MA受賞への5つのアプローチ

第3回100kw-sgss 渡邊 恵太さん ~アカデミックな視点から

日本最大級のWebアプリケーション開発コンテスト「 Mashup Awards(MA⁠⁠」の受賞者の方へのインタビューを連載でお届けしてます。第3回のゲストは、昨年度(MA5⁠⁠、優秀賞/審査員特別賞を受賞された100kw-sgssの渡邊 恵太さんです。

優秀賞受賞作品の「CastOven(キャストオーブン⁠⁠」は、あたため時間に合わせたYouTubeの動画を検索し、待ち時間ぴったりの動画を電子レンジの扉部分に取り付けられた液晶ディスプレイ上で再生する電子レンジ。

100kw-sgssの渡邊 恵太さん、松田 聖大さんのお2人は、当時、慶應義塾大学SFC研究所に所属されていて、電子レンジとYouTubeをマッシュアップするという今までにない斬新なアイデアをアカデミックなアプローチでMAに持ち込まれました。

100kw-sgssの渡邊 恵太さん
100kw-sgssの渡邊 恵太さん

それでは、渡邊さんに海外メディアにも多数取り上げられ、MA史上過去最多の問い合わせがあったというCastOvenについてコンセプトから開発秘話等についてお聞きしましょう!!

多数のメディアで取り上げられる等、海外からの反響が大きかったCastOven

-MAに応募されたきっかけは何でしょうか?

MAに出したら目立つのではないかという就職活動の意味も含めての応募
MAに出したら目立つのではないかという就職活動の意味も含めての応募

MA応募当時、私も松田君も慶應義塾大学SFC研究所に所属していたのですが、MAへの応募は有志による個人の活動です。

現在所属する「独立行政法人科学技術振興機構五十嵐デザインインタフェースプロジェクト」には今年の1月に就職しました。2009年の9月に慶應義塾大学SFCの博士号をとって卒業した後の進路がまだ決まっておらず、受賞するかしないかは別として、MAに出したら目立つのではないかという就職活動の意味も含めてのMA応募だったので、優秀賞までいただいたのはうれしい限りです。

CastOvenは、以前に所属していた研究室で2008年9月に行った「時間展」という時間をコンセプトとした展示会の際に初めて発表しました。MAでは発表・未発表問われなかったので、こういうマッシュアップもあるということを紹介できるいい機会だと思いMAに応募してみました。

今回、応募してみて面白かったのは海外からの反響が大きかったことですね。英語サイトをきちんと作っていたこともあって問い合わせも多かったです。海外のニュースサイトやテレビ、雑誌等で取り上げられたようです。

CastOvenを通じて作品のクオリティを高めることの大切さを実感

-CastOvenはどのように開発されましたか?

開発期間は3カ月くらいです。役割分担としては、発想やコンセプト、ソフトウェアは私が、ハードウェアや電子レンジのボタンのハック等の実装を松田君が分担しています。

今までの自分のやり方では、作品を作る際はコンセプト先行で外装や見た目はとりあえず置いておこうという感じだったのですが、松田君はデザイン等にこだわる子だったので作品としてのクオリティが高まりました。

今回は使用していないのですが、重さ等のデータもとれるようになっていて拡張も可能です。通常、こういった研究レベルでは、電子レンジを実際に動かすところまではやらないのですが、今回は電子レンジとしてもちゃんと動くという点がポイントで、説得力が違ってきますね。

電子レンジとしても機能するCastOven
電子レンジとしても機能するCastOven

日常生活の中にどうやって情報システムを浸透させるかという研究に2002年から取り組んでいるのですが、生活に「情報」を溶け込ませると考えたとき、新しい特殊なデバイスというのもアリだとは思うのですが、逆にユーザーが混乱してしまいかねません。そこで、家電などといった従来の文化や形式の中で情報と出会う方法もひとつの未来としてあるのではないかと考えました。

以前、ある講演で、⁠研究でも"これどこで売ってるの?"と言わせるくらいのものに仕上げないといけないと聞いたことがあるのですが、CastOvenを通じて作品のクオリティを高めることの大切さを実感しました。CastOvenでは「これは売っているのですか?」などの現実的な突っ込みをされる点が今までの研究と違う点ですね。

プレゼンは任天堂の岩田社長風を目指そうと、かなりかっちりと決めて臨みました。

-技術面だけでなく、エンジニアの方に「広める」部分にも目を向けてもらおうと、MAでは最終審査会にプレゼンテーションを課しています。今回、100kw-sgssさんは非常にクオリティの高いプレゼンを発表されましたが、どのように取り組まれたのでしょうか?

最終審査会は「絶対に最優秀賞を狙いに行こう」と本気で取り組みました。私が構想したものを元に松田君が動画を制作したのですが、想像以上の出来栄えに仕上がって正直うれしかったですね。自分のチームの成果とは言え自慢の作品です。なので、自信を持ってプレゼンすることができました。

プレゼンは任天堂の岩田社長風を目指そうと、秒単位でタイムスケジュールを組み、BGMを流し、最後は全員お辞儀をするというように、かなりかっちりと決めて臨みました。コンセプトを伝えるためにもプレゼンのチャンスがあるというのはとてもいい機会だと思います。

綿密なタイムスケジュール
綿密なタイムスケジュール
珠玉のプレゼン動画

MAは一種のお祭り。エンジニアが発想を変えるきっかけとしてもよい機会

-メッセージをお願いします。

MAは一種のお祭りなので、とりあえず出して反応を見てみたり、お互いの作品を見せ合う場として利用する感覚で参加されるのも面白いのではないかと思います。WEB上で技術的な日記等をみると面白いと思えるひとがたくさんいるのですが、きちんとした成果としてアウトプットされていなくて、もどかしい気がしますね。

また、MAには色々な人がいるので発表してみると意外なフィードバックが得られたり、優勝しなくても、MAの作品リストに名前を連ねるだけでも他の人が見る機会にもなると思います。俺はこんなのを作ったと見せ合うイベントとしても利用していいのではないでしょうか。

前回、高校生の方もいましたが、もっと学生が参加してもいいのではとも思いますね。今くらいの高校生は子どもの頃からPCを使っている世代で、プログラミング能力で言えば、多分私たちの世代よりよっぽど時間をかけて面白いものを作っていると思います。また、大学生にとっても、MAはダイレクトにIT系の先端企業の人たちと出会える機会でありますし、応募作品という成果物があることによって自己PRもしやすいと思うので、就職活動の一環として参加するのもありではないでしょうか。

私が所属していたSFCの基本的な考え方は、プロジェクトをトップダウンで進めていくことです。これをやろうというゴールがまずあって、そこに足りない要素や技術は何かと足していく感じです。常に三角形の頂点からスタートして、途中で止めても三角形は維持されるかたちです。ボトムアップで下からはじめてしまうと「台形」で終ってしまって完成のかたちにはなりませんが、三角形のトップダウンからはじめると、途中で終えてもクオリティの問題だけでコンセプトや結果物としてはそれなりの成果物となり、アイデアは伝えられる状態にすることができます。

CastOvenを作るために電子レンジから勉強していたら多分あそこまでは完成せずに途中で疲れて終わっていたと思うので、ビジョンありきで具体的に進める手法の点でSFCの流れが活きたと思います。

MAの参加者にはソフトウェアのエンジニアが多いですが、文系よりな人がもっと関わっても面白いんじゃないかと思いますし、MAレベルになるとエンジニアだけの発想でもないので主婦がMAに出てきてもおかしくないと思います。また、ハードウェアに関して日本には優秀なエンジニアがたくさんそろっていると思うので、そういった方々の参加にも期待できます。

MAは単なるプログラミングコンテストではないので、エンジニアが発想を変えるきっかけとしてもよい機会だと思います。

電子レンジとYouTubeをマッシュアップした【CastOven】
図1 キャプション
http://100kw-sgss.org/castoven/
Mashup Awards 5 (MA5)優秀賞/審査員特別賞
受賞作『CastOven』
http://100kw-sgss.org/castoven/
受賞者 100kw-sgss
http://100kw-sgss.org/

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