継続は力なり―大器晩成エンジニアを目指して

第7回1 on 1で何を話すのか

1 on 1(ワンオンワン)とは、マネージャーとその直下のソフトウェアエンジニアが定期的に行う面談のことである。アメリカのIT系の会社では一般的だったが、最近少しずつ日本の会社でも導入されてきた。しかしながら導入したものの何を話したらよいかわからないという声をよく聞くので、筆者の経験からまとめてみたい。筆者はマネージャーとエンジニアどちらの経験もあるので、両者の立場からそれぞれ説明する。

ソフトウェアエンジニアが話すこと

まず、1 on 1は「マネージャーと話す定期的な自分の時間であることを強く意識しよう。考えてみてほしい。マネージャーとは席が離れている。とても忙しそうであまり席にいない。週次のチームミーティングで顔を合わすが、話すことは多くない。筆者はそこまで社交的ではないので、自分から積極的に話しかけに行くことはほとんどない。半年に一度の評価面談で話すのがほぼ唯一の機会である。そういう関係のマネージャーが自分の仕事を正しく理解してくれているだろうか。自分はマネージャーが何を考えているか理解しているだろうか。そういう関係のマネージャーと定期的かつ強制的に1対1で話す機会をもらえるのが1 on 1なのだ。その自分の時間を最大限に利用してマネージャーとコミュニケーションをとろう。

1:N

マネージャーと自分は1:Nの関係であることに留意しよう。マネージャーが自分や自分のプロジェクトについてよく知っていると思わないこと。いくらマネージャーがメールで返事をくれたり、いいねをしてくれていても、忘れているかもしれない。あなたのためには1/Nの時間しか使えない。あなたのプロジェクトはN個のうちの1つにすぎないのだ。

困っていること

困っていることは最優先で伝える。作業が遅れている、ブロックされているなど。マネージャーがただちにアクションを起こす必要があるものは要注意である。マネージャーの立場からすると、⁠助けが必要である」と自分で気付き、自ら助けを求めてくれる人はたいへんありがたい。

プロジェクトの進捗

次に話すべきはプロジェクトについてだ。プロジェクトの進捗を正しく伝えて意識の差をなくそう。あなたはメールや朝のスタンドアップミーティングなどで進捗をすでに共有しているかもしれない。だがマネージャーが正しく全体像を把握しているとは限らない。またスタンドアップでは言いづらいこともある。プロジェクトの遅延、時間のかかる相談、プロジェクト内の「人」に関わる相談などは、1 on 1でのほうが話しやすい。またプロジェクトがうまく行っていても、⁠うまく行っています。大丈夫です」で済ませないように。入り口は大まかな進捗でよいが、どのマイルストーンを達成したか、ターゲットリリースはいつなのかなど、タイミングや進捗率を共有しよう。

キャリアマネジメント

この先5年、10年、どうなっていきたいのかをよく相談しよう。自分は何が得意で、何を改善しなければいけないのか。マネジメントに進みたいのか、技術を極めたいのかなどを話すと良いだろう。自分自身について客観的なフィードバックを定期的にもらう機会として1 on 1を利用しよう。

一番防ぎたいことは、半年に一度の評価面談で「君は○○が苦手だから改善が必要です」とか「○○の部分が期待を上回りませんでした」などと寝耳に水のマイナス評価を受けることである。1 on 1でも小さなフィードバックループを維持するよう心がけよう。

最新情報

情報収集を欠かさないようにしよう。マネージャーたちの間で問題になっていること、うまくいっていないプロジェクト、組織変更の予感など。聞いてみると意外とマネージャーはたくさんの情報を持っている。チームの週次ミーティングでチームに共有されているのはごく一部の情報なのだ。

チーム貢献

チームプレイヤーであることは良いエンジニアの必要条件である。1 on 1の時間が余ったら自分たちのチームについて話そう。チームで困っている人はいないだろうか。ミーティング、ワークフローなどで改善できることはないだろうか。チームやマネージャーの生産性向上に貢献できればすばらしい。

1 on 1をスムーズに行うための工夫

マネージャーと自分だけが見られる1 on 1ドキュメントを作り、共有しよう。毎週の1 on 1の前に話したいことを箇条書きで書いておくと、話を進めやすい。また、マネージャーと仕事以外の共通の話題が1つでもあると導入部分に使えて、場の雰囲気が和むのでお勧めである。ゲームやアニメなど趣味の話、子育ての話などだ。マネージャーも人間なので、仲良く打ち解けて話せたほうが良い。

マネージャーは何を話すのか

さて、次はマネージャーの立場で何を話すべきかを説明していく。ソフトウェアエンジニアとはかなり立場が違うので注意してほしい。

マネージャーは通常、チーム内のプロジェクトの進捗管理や、エンジニアのキャリアマネジメントに責任を負っている。それを念頭に置きつつ話を聞こう。上でも述べたが、1 on 1はマネージャーの時間ではなくエンジニアのための時間だと考えよう。特にチームミーティングなどであまり発言する機会のないエンジニアの話をじっくり聞こう。目安としては8割ほどの時間を相手が話す時間に使うべきだ。

もし相手が口下手なエンジニアだとしても、できれば自発的に話し始めるのを待つ。もしくは「最近どうですか?」⁠何か困ったことある?」と広い質問をしよう。くれぐれも、⁠ABCプロジェクトはうまくいっている?」などと話題を最初から限定しないように。

先述したように、マネージャーとエンジニアは1:Nだ。だからといって一人一人のエンジニアを軽視してはいけない。エンジニアが1:1の関係であると錯覚できるようにケアしよう。

1 on 1で話した重要なことは箇条書きでよいのでメモをとろう。EvernoteやGoogle Docsを利用して、エンジニアごとにドキュメントを残しているマネージャーも多い。また、助けを求められたりフォローアップのアクションが必要だったりした場合はただちに実行し、忘れない工夫をしよう。勇気を出して相談してもらったのに、忘れたり放置したりしたら意味がない。

パフォーマンスマネジメント

パフォーマンスマネジメントもマネージャーの大事な仕事の一つである。1 on 1で定期的に、そのエンジニアが期待されている役割やパフォーマンスを一緒に見ていこう。よくできている部分、改善できるポイントを指摘しよう。よくできている部分は大げさなくらいほめるべきだ。マネージャーは「できていない」部分を指摘しがちだが、きちんとバランスをとるようにしよう。そうでないと毎回改善すべき点ばかりになってしまい楽しくない。また、できていない部分を指摘するときには、⁠できていない」という否定の説明ではなく、⁠もっと良くなる」という肯定的な説明をしよう。肯定的な改善ポイントから説明することで、エンジニアが落ち込まずに次のアクションを取ることができる。改善の進捗を見ていくので、毎回ドキュメントにメモをとりながら進めると良いだろう。

どうしても時間が余ったら

マネージャーとして聞きたいことは、なんでも聞いてみよう。筆者はマネージャーとして自分が改善できる点はないかを聞いていた。

FAQ

最後に、1 on 1に関するよくある質問をまとめてみる。どれも実際に筆者が質問されたものである。

頻度はどれくらい?
1~2週間に1回。それ以上空くと頻度が少なすぎて情報の遅れなどが生じる
かける時間はどれくらい?
30分程度。それ以上だとマネージャーの負担が大きい
話すことがないので頻度を減らしたい
1 on 1をスムーズに行うための工夫を見直してほしい。頻度を減らすと1 on 1のメリットが急激に減るので注意しよう

まとめ

1 on 1を導入する組織、会社はこれからどんどん増えていくと思う。その過程でこの文章が役に立てば幸いである。

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