増井ラボノート コロンブス日和

第15回 フラット整理法

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整理技術の紹介

今回は単純で役にたつ整理のためのテクニックを紹介したいと思います。私は整理が極端に苦手で,計算機ファイルの整理や小物の整理に毎日苦しんでいます。そういう人間が整理法について語るのは変かもしれませんが,何かが下手な人ほどそれを克服するために苦労しているはずですから,良い方法を発明する可能性は高いはずです。

階層脳の恐怖

引き出しや箪笥(たんす)の中に置き場所を決めて小物を整理したり,階層的なフォルダを使ってファイルを整理したりしている人は多いと思いますが,現代においてそれは最善の整理方法でしょうか?

なんでも階層的に分類して格納するものだと思っていたり,ファイルは階層的なフォルダで管理するのが当然と考えている人は「階層脳」を持っているのだと思われます。

以前の記事で,大規模な階層的データを検索したりナビゲーションしたりする方法として,「DragZoom」「Gear」のようなシステムを紹介しました。大きなデータは階層的に構成されていることが多いためこのようなシステムが有用なわけですが,実はこれらのシステムで扱っていたデータはすべて専門家によって用意された定形的なデータであり,個人が扱う雑多なものではありませんでした。

階層管理の問題点

住所や電話番号のように明らかに階層的な構造を持つものを階層的に管理するのは難しくありませんが,さまざまな属性を持つ雑多なデータや物品を階層的に管理するのは難しいものです。A社のBという製品に関する問い合わせ書類はどういうフォルダに入れるべきでしょうか。A社フォルダでしょうか? B製品フォルダでしょうか? 問い合わせフォルダでしょうか?

また,旅行先で買った便利なナイフはどの箱に入れるべきでしょうか。思い出箱でしょうか? 文房具箱でしょうか? 旅行用品でしょうか?

属性がはっきりしない場合もあります。動物を分類しようとするとき,コウモリは獣に分類すべきか鳥に分類するべきか困るかもしれませんが,分類作業にはこういう「コウモリ問題」がつきものです。図書館のように専門の職員がいる場所であっても,変な分類をされていて困ることもあります。世の中の多くのものは階層的に管理することが難しいので階層構造を仮定した検索手法や整理法はうまくいきません。

フラット整理術

Webの巨大なデータは階層的に管理されていませんが,Googleのようなテキスト検索でたいていの情報は見つかる気がするので,階層的でないことを問題だと思っている人はいないでしょう。つまり「検索できれば階層的整理は必要ない」ということになります。

Webの黎明期にはWebページを階層的に整理するサービスがたくさんありましたが,現在はほとんどなくなってしまいました。階層的に分類する作業がたいへんになり過ぎたからかもしれませんが,階層的な構造がそれほど有用と思われなくなってきたからかもしれません。

Webを階層的に整理するサービスでは,こうもり問題に対応するため,同じデータをあちこちに置くという方法がよく使われていました。たとえば横浜のラーメン屋のページは,「横浜」というカテゴリにも「ラーメン」というカテゴリにも登録されるようになっていました。一方,現在は「横浜」「ラーメン」のようなキーワードで検索すれば簡単に情報にたどり着けますし,横浜レストラン情報やラーメンランキングのようなページがいくらでもありますから,階層的な分類を行う検索サービスの存在価値は現在かなり小さくなっていると思われます。

Webページを階層管理できないということは,個人のファイルや所有物を階層管理できないのと同じで,均質でわかりやすい構造を持つデータ以外は階層管理にはむかないということになるでしょう。個人のファイルや所有物の場合,レストラン情報のような整理情報を期待することはできませんが,そもそもすべて自分が一度は見たものですからそういうものは必要ありません。昔見たはずの情報が再度見つけられるようになっていれば問題ありません。なんでも階層的に管理すべきであるという「階層脳」から脱却し,フラットな構造でもうまく検索できる方法を利用すべきだと考えられます。

計算機情報のフラット整理

次のような方法を使えば,階層的にていねいに分類を行わなくても雑多なファイルを適切に管理できます。

ファイルにユニークな名前を付けて1つの場所で管理する

たとえば「A社のBという製品に関する問い合わせ書類」をメールで受け取った場合,この「製品B 問い合わせ.pdf」のようなファイルのハッシュ値を計算して01234567.pdfのようなファイル名に変更し,1つの場所に保存します。ファイル名はユニークであれば何でもかまいません。

ファイルにタグやコメントを付ける

ファイルを後で検索できるようにするために,01234567.pdfに対して「A社」「製品B」「問い合わせ」のようなタグを登録します。必要であれば詳しいコメントや関連情報なども書いておきます。

似たタグやコメントを持つファイルを関連ファイルとして表示する

タグやコメントのテキスト検索によってファイルを捜すことができますが,似たタグやコメントを持つファイルが関連ファイルとして自動的に検索されるようにしておくと便利です。A社や製品Bに関する文書が見つかったとき,その文書に関連する文書もリストされると便利です。

こういう検索/管理システムをゼロから作るのは面倒ですが,以前紹介したGyazo(2016年2月号)を使うと簡単にこの方法を使うことができます。Gyazoでは,キャプチャした画像にタグやコメントを付加したり関連画像を検索したりすることが簡単にできますから,次の手順でファイルをフラットに管理できることになります。

  • ファイルをユニークな名前に変換して特定の場所に置く
  • ファイルの中身を表示してGyazoでキャプチャし,新しいファイル名やコメントを記入する

私は,保存したいファイルがあったとき,その中身のMD5ハッシュ値を使ったユニークなファイル名に変換してAmazon S3の特定の場所に格納してから,ファイルの中身をGyazoでキャプチャしたものにそのURLをコメントとして書くようにしています。

この手順をルーチンワークにしておくと,ファイル名や階層的ファイル管理についてまったく悩むことがなくなります。たとえば私は各種の申請書を書く場合,Gyazo.comで「申請書」を検索するとたくさんの古い申請書やテンプレートが見つかるので,それを開いて修正することによって新しいものを作成しています。

ファイルはクラウドに置かなくてもかまいませんが,クラウド上で一括管理しておくのが何かと便利です。Amazon S3などを利用するのが面倒な場合はDropboxなどを使うと良いでしょう図1)。

図1 各種申請書をGyazoで検索したところ

図1 各種申請書をGyazoで検索したところ

著者プロフィール

増井俊之(ますいとしゆき)

1959年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部教授。ユーザーインターフェースの研究者。東京大学大学院を修了後,富士通半導体事業部に入社。以後,シャープ,米カーネギーメロン大学,ソニーコンピュータサイエンス研究所,産業技術総合研究所,Appleなどで働く。2009年より現職。携帯電話に搭載される日本語予測変換システム『POBox』や,iPhoneの日本語入力システムの開発者として知られる。近著に『スマホに満足してますか? ユーザインターフェースの心理学』。

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