スマートフォン広告×テクノロジー最前線

第1回CyberZに聞くスマートフォン広告のテクノロジー

急成長を続けているスマートフォン広告市場。フィーチャーフォン市場を上回るスピードで成長しています。PCからスマートフォン、Webからアプリへとチャネルの拡大と同時に、アドテクノロジーは多様化しています。今回は、スマートフォンにおける広告効果測定ツール「Force Operation X」の開発を手掛けるCyberZに、同社のビジネスやアドテクノロジーの現状・今後の展開などについてお話を伺いました。

今回お話を伺ったは、CyberZ スマートデバイスアドテクノロジー事業部 取締役の市川陽氏 、同プロダクトマネージャーの中村智武氏、同エンジニアの萩原伸悟氏、同エンジニアの 末元塁氏の4名の皆さんです。

右から市川陽氏、中村智武氏、萩原伸悟氏、末元塁氏
右から市川陽氏、中村智武氏、萩原伸悟氏、末元塁氏

スマートフォン広告市場に先陣を切って参入したCyberZ

――まず、CyberZにおけるこれまでのビジネス展開について教えていただけますか。

市川氏:CyberZは2009年に立ち上げた会社で、もともとフィーチャーフォンをターゲットに広告代理事業を展開していました。しかし2年ほど前にスマートフォンの市場が一気に伸びそうだということで、事業をスマートフォンに集中する形に業態を変更したという経緯があります。

業態変更した当時、スマートフォンで広告を配信するための技術はそれほど進化していませんでした。ただスマートフォンは技術的にPCに近い部分があり、今までフィーチャーフォンでは難しかったことを実現できる可能性がある。そこで我々が提供を開始したのが「Force Operation X」⁠以下、F.O.X)というスマートフォン広告向けソリューションツールです。これはスマートフォン上でのユーザのアクション、たとえばアプリのダウンロードやWebサイト上での行動をトラッキングし計測することができるサービスであり、現状で国内の1,000程度のアプリで導入していただいています。今後スマートフォン向けの広告市場を伸ばしていくためには、こうしたテクノロジーを活用していくことがポイントになっていくと予想しています。

――すでに1,000ものアプリでF.O.Xが導入されているということですが、そのように高く評価された背景をどのように分析されていますか。

市川氏:スマートフォン広告市場に一番乗りで参入したことが大きいのではないでしょうか。当時、スマートフォン向けに広告を出稿されていたのは、新しいことに率先してチャレンジする、意識の高いお客さまが中心でした。そうした先頭を走っているお客さまのご要望というのは、その後のお客さまのご要望を先取りしているわけです。私たちは最初のお客さまからスマートフォン向け広告に対するニーズを汲み取ることができたことで、その後のお客さまの要望に迅速に対応することができ、それが高い評価につながったと考えています。

市川陽氏
市川陽氏

止まることも遅れることも許されないシステムを支える技術

――システム面におけるF.O.Xの特徴を教えてください。

中村氏:広告を配信したりその効果を測定したりする際、Webの場合は各Webページに専用のタグを組み込むことによって実現していますが、スマートフォンのアプリの場合はタグの代わりにSDKを組み込みます。

以前は広告会社ごとにSDKがあり、アプリはそれぞれのSDKを個別に組み込んでいました。ただ広告主が複数の広告メディアに出稿してそれぞれのメディアの効果を測定したい場合、それぞれの広告会社のSDKを組み込むことになるため、開発者の負担は大きくなります。そこでF.O.Xでは、ワンSDKという形で私たちが提供するSDKをアプリに導入するだけで、提携している全ての広告の効果測定を行うことが可能になります。

逆に言えば、各広告会社のSDKが導入されないため、広告会社は自分たちが配信している広告の成果がわらかなくなります。そのため、現在CyberZで は、150社を超える広告会社とシステム連携しており、F.O.Xが得た成果情報を私たちのシステムから広告会社のシステムに通知しています。こうした形のため、もしF.O.Xのサーバが止まってしまうと、広告会社は必要な情報が得られず、たとえば成果報酬型の広告であれば広告主に請求することができません。このため、F.O.Xのシステムは一切止まることが許されないのです。

また、ユーザにポイントを付与するリワード広告の場合、アプリをダウンロードしたなどのアクションが発生した場合に迅速にポイントを付与する必要があります。これが遅れるとクレームにつながるため、止まらないだけでなく遅延することもできません。このように、止まることも遅延も許されないというのがシステム面から見たF.O.Xの特徴で、それをどう実現するかが最大のポイントになります。

具体的なシステムですが、もともとはいわゆるLAMP(Linux/Apache/MySQL/PHP)構成でした。ただ私たちのアプリを組み込んだアプリが増えてくると、そのアプリを利用している端末から送られてくる情報も膨大になります。さらに、得られた情報を解析するための処理も発生します。そのため、データ量が増えるとMySQLでは間に合わないということになったんです。そこで分散KVSの1つである「Kumofs」を併用する構成にして、まずフロントのKumofsにデータを蓄積し、それを非同期でMySQLに書き込むという形にしています。

Kumofsは分散処理が可能でサーバを追加することで性能を高められるというメリットがあり、またデータの永続性が担保されているという特徴があります。私たちが扱うデータは広告費の算出などに使われるため、絶対にロストすることはできません。そのため永続性が担保されていることは極めて重要だったのです。

またMySQLを動かしているサーバにFusion-ioを導入しました。これによって大幅なパフォーマンスアップを図ることができ、メインのデータベースサーバをマスター/スレーブの2台に集約しています。このKumofsやMySQLを実行しているものも含め、サーバの数は全部で60台程度で、基本的にすべて冗長構成になっています。

中村智武氏
中村智武氏

ソースコードレビューを徹底して品質を向上

――社内の開発体制はどのようになっているのでしょうか。

中村氏:サーバの安定運用も重要ですが、アプリに組み込んでいただくSDKのクオリティも大切なんです。たとえばiOS向けのアプリであれば、まずアップルの審査がありますよね。それをパスして配信がスタートした後でSDKの不具合が生じると致命的です。そのため、トラブルが起こらないように慎重に開発を進める必要があります。

こうした課題に対応するため、現在はGitHubを導入し、プロジェクトに必ずコミッターの役割を担うエンジニアを入れ、さらにレビュアーも付けています。その上で、開発者はコミッターに対してリクエストを投げるという形です。CyberZではソースコードのレビューを徹底していて、レビュアーになったプロジェクトで不具合が発生すると、そのレビュアーのポイントがマイナスになるというような仕組みを作っています。しっかりレビューしないと、自分の評価が下がってしまうというわけです。

――SDKを開発する上で、現状重視していることがあれば教えてください。

萩原氏:ミドルウェアへの対応ですね。最近になり、アプリ開発でUnityやTitanium Mobileといったミドルウェアが使われるケースが増えています。基本的に我々が提供するSDKは、iOSならObjective-Cなどそのプラットフォームのネイティブアプリと同様の言語で記述しています。ただUnityやTitanium Mobileを利用すると、それぞれのミドルウェアがサポートしている言語で開発することになります。その橋渡しをする必要があるため、我々が提供するSDKをそれぞれのミドルウェアに合わせて改良する必要があります。

このようにミドルウェアに対応しつつ、先ほど中村からお話したとおり、SDKが原因でクラッシュが発生したというと大きな問題になります。そのためソースコードレビューを行うのはもちろん、リリースの段階でまったく開発に携わっていないメンバーに検証してもらうといったことを行っています。具体的にはマニュアルとサンプルのアプリだけを渡して組み込んでもらうわけです。それで実際にテストしてもらい、SDKの開発に携わっていない人間がSDKを組み込んでも正しく動作する、ということを確認した上でリリースしています。

萩原伸悟氏
萩原伸悟氏

Hadoopを活用したビッグデータ解析基盤を構築

――ビッグデータを解析するための基盤整備も進められていると伺いましたが、これにはどのような背景があるのでしょうか。

末元氏:F.O.Xが提供するSDKでは、アプリ内でのユーザのさまざまなアクションを計測することができます。具体的にはアプリの起動と終了はもちろん、課金したタイミングやその金額、あるいはアイテムの種類などですね。こうした仕様のため、私たちのサーバには膨大なデータが蓄積されています。ただデータが増加したことで、集計処理にも時間がかかるようになってしまいました。現状では解析ロジックのチューニングで処理時間を短縮していますが、それにも限界があります。そこでHadoopを使って分散処理を行うことで、高速に集計するということを実現したいと考えています。

もう1つ、Hadoopを導入することになった背景として、解析対象のデータ量の増減に柔軟に対応できる仕組みを整えたいというものもありました。F.O.Xで処理すべきデータ量というのは、アプリの性質によって大きく変わり、たとえば1日1回しか起動しないアプリと、ゲームのように頻繁に起動するアプリでは送られてくるデータ量に大きな違いが生じます。また、アプリ内の行動をどれだけ補足するかによっても変わります。Hadoopを導入すれば、サーバを追加するだけでこうしたデータ量の増減に柔軟に追従できるというわけです。すでに「Amazon Elastic MapReduce」を利用し、試験的に稼働しています。

ただ、Hadoopをそのまま使ってもパフォーマンスはなかなか出ません。そのため効率よく分散して処理するためのチューニング作業を進めています。

末元塁氏
末元塁氏
――最後に、スマートフォン広告を支えるアドテクノロジーを開発することの魅力を教えてください。

中村氏:F.O.Xの開発というのは、技術的に終わりのない戦いみたいなところがあります。計測だけであれば単純ですが、現在はそうして得られたデータをどう活かすかという方向に広告業界全体がシフトしつつあります。その具体例の1つがターゲティング広告ですが、データの分析やターゲティングの方法に正解はないわけです。

また、たとえばターゲティングしてその人が興味を持っていることを絞り込めたとしても、あまりに範囲が狭くなりすぎると露出する広告がなくなってしまうのでバランスを考えなければいけない。そういったことを考え、ロジックを作り込んでいくのはある種のおもしろさがあると思います。また、その中で自分たちで新しいことをやっていけることも魅力です。

市川氏:市場環境や顧客からのニーズが日々変わっているため、私たちもそれに柔軟に対応しなければなりません。そこでCyberZではエンジニアの裁量権を大きくして、エンジニアが自分で考えて動けるような体制を整えています。このようにすることで、意識の高いエンジニアが積極的に新しいことにチャレンジできる環境を整えていることがCyberZの強みにつながっています。

また、CyberZは海外展開を進めていることなどもあり、現在エンジニアを積極的に募集しています。先にお話したとおり、私たちの会社はいろんなことに積極的にチャレンジすることができますし、そのための環境も整えています。そうした環境で自分の力を試してみたい、あるいはスマートフォン広告に興味があるといったエンジニアにぜひ応募していただきたいですね。

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