職人が教える!iOSアプリ開発で使いこなしたいとっておきのOSS

第3回 実装の面倒な部分をうまくラップしてくれている便利カテゴリ3選

この記事を読むのに必要な時間:およそ 6 分

Objective-Cのカテゴリの仕組みを使うと,既存クラスに手を加えることなく機能を追加することができます。たとえば,NSArrayで配列内の要素をシャッフルしたい場合,ヘッダファイルを作成してシャッフル用メソッドを定義し,

@interface NSArray (Shuffle)
- (NSArray *)shuffle;
@end

下記のように実装しておけば,

@implementation NSArray (Shuffle)

- (NSArray *)shuffle {
    // NSArray の要素をシャッフルするコード
}

@end

あとはヘッダファイルをimportするだけでshuffleというメソッドがNSArrayのオブジェクトから使用できるようになります。

このように,カテゴリという仕組みを使用すると使い回しのしやすい形で既存クラスを機能拡張できるため,UIKitやFoundationフレームワークで提供されている頻出クラスには多くのカテゴリがオープンソースで公開されています。

今回はその中でも実装の面倒な部分をうまくラップしてくれているものを中心に3つほどカテゴリを紹介します。

UIImageに各種画像処理機能を持たせるNYXImagesKit

UIImageのカテゴリといえばリサイズ,回転,角丸,マスクあたりを一番多く見かけるのですが,このNYXImagesKitはそのあたりの頻出事項はもちろん,ガウシアンによるブラー,赤目補正,輝度補正,コントラスト調整,エッジ検出,エンボス効果,ガンマ補正,セピア,先鋭化……等々の,各種画像処理メソッドが追加されています。

-(UIImage*)gaussianBlurWithBias:(NSInteger)bias;
-(UIImage*)redEyeCorrection;
-(UIImage*)brightenWithValue:(float)factor;
-(UIImage*)contrastAdjustmentWithValue:(float)value;
-(UIImage*)edgeDetectionWithBias:(NSInteger)bias;
-(UIImage*)embossWithBias:(NSInteger)bias;
-(UIImage*)gammaCorrectionWithValue:(float)value;
-(UIImage*)grayscale;
-(UIImage*)invert;
-(UIImage*)opacity:(float)value;
-(UIImage*)sepia;
-(UIImage*)sharpenWithBias:(NSInteger)bias;
-(UIImage*)unsharpenWithBias:(NSInteger)bias;

各ヘッダからメソッド定義の一部を抜粋

中でもブラーやエンボス等の畳み込み演算を伴う処理では,vImageが使用可能な場合(iOS 5以降)はそちらを使用し,使用できない場合はvDSPを使用しており,速度にもこだわった実装がされています。

/// vImage (iOS 5)
if ((&vImageConvolveWithBias_ARGB8888))
{
    const size_t n = sizeof(UInt8) * width * height * 4;
    void* outt = malloc(n);
    vImage_Buffer src = {data, height, width, bytesPerRow};
    vImage_Buffer dest = {outt, height, width, bytesPerRow};
    vImageConvolveWithBias_ARGB8888(&src, &dest, NULL, 0, 0, __s_gaussianblur_kernel_5x5, 5, 5, 256/*divisor*/, bias, NULL, kvImageCopyInPlace);
    memcpy(data, outt, n);
    free(outt);
}
else
{
    const size_t pixelsCount = width * height;
    const size_t n = sizeof(float) * pixelsCount;
    float* dataAsFloat = malloc(n);
    float* resultAsFloat = malloc(n);

    /// Red components
    vDSP_vfltu8(data + 1, 4, dataAsFloat, 1, pixelsCount);
    vDSP_f5x5(dataAsFloat, height, width, __f_gaussianblur_kernel_5x5, resultAsFloat);
    vDSP_vfixu8(resultAsFloat, 1, data + 1, 4, pixelsCount);

    /// Green components
    vDSP_vfltu8(data + 2, 4, dataAsFloat, 1, pixelsCount);
    vDSP_f5x5(dataAsFloat, height, width, __f_gaussianblur_kernel_5x5, resultAsFloat);
    vDSP_vfixu8(resultAsFloat, 1, data + 2, 4, pixelsCount);

    /// Blue components
    vDSP_vfltu8(data + 3, 4, dataAsFloat, 1, pixelsCount);
    vDSP_f5x5(dataAsFloat, height, width, __f_gaussianblur_kernel_5x5, resultAsFloat);
    vDSP_vfixu8(resultAsFloat, 1, data + 3, 4, pixelsCount);

    free(resultAsFloat);
    free(dataAsFloat);
}

vImage,vDSPとはAccelerate.framework内のライブラリで,Accelerate.frameworkについてはAppleのDeveloperサイトで次のように紹介されています。

Accelerateフレームワークは,iPhoneやiPod touch用に最適化された何百もの数学関数を提供します。信号処理ルーチン,高速フーリエ変換,基本的なベクトルと行列演算,およびマトリクス因数分解や連立一次方程式の解を求めるための業界標準機能などを含みます。iOSベースのデバイスに存在する異なるハードウェアコンフィギュレーション向けに最適化されたAccelerateフレームワークにより,すべてのデバイスに効率的に動作するコードを書くことができます。

Features - iOS Technology Overview - Apple Developer

つまり簡単に言うと,iOSベースデバイスのハードウェア向けに最適化されていて高速な数学演算ライブラリ,ということになります。

その中のvImageは畳み込みや幾何変換,ヒストグラム計算などの画像処理系の関数をまとめたもので,iOS 5から利用できるようになりました。

また vDSP にはベクタ演算や行列演算,フーリエ変換等の関数が用意されており,iOS 4からサポートされています。

ここで紹介しているブラー等の画像処理で必要な畳み込み演算では,フィルタのカーネルサイズとオリジナル画像のサイズに応じて処理量が指数関数的に増大するので,この実装のおかげで実用性が高くなっています。

ちなみにWWDC2011の⁠Inside the Accelerate Framework for iOS⁠セッションのプレゼンテーション資料によると,vImageを使用しないコードによる畳み込み処理と,vImageの関数を用いた畳み込み処理とで速度を比較した場合,カーネルサイズ7×7,1024×768(iPad2の解像度)の画像に対しての処理速度はvImageを使用したほうが14倍以上も速く,なおかつ電力消費量は約9分の1に抑えられたそうです(モバイルデバイス向けであるiOSにとっては消費電力の抑制もメリットとして大きいのではないでしょうか)⁠

その他,輝度補正やコントラスト調整,反転処理など,ピクセルごとの処理が必要な処理についても,高速化の観点から,Accelerateフレームワークを使用してビットマップデータの処理が行うよう実装されています。

const size_t pixelsCount = width * height;
float* dataAsFloat = (float*)malloc(sizeof(float) * pixelsCount);
float min = (float)kNyxMinPixelComponentValue, max = (float)kNyxMaxPixelComponentValue;
UInt8* dataRed = data + 1;

// 中略

vDSP_vfltu8(dataRed, 4, dataAsFloat, 1, pixelsCount);
vDSP_vsmsa(dataAsFloat, 1, &__negativeMultiplier, &max, dataAsFloat, 1, pixelsCount);
vDSP_vclip(dataAsFloat, 1, &min, &max, dataAsFloat, 1, pixelsCount);
vDSP_vfixu8(dataAsFloat, 1, dataRed, 4, pixelsCount);

また,赤目補正やセピア効果にはiOS 5より追加されたCIFilterクラスが用いられています。CIFilterは他にも多くのフィルタ機能があるので,このカテゴリを参考に,CIFilterの各種機能をラップしたメソッドを追加してみるのもいいかもしれません。

NYXImagesKitはこちらからダウンロードできます(ライセンスは Simplified BSD License)⁠

なお,使用にあたっては,下記フレームワーク/ダイナミックリンクライブラリをプロジェクトに追加する必要があります(NYXImagesKit の全てのカテゴリを使用する場合)⁠

  • Accelerate.framework
  • AsetsLibrary.framework
  • CoreImage.framework
  • ImageIO.framework
  • libcommonCrypto.dylib
  • MobileCoreServices.framework

NYXImagesKitにはサンプルアプリが付随していないため,簡単なデモアプリを作成しました。下記URLよりダウンロードいただけますので,動作やコードの確認にご利用ください。

デモアプリを実行すると,下記のようにオリジナル画像と,8つの画像処理結果をご確認いただけます。

NYXImagesKitによる画像処理結果

NYXImagesKitによる画像処理結果

これらの画像処理のいずれもNYXImagesKitを使用したったの1行で実装されています。

画像処理を行いたい場合にはOpenCV等の選択肢もありますが,NYXImagesKitを使用すればiOS SDKの標準フレームワークの使用だけで済み,実装方法もシンプルでしかも高速なので,ぜひ使用を検討してみてください。

著者プロフィール

堤修一(つつみしゅういち)

1978年生まれ。京都大学工学部を卒業後,同大学院修了。その後,NTTデータにて音声認識技術の研究開発,キヤノンにて画像処理機能の設計に携わる。

2010年より面白法人カヤックに入社。3年間ほぼiOSアプリ開発に専念し,フルスクラッチで開発しリリースしたアプリは30本以上。代表作は150万ユーザを突破した「バウンドモンスターズ」,AppStore Best of 2012を獲得した「タップ忍者」,カンヌ国際広告祭でブロンズを獲得した「Domino's App」など。

現在は,米国シリコンバレーのマウンテンビューにあるAppSocially社の一員として活躍中。

著書=『iOSアプリ開発 達人のレシピ100―開発現場で実証された実用コード集』

ブログ=Over&Outその後

Github=shu223

Twitter=shu223

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