

ちなみに,aのいかに価値を増大させるかについては,WEB+DB PRESS Vol.73の特集1「たのしい開発実況中継」がおおいに参考になるでしょう。ぜひお読みください。

著者プロフィール

栗林健太郎(くりばやしけんたろう)

(株)paperboy&co.

URL:http://kentarok.org/
Twitter:@kentaro
Github:kentaro

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