「中の人」が語るETロボコンの魅力─何が面白いのか,何に役立つのか

第4回 ETロボコンで実践スキルを磨く!─ソフトウェアを駆使して倒立ロボットの性能を最大限に引き出そう

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前回はETロボコンの特徴である「モデル=ソフトウェアの設計図」について紹介しました。その中で,モデルには「要求モデル」⁠⁠設計モデル」⁠⁠性能モデル」の3つがあり,それぞれのモデルで表現してほしいことを審査基準として公開していることに触れました。

今回は3つのモデルの中の「性能モデル」に期待されている事柄にフォーカスしながら,これからETロボコンを始めようとする皆さんに,できるだけわかり易くETロボコンにおける性能について紹介します。

ETロボコンにおける性能の位置づけ

ETロボコンは,組込みソフトウェア開発力をモデル部門と競技部門の2部門の総合点で競うコンテストです。実はこの2つの部門の結果に大きく関わってくるのが性能なのです。

ソフトウェア開発の大きな流れをイメージしてみましょう。まず,性能に対する要求を「要求モデル」で定義します。次に「性能モデル」で要求実現方法の妥当性や信頼性,実現方法がもたらす有効性を確認します。そして,期待通りの性能を発揮できる要素を「設計モデル」に実装していきます。このような開発の流れで高い性能を発揮するソフトウェアが開発されると,実際の走行において期待する成果を得ることができるわけです。

それでは,走行体教育用レゴ マインドストームNXTの走行性能を最大限に引き出すためのソフトウェア設計について,具体例を交えながら紹介しましょう。

性能とは

先日,日本製のスーパーコンピュータが世界のスパコン性能ランキングで7年ぶりに1位を獲得し話題となりました。スパコンの開発競争は,日本,米国,中国がしのぎを削っており,今後も計算能力世界一を競って激しい闘いが予想されます。スパコン世界1位が産学官にもたらす価値判断については賛否両論があるようですが,日本の産業技術がまだまだ健在であることを立証してくれたわけであり,日本の産業技術の衰退が懸念される中での快挙を素直に喜びたいと思います。

さて,このスパコンの性能とはいったい何を指すのでしょうか。

スパコン性能を評価する試験には,1秒間に何回の計算ができるかという項目があり,回数が多ければ多いほど性能が高いという判断がなされています。確かにスパコンには多くの計算を素早く処理する能力が求められている(期待されている)わけですから,製品に備わっている能力の高さを計るうえで,単位時間あたりの計算回数はとても重要な評価項目といえるでしょう。今回,日本のスパコンが達成した計算能力は1秒間に8162兆回という気が遠くなるような計算回数です。このように,性能とは製品の使用目的に適合する能力を発揮する力を定量的に示すものであるといえます。

それではETロボコンにおける性能について見てみましょう。

ETロボコンで使用する走行体の目的は,競技規約に基づいて競技コースを最短時間で走破し,すべての難所を攻略することです。したがって,走行体に求められる基本性能には次の4つが挙げられます。

  • 倒立する
  • 走行する
  • 曲がる
  • 止まる

この4つの基本性能は,競技コースを走破するうえでどれも欠かすことのできない重要なものです。たとえば,⁠倒立する※1)⁠という基本性能には,コース上の平坦な路面だけでなく傾いた路面の走行時や急加減速時にも倒立し続ける能力図1が求められます。また,⁠走行する」という基本性能には,ハードウェア・スペックの限界スピードで走れる能力やスピードを素早く自在に可変できる能力が求められます。

図1 斜面の高速走行時にも前後のバランスをキープ

図1 斜面の高速走行時にも前後のバランスをキープ

このようにETロボコンにおいては,競技コースを最短時間で走破し,コースの途中に設けられた幾つもの難所を的確に攻略するための能力(成し遂げる力)を,性能として評価することになります。

※1)
走行体を倒立させるための倒立振子モジュールは運営側から提供されています。

性能審査

性能の審査は,ソフトウェアの設計内容を記述した6枚のシート中の「性能モデル」の評価です。コンセプトシートを除く5枚の記述構成比について規定はありませんが,最近のチャンピオンシップ大会上位入賞チームのモデル記述構成比は,⁠要求モデル」⁠「設計モデル」⁠「性能モデル」=1:2:2 の割合が多いようです。この記述構成比からもわかるように,走行体の目的を成し遂げる力の高さを伝えるために性能について多くの紙面が割かれているようです。

「性能モデル」の質は,⁠要素技術」および「走行戦略」の2つの審査基準表1によって評価されます。それでは,どのように評価されるのかをみていきましょう。

表1 性能審査基準(2011年大会)

表1 性能審査基準(2011年大会)

ETロボコンでは競技ルールや競技コースの情報を参加チームに競技規約として提示しています。参加チームはこれらの情報に加えて競技コースが設置される会場の環境やチームの目標など,あらゆる情報を要求という形に集約して分析し,実現したいことを機能要求/非機能要求(品質要求)として「要求モデル」に整理します。このようにして抽出した一つひとつの要求をいかにして効果的に実現させるのか,そのためにはどのような要素技術が必要なのかを検討します。

著者プロフィール

河野文昭(こうのふみあき)

株式会社アドヴィックス。ETロボコン実行委員会 本部審査員,東海地区審査員。

2008年にADoniSのチームリーダとしてチャンピオンシップ大会で優勝し,2009年からは大会運営側(審査員)としてETロボコンに携わっています。昨年は東日本各地のモデル審査を担当し,数週間に亘ってモデル漬けの日々を過ごしました。

ETロボコンにひたむきに取り組むエンジニア達の凛とした姿を見ていると,技術大国日本の復活に期待が膨らみます。今年もエンジニア達の果敢な挑戦が繰り広げられる各地を訪れ,驚きと感動を味わいたいと思います。

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