創刊号巻頭座談会「エンジニアのマインドとは」~ボーナストラック

#3座談会「エンジニアのマインドとは」

『エンジニアマインド』創刊号の巻頭を飾った座談会。場所を居酒屋に移動して行われた座談会の続編、第3回です。語るは、伊藤直也氏、吉岡弘隆氏、ひがやすを氏、登大遊氏、木下拓哉氏という開発現場の最先端に陣取る5名、司会進行はリナックスアカデミーの濱野賢一朗氏という豪華キャストでお届けしています。

さて…二次会を終えて三次会へ突入。ここで、一旦会社に戻られていた吉岡さんが再登場です。

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[画像]吉岡吉岡:登さんはもう帰っちゃったんですか?

[画像]伊藤伊藤:コードを書きたいからと言って帰られました。ここで飲んでる場合じゃないと(笑⁠⁠。もともと車で来ていたらしくて、お酒を飲まずに帰りました。

[画像]吉岡吉岡:ちなみに、濱野さんておいくつなの?

[画像]濱野濱野:だいたい知っているはずですが(笑⁠⁠。

[画像]吉岡吉岡:たぶん若いんだと。

[画像]伊藤伊藤:僕は28歳です。これを基準に。

[画像]吉岡吉岡:25~6歳ですか?

一同:あー。

[画像]濱野濱野:大学は卒業してます。

[画像]伊藤伊藤:座談会が終わった後に、年齢を聞いて、⁠あれー、だまされた」と思って。⁠僕より年下じゃん」と思って。ぜんぜんそう見えない。

伊藤直也氏
伊藤直也氏

編集:僕も「だまされた」と思いました(笑⁠⁠。

[画像]吉岡吉岡:野口さん(編集)ておいくつくらい?

編集:33です。

[画像]吉岡吉岡:ひがさんは?32くらい?

[画像]ひがひが:37歳です。

一同:おー。

[画像]吉岡吉岡:ひがさん、37歳には見えない。30ちょいに見えますよ。

[画像]伊藤伊藤:近藤さん(注:株式会社はてな代表取締役)は、僕の2つ上です。

[画像]吉岡吉岡:ぴったり30かな、31かな。若いよね、みんなね。

[画像]伊藤伊藤:でも、はてなに僕が入って2年ですが、入ったときは全員20代で。20代の若者がやってた会社だったのが、社員のかなりの世代が30代に突入してて、おっさん基準になりつつあります。

[画像]吉岡吉岡:30代でおっさん? 平均年齢はどれくらい?

[画像]伊藤伊藤:20台後半ぐらいですかね。

[画像]吉岡吉岡:『ウェブ進化論』の梅田望夫さんは経営的にはどういう役割をされているんですか?

[画像]伊藤伊藤:若者の暴走に対してブレーキをかけてくれたりしつつ「シリコンバレーの動向ってこうなんだよっ」てレクチャーしてくれたり。

[画像]ひがひが:モチベーションを高めようとしてるんじゃないですか?

ひがやすを氏
ひがやすを氏

[画像]伊藤伊藤:それもありますし、僕らなんだかんだいって、会社経験がないので、わからないことへの知恵袋みたいな役割です。

[画像]吉岡吉岡:そうすると、はてなの中に、30代後半の経営の相談相手はいるんですか?

[画像]伊藤伊藤:いないんです。だからわからないことがあると、梅田さんに聞くんです。的確な答えが返ってくるので、信頼してます。

[画像]吉岡吉岡:そもそも、彼はなんではてなの役員になろうと思ったのかしら?『ウェブ進化論』に書いてあったような。若い人と時間を共有したいとか?

[画像]伊藤伊藤:それはもう僕がいたからですよ。。。いや、冗談です。

[画像]吉岡吉岡:近藤さんの人柄みたいのもあったのかな?

[画像]伊藤伊藤:それが大きかったと思います。もともと弊社の川崎裕一と梅田さんが知り合いで、よくしてもらっていて、近藤を紹介するといって会わせたら、梅田さんもちょうど若い人と関わりを持って仕事をやりたいと思っていたんですって。

[画像]吉岡吉岡:だからそれがすごい不思議で、コンサルティングはしていたが、実業にかかわっていた経験はないわけじゃないですか。それが形の上といっては失礼かもしれないが、役員になって責任を持ってコミットするというところまで踏み込んじゃうのが、本当のところなぜなのかなあって。本人に聞かないとわからないんだけれど。

[画像]伊藤伊藤:近藤淳也に惚れたというのが一番なんじゃないかな。

[画像]吉岡吉岡:自分より年上と付き合うのはやめて、若い人と付き合うと決めたというようなことも『ウェブ進化論』に書いてありましたよね。

[画像]伊藤伊藤:座談会のときに吉岡さんに聞きそびれたんですが、カーネルのメーリングリストにコミットしたかったって言っていたじゃないですか。そもそも、どうしてそういう欲求があったんですか?

[画像]吉岡吉岡:それがかっこいいと思って(笑⁠⁠。

[画像]伊藤伊藤:僕もそういうのがあって、自分もオープンソースに参加したいと思ったんです。

[画像]吉岡吉岡:やっぱり目立ちたがり屋とかそういうところですよ。それによってたとえば経済的に大もうけするとかは動機にはなりえないです。自分の技術者としてのスタイルの中で誰かに認められたいというのがあって、たぶん社長に認められたいとかはぜんぜん思っていなくて、Linuxのカーネル組織の誰かに認められたいというのが内側にあって、それはカーネルのメーリングリストにパッチを書いて、ということですよね。

[画像]伊藤伊藤:そのとき、充実感みたいなものはありましたか?

[画像]吉岡吉岡:ちょうど昨年の今ごろです。それはもういい感じでノッていて、いい仕事したなあみたいな。そのときは会社内でも「半径5メートル以内近寄るなよ」みたいな雰囲気を醸し出していました。

吉岡弘隆氏
吉岡弘隆氏

[画像]伊藤伊藤:かっこいいと思われたいですよね。

[画像]吉岡吉岡:で9月4日に、Linuxのカーネルメンテナーのアンドリュー・モートンからメールがあって、自分のパッチがツリーに入れてもらえたんですよ。毎週水曜日朝に全体会議があって、各部門長が一言言うんだけど、自分のパッチがアンドリュー・モートンにアクセプトされたというのは本当に自慢しましたね。

[画像]伊藤伊藤:そのときの社内の反応はどうだったんですか?

[画像]吉岡吉岡:「うおー」という人もいれば、⁠何?」って人もいました。

編集:昔って、プログラマ30歳限界説というのがあって、それが境目だったと思うのですが、現状をご覧になってどう思われますか?

[画像]吉岡吉岡:それはね、あの…。

[画像]伊藤伊藤:この話は吉岡さんに語らせると…。

[画像]濱野濱野:この話はリナックスアカデミーで語ってもらったことがあるんで。

濱野賢一朗氏
濱野賢一朗氏

[画像]吉岡吉岡:それはね、日本の社会がおかしいと思う。ある意味、専門性を活かさせない社会がおかしいと思います。だって、将棋棋士が30歳で定年になるかっていうと、ならないじゃないですか。名人は50歳、60歳でも名人。それと一緒で、その年齢の味っていうのがあるわけですよ。その専門性を活かすような社会にしないといけないというのが、私のライフワークです。

[画像]濱野濱野:意外と短く終わりましたね。

[画像]吉岡吉岡:今日はこれから。まだまだ。

[画像]伊藤伊藤:日本で僕らの先輩の人でずっとコードを書き続けている人って、誰って言われて名前を思い浮かべようとしてもあまり名前が出てこない。だから吉岡さんが出てきますが、それ以外で誰かこの人はすごいハッカーというのは?

編集:PostgreSQLの石井達夫さんはどうですか?

[画像]濱野濱野:50代ですよね。

[画像]吉岡吉岡:そうは見えないですね。電車で30分くらいガーっとやって降りるのを忘れるくらいなそうですよ。今自分で作っているプログラムのバージョンアップをやっていて、それがすごい楽しそう。

[画像]濱野濱野:この前PostgreSQLの10周年でイベントがあるからということで、わざわざそれを目がけて準備をしていて、それがすごい楽しそうでした。

[画像]吉岡吉岡:50代の人が20代の人と一緒に仕事をするわけでしょ。そうするとね、やっぱり、どんどん伸びてきて、それがちょっと悔しいって言ってましたね。自分の2倍くらいすぐに伸びるって。

[画像]吉岡吉岡:石井さんが2倍伸びたら困るんだけどね。年を重ねればそれだけそのときのスタイルがありますよね。

[画像]伊藤伊藤:濱野さんは30後半かと思ったんですけどね(笑⁠⁠。

[画像]ひがひが:男を見る目がないですね(笑⁠⁠。

[画像]伊藤伊藤:他に誰かいますか。吉岡さん、石井さん以外に。

[画像]吉岡吉岡:どうかなー、私のシニア世代で、誰がいるかなぁ。たとえばRubyのまつもとゆきひろさんなんかは40前後でまだまだ若いですよね。脂が乗っている世代は30代後半くらいじゃないかな。40代、50代だといないかな。

[画像]吉岡吉岡:Perlカンファレンスは強烈なカンファレンスで、おもしろかった。それを東京の蒲田でやるっていう、Perlのハッカーが蒲田に来るっていうのがね。

[画像]伊藤伊藤:六本木とか渋谷じゃなくてね、蒲田。なんで蒲田なんだよっていう。

[画像]吉岡吉岡:そうそう、ラリー・ウォール、まつもとゆきひろさん、Dan Kogaiさん、など名だたる先輩諸氏を集めて「ここかよっ」ていう感じでした。接待するなら普通もう少しいいところに行くだろうなっていう。でも、参加する人たちがみんなすごい楽しんでいるんですよ。これだよっていう感じで。私は蒲田っていうのをすごい誉めてるの。日本人で、プレゼンテーションする人もあるいは外国からきてプレゼンテーションしている人も、僕はこれを伝えたいからここにいるんだっていう。

[画像]伊藤伊藤:海外の人もなぜかみんな高橋メソッドでしたよ。

[画像]伊藤伊藤:takahashi.jsっていうMozillaのXULを使ったプレゼンテーションツールかな? そんなのが流通していて、みんなそれを使ってプレゼンテーションしてて。

[画像]ひがひが:それって何でも高橋メソッドになるわけ?

[画像]伊藤伊藤:英語でも高橋メソッドでやってもらえれば、英語がわからなくてもなんとなくわかるんですよね。

[画像]ひがひが:ノリでね。それはセンテンスで区切るの?

[画像]伊藤伊藤:ワードで区切るの。一応日本語の翻訳を事前にやっておいて「それで通じるか?」て聞きながら進めていくんです。

[画像]濱野濱野:なるほどなるほど。

[画像]伊藤伊藤:その訳がまたおもしろかったんです。

木下拓哉氏
木下拓哉氏

[画像]吉岡吉岡:ハッカーで共有できる部分ってあるじゃないですか。それは言語非依存の部分で、日本語だろうが、中国語だろうが英語だろうが、なんとなく共有できるものがあって、そこはみんなで楽しめて。文化依存のところはあんまりないんですよ。PerlならPerlのみんなが共有する部分がある。PerlだけではなくLL特有のノリみたいな。そこがおもしろくて、Ruby対Perlなんていう。しかし根底には愛があるような感じで。憎しみあっているんじゃなくて愛がある中での、立場の違いだけっていう。相互にリスペクトしているからいい競争状態があるんじゃないですかね。

[画像]伊藤伊藤:Perlの人が環境さえ整えばRubyを使いたいけど、やっぱりまだPerlのほうが周辺環境が充実しているからとりあえずPerlを使っているっていう感じとかちょっとありますよね。

[画像]濱野濱野:Perl 5はあんまり使われていないですよ。

[画像]伊藤伊藤:いやいや、今は5ですよ。Perl 5は周辺環境は充実していてライブラリやフレームワークは一通りありますし、Webアプリケーションを作るための環境なんかはだいたい何でも揃ってます。Rubyは安定した実行環境とかフレームワークでこれだというものがなくて、ちょっと前まではPerlの人から見るとあと一歩って感じだったんですよ。それが Rails が出てきてWebアプリケーションに関してはがらりと変わった。昔は Ruby を使う人に「Perlもいいよっ」て言い返してたけど、最近はそういう理由もなくなってきて。Perl ハッカーも実はRubyを使いたいみたいな。

[画像]吉岡吉岡:そういう意味で言うと、アプリケーションを書く言語で言うと、PerlとRubyとPythonの人って仲いいじゃないですか。で、Javaがまた違う島を作っていますよね。あくまでイメージですが。そこでなんか横串を刺してみんなでわいわいできるとおもしろいかもしれないなって。

[画像]伊藤伊藤:LLの人はかたい言語に対して、ある種の敵対心を若干持っていて、仕事でコードを書くっていうと、最近PHPとかも多いみたいですが、やっぱりJavaが多いじゃないですか。職業上Javaを使わなくてはいけないという強迫観念がどうして仕事で使っているとあって、家に帰ってRubyを触るとココロが落ち着くみたいな人が結構いるんです。実際にはJavaの本質的な仕様がきらいとかではなく、単に仕事で使わされているからいやだと思っていたりして。そういう会社にいくと、仕事ではJavaを使っているがRubyが好きなんですということで、場が盛り上がるみたいなことがよくありますね。

―続く。

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