増井ラボノート コロンブス日和

第11回 Gear

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2つのボタンだけで操作できるGear

前回は,大規模な階層情報をズーミング検索するDragZoomというシステムを紹介しました。DragZoomはパソコンやタブレット上のマウスや指の操作でズーミングを行うことによって大規模データの検索を行うシステムですが,ユビキタスコンピューティング環境ではいつでもポインティングデバイスが使えるとは限りません。料理しているとき,歩いているとき,通勤電車で立っているとき,車を運転しているときなど,ポインティングデバイスを使いづらい状況はよくありますが,そういった状況でも大きな階層情報をうまく検索できる方法があれば自由に音楽や番組などを選択できるので便利です。今回は,2個のボタンを使うだけで大規模な階層データを簡単に検索できる「Gear」というシステムを紹介します。

階層データの段階的なナビゲーション

DragZoomのようにGUIを使って階層データをなめらかに検索する方法はこれまでたくさん研究されてきているのですが,残念ながらデスクトップやブラウザ上で広く利用されているものはほとんど存在せず,階層構造を段階的にたどりながらブラウズするやり方が一般的になっています。たとえばMacのデスクトップ画面でファイルを操作するプログラム(ファインダ)では,ファイルの階層構造を視覚化してナビゲーションを可能にする方法がいくつか用意されていますが,どの方法でもマウスやキーを操作して階層構造の親子関係や兄弟関係を段階的にたどっていくことにより階層型ファイルシステムのナビゲーションを行うようになっています図1)。

図1 Macのファインダでアプリケーションを段階的に検索しているところ

図1 Macのファインダでアプリケーションを段階的に検索しているところ

たとえば1つ下の階層のフォルダの内容を見たい場合,マウスでダブルクリックしてフォルダを開いたり,矢印キーを使って注目行を移動させてから[Enter]キーを押すといった方法がよく使われています。

現在のパソコンのファイルはすべて階層的に管理されており,ほとんどのファイルにデスクトップからアクセスできるようになっています。パソコンの中の100万個のファイルの中から,ファイルを1つ選ぶのはたいへんなはずですが,実際のパソコン操作においてそれほど苦労している人は多くないでしょう。

データがきれいに階層的に管理されている場合,それほどたくさんの操作をしなくても必要な情報を見つけることができるのが普通です。実際,パソコンのデスクトップ画面でマウスを使って階層のトップから階層をたどって特定のファイルを捜すのに必要な操作は多くても10回程度でしょう。

キーボードで階層構造をナビゲーションする

図2のような階層を持つファイルシステムをキーボードでナビゲーションすることを考えてみましょう。

図2 あるファイルシステムの階層例

図2 あるファイルシステムの階層例

これがファイルシステムの構造になっている場合,Macのファインダでは▲▼◀▶という4個の矢印キーでナビゲーションを行うことができます。

「店リスト」をファインダで表示して,「本屋」を選択すると,表示は図3のようになり,3回▼を押すと,図4のように「食料品店」が選択されます。

図3 「店リスト」をファインダで表示して「本屋」を選択

図3 「店リスト」をファインダで表示して「本屋」を選択

図4 3回▼を押して「食料品店」を表示

図4 3回▼を押して「食料品店」を表示

「食料品店」は下位階層を持っているので,ここで▶キーを押すと図5のように下位階層が表示されます。さらに▼キーを押すことによって「酒屋」を選択したり,「生鮮食料品店」を選択してから▶を押すことによって,図6のように下位階層を表示できます。

図5 「食料品店」で▶キーを押して下位の階層を表示

図5 「食料品店」で▶キーを押して下位の階層を表示

図6 「生鮮食料品店」で▶キーを押して下位の階層を表示

図6 「生鮮食料品店」で▶キーを押して下位の階層を表示

また,図6の状態で◀キーを押すと下位層の表示を消し,図5のような状態に戻すことができます。このように,Macのファインダでは▲▼◀▶という4個のキーを使って階層データのナビゲーションを行うことができます。テレビのリモコンやジョグダイヤルでも階層構造データのナビゲーションのためにほぼ同様の手法が利用されていることが多いようです。

著者プロフィール

増井俊之(ますいとしゆき)

1959年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部教授。ユーザーインターフェースの研究者。東京大学大学院を修了後,富士通半導体事業部に入社。以後,シャープ,米カーネギーメロン大学,ソニーコンピュータサイエンス研究所,産業技術総合研究所,Appleなどで働く。2009年より現職。携帯電話に搭載される日本語予測変換システム『POBox』や,iPhoneの日本語入力システムの開発者として知られる。近著に『スマホに満足してますか? ユーザインターフェースの心理学』。

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