酷い英語をもっとお願いします

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メーリングリストでもっとたくさん酷い英語を見かけたい。ネイティブじゃない人が英語が上手くなくてと謝る場面がもっと減ってくれたらとも思う。母語ではない第二,第三,あるいは第四の言語を,たとえ熟達していない状態でも,とにかく使ってコミュケーションを図ろうとするのは全く恥じるようなことなんかじゃない。もし,外国語だというのを理由に不安や気後れを感じて重要な貢献を果たさなかったり,FLOSSツールへ貢献する方法やその使い方について質問を控えたりしたのなら,そういうことが恥になるんだ。

訳注
FLOSSは Free/Libre and Open Source Software の略。フリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアとをまとめた言葉

オープンソースの美点の一つは多国籍ということ。それも“るつぼ”と見なしうる物事のうち最も真に“るつぼ”らしい多国籍なんだ。数百万もの人たちが英語で運用されるメーリングリストに参加してオープンソースを利用したり開発したりできるのは,英語が参加者たちの間で最も一般的な言語だからだ。でも,多くの人にとって英語は第一の言語(母語)ではないし(それどころか第二や第三の言語ですらない),FLOSSメーリングリストへの参加が英文を読み書きする唯一の経験,なんてこともある。そう,オープンソースでは,多様な文化に出会うとともに,英語のスキルが(または英語のスキルついての自己評価が)完璧ではない人々とも出会うことになるんだ。

訳注
かつてアメリカの多民族による構成を(金属を溶かし合わせる)“るつぼ”と表現していたが,最近では民族どうしが混ざり合わない“サラダボウル”と表現するのが普通となっている。

もし“拙い英語”についてわびているEメールを受信するごとに1ドルもらえるなんてことがあったなら,快適な老後を送る夢までもう一歩ってところまでぐっと近づけたかもしれないね。でも,謝罪なんて全然必要じゃない。むしろ声高にこう言わないと。メーリングリストで酷い英語をもっと見たいんだ!

第一に,他人と生産的なやりとりをしようと誠心誠意努力することで,恥ずかしさや気後れを感じてしまうなんてことは少しもあってはいけない。改善の余地はあるかもしれない。そこで否定的になるのではなく,だから新しい言語を学んでいこう,だから自分の言語スキルを向上させていこうと,人が前向きに努力しつづけるのなら,恥ずかしさや気後れではなく,称賛が与えられるべきなんだ。

第二に,人は自分のコミュニケーション能力を恥ずかしく思うと,発言を控えやすくなってしまうものだ。自分の言うことが理解されないかも,と質問を控えたり。最初の一回で言いたいことが伝わらないかも,と意見の表明を控えたり, というように。私はNovell社にいたことで素晴らしい経験ができたけれど,フリーでオープンソースなソフトウェアを愛する世界中の人々とたくさん出会い,話をする機会を得られたのもその一つ。おかげで私はそれまで以上に大きなコミュニティの一部になれたんだ。残念だったのは,私が会った中であまりにも多くの人たちが自身の英語力に何か気まずさを感じていたこと。私が話をした開発者の何人かは議論に参加したくないことを認めて,その理由が自分のレベルの英語スキルだと気まずい,理解されないんじゃないか,と感じているからだと教えてくれた。

たいてい,こうした不安は全くの見当違いだ。英語力に不安を漏らした人の多くは,まあ流暢ではないにしても,意思を疎通するには充分なくらいに英語ができていた。それなりに言語の壁が認められる場合でも,外国語で参加しようとする人が恥をかくことも,かかされることもあってはならない。というより,恥じるとしたら多言語を話せない私たちのほうであって,私たちがただ一つの言語しか使えないことを他の人たちに謝らなければいけないんだよ。

前に読んだセス・ゴーディンの『Linchpin』に,恐れによって人がいい仕事をしなくなり,芸術を生み出さなくなり,存分に力を発揮できなくなる様子があれこれと書かれていた。そこで私は,人が言語スキルについて謝らないと気がすまないときにも恐れる気持ちが大きく働いていると考えた。他の人たちのように言葉を話せないから,拒まれるのでは,誤解されるのでは,ただ無視されて終わるのでは,というようにね。

訳注
セス・ゴーディンは『バイラルマーケティング』などで知られるベストセラー作家,講演家,ブロガー。『Linchpin』は2010年2月に出版され,どうやら未邦訳。副題も含めると "Linchpin: Are You Indispensable? How to Drive Your Career and Create a Remarkable Future" 訳せば『要:あなたは不可欠な存在ですか? キャリアを推進させ並外れた将来を創り出すには』。英語の Linchpin とは車軸から車輪が外れないためのピンを意味し,転じて「根幹,要,急所,基軸」という意味となる。なお,日本語の「要(かなめ)」はもともと扇の骨をまとめておく部分のこと。

でも,その不安は真実じゃなくて杞憂だ,少なくとも真実であってはならない。ほとんどのコミュニティで,特に時間を割いて貢献する価値のあるところは,みんなからの声を聞くことに熱心だ。耳を傾けるぶんだけ余計な仕事が増えるにしても,その姿勢は変わらない。誰かがいい仕事をしよう,あるいは学ぼうとしているときに,その人の英語が完璧じゃないことを誰が気にするというんだろう? 自分の英語がたまにちょっとメチャクチャになるからってあなたが声を潜めていようとも,輝くばかりに才気があって,一緒に仕事ができると楽しい,そんな開発者がいるのをちょくちょく見ているよね。だから,僕はメーリングリストで酷い英語をもっとたくさん見かけたいし,きっとあなたもそうしたいと思っている。さあ,みんなにそう伝えていこうじゃないか。

訳者より

はじめに,日本語への翻訳と訳文公開とを快く承諾してくださったジョー・ブロックマイヤ氏に感謝します。原文が掲載されたサイト OStatic でのプロフィールによれば,ジョー・“ゾンカー(大酒呑み)”・ブロックマイヤ氏はフリーランスのライター兼編集者で,ITを10年以上扱ってきました。かつて Novell 社で openSUSE のコミュニティのマネージャを務めたブロックマイヤ氏はLinux Magazine, Sys Admin, Linux Pro Magazine, IBM developerWorks, Linux.com, CIO.co., Linux Weekly News, ZDNetなど多くに寄稿しているそうです。また,FLOSS(フリーソフトとオープンソースソフトウェアやその運動)の支持者であり,GNOMEのPRチームなどいくつかのプロジェクトにも参加しているようです。

原文記事を書いたブロックマイヤ氏は,日本語訳を読んだ方たちからのフィードバックも気になっているようでした。ぜひ,原文記事に“酷い英語で”コメントをして感想を伝えてみてください。ブロックマイヤ氏のメールアドレスも原文記事からたどって知ることができます。ブロックマイヤ氏の Spread the word. (さあ,みんなに伝えていこう)という願い,下手な英語でもコミュニケーションをもっととっていこうという気持ちを,少しでも多くの人に伝えることができ,ソフトウェアに関わる人々の一助となれば,この上ない喜びです。

訳した私もかつては海外の開発者の方々と情報交換をするさいに「拙い英語を謝罪」していた一人でした。でも,ブロックマイヤ氏の言うように,そんな謝罪は必要ありませんでした。基本的に開発者の方々は開発に貢献しようという姿勢を第一に評価します。日本に限らずアジア圏の開発者が比較的少ないこともあって,日本人が議論や情報交換に参加することを喜んでくれますし,言語の壁を取り除こうと協力してもくれました。私は当時「英語は変なところもあるけれど問題なく意味は通じているよ」と言われたことがあります。酷い英語でも大丈夫なものです。

日本語タイトル「酷い英語をもっと,お願いします」については,やはりこの記事の翻訳を検討していた,おがさわらなるひこさんから助言をいただきました。ありがとうございます。

訳者プロフィール

飛中漸
英語は中高の頃に試験から逃げ出して零点をとったほど苦手だったのが,言語学と出会って人並みに改善。日本のFlashアニメを英語で紹介するブログを書いていた縁で何度かFlashアニメの英訳を手伝い,調子に乗って動画ツールの英語を訳して紹介するサイトを開設(どれも現在は閉鎖)。最近は並列コンピューティングの教科書を原書で眺めたり,海外産ゲームの情報を集めたり。最後に読了した本は桝田省治著『ゲームデザイン脳 桝田省治の発想とワザ』。

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