アジャイル開発者の習慣-acts_as_agile

第3回 スケール間に連続性を築く

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自己相似性に注意を払うべきだった。

『Kent Beck』注1

注1)
『XPエクストリーム・プログラミング入門 第2版 ― 変化を受け入れる』(Kent Beck(著),長瀬 嘉秀(監訳),株式会社テクノロジックアート(訳),ピアソン・エデュケーション)p.28

はじめに

本連載では「アジャイルに開発する人達(アジャイル開発者)が開発するからアジャイル開発である」と考え,アジャイル開発者になるために必要なスキルを磨くための習慣を紹介しています。

連載の前回は,ソフトウェア開発という活動は,「ソフトウェアという仕組み」(=開発対象のソフトウェアシステム)を開発すると同時に,「ソフトウェアという仕組みを開発する仕組み」(=開発プロセス)を開発するものだと説明し,こうした仕組みを育てるための習慣を紹介しました。

今回は,まずアジャイル開発者がこれらの仕組みをループ構造としてとらえていることを説明します。それから,アジャイル開発者の4つのスキル注2がループ構造を支えていることと,このループ構造が複数レベルのスケールから構成されていることを説明します。そして,ループ構造の各スケール間に連続性を築き,維持するために,アジャイル開発者が身につけている習慣を紹介します。

プロジェクトを「回す」

ソフトウェア開発プロジェクトの運営を滞りなく進めることを「プロジェクトを『回す』」と表現することがよくあります。アジャイル開発者に限らず幅広く使われている言い回しです。

ここでの「プロジェクト」という言葉は,前回説明した2つの仕組み(開発対象のソフトウェアシステム・開発プロセス)と,それに関連するリソース(人・モノ・金・時間)をすべてひっくるめている,という程度にとらえてください。

この「プロジェクトを回す」という言い回しは「メタファ(比喩)」です。プロジェクトそのものが文字通りに回転するわけではないからです。仮にプロジェクトが回転していたとしても,その姿は目に見えません。

プロジェクトは概念である

確かに,プロジェクトに携わっている人々や,書いたドキュメント,成果物であるソフトウェアが動作しているハードウェアといった,プロジェクトに関連するモノは目に見えるかもしれません。それでもやはり,プロジェクトという存在そのものは直接目には見えません。プロジェクトは,人の生みだした「概念」だからです。

いわゆるプロジェクトの「見える化」の潮流は「見えないから問題がわかりづらい」ということにその端を発しているわけですが,今回お話したいのはそのことではありません。

概念を理解するためのメタファ

人は,目に見えない概念を理解するためにはメタファを使います注3)。ほかの経験で理解していることをメタファとしてその概念に適用することで理解するのです。具体的なメタファには,「恋愛は旅である」「理論は建築物である」といったものがあります。

「プロジェクトを回す」というメタファが広く流通しているということは,私たちはこのメタファを通じてプロジェクトという概念を理解しているといえます。「回すもの」といえば,皿や車輪,ボールといった円形や球体です。「回っている」といえば,球体の回転や,円を描くような運動のことです。

プロジェクトはループ構造

「プロジェクトの構造」を円形や球体として,「プロジェクトの運動」を回転や円を描くものとしてとらえると,アジャイル開発者のさまざまな振る舞いを理解しやすくなります。

プロジェクト全体のレベルから眺めたとき,この運動がループして「1周」するのは,ユーザの要求(=ストーリ)注4がソフトウェアとして実現され,ユーザからのフィードバックを得たときです。ユーザからのフィードバックと,新たな要求が次のループを推進します。プロジェクトのループを正しく「1周」させるための作戦が開発プロセスです。

このループは1日~数日程度の周期で繰り返されます(もちろん,プロジェクトによってはもっと短い場合もあれば,長い場合もあります)。

プロジェクトのループ構造の入れ子

ループ構造として構成されているのはプロジェクト全体レベルだけではありません。ユーザの要求をソフトウェアとして実現させる過程も,プロジェクト全体と同じループ構造で構成されています。ループ構造は入れ子になっています図1)。

ストーリを実現させるために,ストーリを技術的なタスクに分割します。タスクにはテストを定義します。このテストに成功するようにプログラムを設計・実装します。無事テストに成功したら,そのフィードバックをもとにリファクタリングを行い,タスクの成果を開発対象システムに統合します。このループは数時間~数日程度の周期で繰り返されます。

図1 プロジェクトのループ構造は入れ子になっている

図1 プロジェクトのループ構造は入れ子になっている

プロジェクトの入れ子構造は,さらに小さなスケールにも,より大きなスケールにも見いだせます。タスクで定義したテストケースの一つ一つを実装する過程(数分~数時間のスケール)もそうですし,複数のストーリをまとめたリリースのレベル(数週間~数ヵ月のスケール)もそうです。このように,あるレベルの構造とより大きな(より小さな)レベルの構造が,同様の構造から構成されている性質を「自己相似性」と呼びます。

アジャイル開発者にとってのプロジェクトのイメージは,さまざまなスケールのループから構成される自己相似構造のメタファで理解できます。アジャイル開発者の仕事は,このループ構造を支え,推進することです。そのためにアジャイル開発者が心得ておくべきことは次の2つです。

  • 4つのスキルがループ構造を支えている
  • ループ構造の各スケール間に連続性を築く

以下で順番に説明していきます。2点目が今回紹介する習慣「スケール間に連続性を築く」です。

注2)
ストーリの作成,計画づくり,テスト駆動開発,リファクタリングのこと。連載の第1回(本誌Vol.39)を参照してください。
注3)
『レトリックと人生』(George Lakoff/Mark Johnson(著),渡部 昇一/楠瀬 淳三/下谷 和幸(訳),大修館書店)
注4)
アジャイル開発では通常,要求はストーリとして表現します。

著者プロフィール

角谷信太郎(かくたにしんたろう)

(株)永和システムマネジメント,サービスプロバイディング事業部所属プログラマ。「『楽しさ』がシステム開発の生産性を左右する」と信じてRubyによるアジャイル開発を現場で実践するテスト駆動開発者。目標は達人プログラマ。好きな言語はRuby。好きなメソッドはextend。著書に『アジャイルな見積りと計画づくり』(共同翻訳),『JavaからRubyへ』(翻訳),『アジャイルプラクティス』(共同監訳),『インターフェイス指向設計』(監訳)。

URLhttp://kakutani.com/

著書

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