SE稼業は忘己利他(もうこりた)─現場に転がる箴言集

第4回 最初から間に合っていない納期

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はじめに

インスタントラーメンを煮るのに普通は3分かかります。これは常識。この常識が通用しない不思議な世界があります。どう考えてみても3ヵ月かかる仕事を1ヵ月で納入しろと迫る顧客や営業もいます。権力者の圧力やどうしても受注したいという欲によって,この不条理な要求を受けてしまう開発側責任者もいます。

このようなプロジェクトは,必ず失敗しているのを何度も経験しているのにもかかわらず,また今日も繰り返そうとしています。実に愚かなことです。

#22:不条理な要求への対抗策

敵を知り己を知れば百戦危うからず。

自分の弱みにばかり気を取られていると敵が見えなくなる。敵の弱みにも注目するところからタフな交渉が可能となる。All or Nothing的なデジタル思考をやめ,敵をよく知ることから交渉という戦いが始まる。

もの柔らかなお断り
言葉,口調,しぐさを使って,心から感謝を示し,残念そうに,しかしはっきりと,言い訳せずにノーと言う。将来,別の関係を作るきっかけを示す。

G.M.ワインバーグ,『コンサルタントの道具箱』

#23:納期優先とは見切り発車のこと?

腹をくくらずにケツをまくる。

“納期優先実に嫌な言葉だ。時間がなくなった挙句に必要な手順を抜くことを暗に示唆している。もっと最初の段階で腹をくくってしっかり取り組んでおけばよいものを,土壇場になってケツをまくっている。これは仕事とは言えない。

タイムベース競争
タイムベース競争の基本原理は明快である。それは,時間こそが顧客と企業の双方にとって最も貴重な資源であるという考え方である。時間を短縮し,スピードや柔軟性を高めて「顧客が求めるときに直ちに求めるものを提供せよ」という考え方に立つと,さまざまなご利益が生れる。

ジョージ・ストーク・ジュニア

#24:溺れるものは必ず藁をつかむ

焦っている場合,本来の段取りを無視して枝葉末節なことがらに先に手をつけがちになる。これがかえって仇になり,根幹の問題の進捗を阻害したり,先に手をつけたものがまったく無駄になったりすることがある。切羽詰ったときにつかんだものはやはり藁が多い。

段取り
土台をしっかりしておけば,その時は時間がかかるようでも,あとの仕事に入ってからすべて段取りよく進む。

庄野潤三,小説家

#25:出来ないのなら出来るようにする

転ばぬ先の杖。忙しいから焦って急ぐのではなく,早い段階で準備をしておくことだ。多くの時間不足の問題は生産性が低い問題ではなく,準備のタイミングが遅すぎるところにある。

本当はできるのに
本当はね,大きな会社ならウチが開発したような製品は,挑戦すればできる。なぜできないか。責任をとる人間がいないからだ。優等生ばっかしだから。難しい仕事っていうのは失敗の連続だ。でもサラリーマンは自分が先走って結局できなかったら,月給少なくなったり,とばされたりさ,大変だろ。怖いから,やらないほうがいいもんな。違うかい?

岡野雅行,岡野工業代表社員

#26:「俺たちに明日はない」のか?

喉元過ぎれば熱さを忘れる,水は低きに落ちる,とか言われるとおり,人は楽なほうへ楽なほうへと流されていく。何度も同じような大失敗を繰り返すような塀の仲の懲りない面々につける薬はない。楽が手抜きとなり,手抜きが失敗を生み,それが自分の評価を下げ,しまいには仕事を失い大きな苦難に陥るということが理解できないような残念な人や組織にはなりたくない。

後ろ向き
我々は後ろ向きに未来へ入って行く。未来に入って行く我々の視野には未来はない。過去と現在だけが大きく見えている。

ポール・ヴァレリー,詩人

#27:過酷な状況を乗り越える

危機的なプロジェクトにおいて,笑うに笑えない状況の中でも笑えば,また新たな知恵が浮かぶであろう。眉間に寄ったしわを伸ばそう。

プロジェクト期間の鉄則
計画とは予測である。計画を早い段階で何度も確かめ,修正する予定を立てておく。依頼主が,「すべてうまくいけば」プロジェクトは予定どおりに進むと話すのをよく耳にする。私はプロジェクト・ビジネスに足を突っ込んで40年以上になり,何千件というプロジェクトを見てきたが「すべてうまくいく」プロジェクトには,まだ一度もお目にかかったことがない。かならず予定より時間がかかる。

G.M.ワインバーグ,『コンサルタントの道具箱』

#28:笑えない状況下で笑えるか

きつい中のもうひと手間。そのとき,「邪魔するな」という態度をとるか,「笑顔でもう少し後で」と言えるかで,今やっている仕事の精度にも仲間との連携にも大きな影響を及ぼす。あせりは失敗を生み,笑顔はたとえ演技でも気持ちに余裕を生み出す。

Everybody smile!
中東での実話。民衆を前にして一触即発の場面で米軍の司令官が兵に出した命令は,皆笑顔になれ! だった。危機は回避された。言葉の壁があっても笑顔は通じる。人々は笑顔に反応する。人は人の表情に反応する。この能力はブラインドサイト(blind sight)と呼ばれる。

NHKスペシャル「ヒューマン」より

おわりに

時間を失う行為の排除に必要な活動は次のとおりです。

  • 無理な短納期に妥協せず,合理的なアプローチによるタフネゴシエーションを行うこと
  • 要求仕様の全貌およびリスクの把握により必要期間・コストの見積もり間違いをなくすこと
  • 開発着手前に基本部の要求仕様の凍結を行うこと
  • 仕様検討期間中に要求仕様の疑問点・不明点をすべて解消すること
  • 開発対象システムの仕様・機能を体系的に理解すること
  • 過去の失敗に学び同様の失敗による手戻り起さないこと
  • プロジェクトマネジメント能力を磨くこと
  • 技術力の向上に努めること

最初から間に合っていない納期とは,最初から失敗しているプロジェクトと同じことを意味しています。時間を確保する3つの要因である,見積もりにおける妥当な開発期間の獲得,要件定義の早期凍結および開発行為における失敗の回避について全力を尽くせばプロジェクトは必ず成功するでしょう。

著者プロフィール

佐野洋(さのひろし)

現在,フリーコンサルタントとしてPMファクトリーを主宰。数十年にわたりPOSレジのファームウェア開発やプロマネ業務に従事。好きな言葉は「Boys be ambitious!」。信条は「弱き者も強き者も共に手を携えてその生涯を生き抜くこと」。

URL:http://www.geocities.jp/pmfactory_ambitious/

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