新春特別企画

ゲーム業界、2013年の総括と2014年の技術的展望

あけましておめでとうございます。NPO法人国際ゲーム開発者協会日本の小野憲史です。新春企画でゲーム業界の技術的展望について解説する機会をいただきましたので、所見を述べてみたいと思います。

もっともゲーム業界といっても、今や多様化が進んでおり、ひとつにまとめることが極めて困難です。2013年に発売され、⁠10億USドルを最速で売り上げたゲーム」など、7つのギネス世界記録を受賞したグランド・セフト・オートVと、個人クリエイターが作るフリーゲームを同じ土俵で語るのは、どだい無理な話でしょう。そして、どちらのゲームがおもしろいと感じるかは、人によってまちまちなのです。

また家庭用ゲーム、PCゲーム、モバイルゲーム、アーケードゲームと、業態だけでも4種類が存在します。企業形態についても、ハードメーカー、パブリッシャー、デベロッパー、ミドルウェア企業などが存在します。技術のパッケージング化も進んでおり、いまやミドルウェア企業などが開発したエンジンやサービスなどを、個々の企業が用途別に組みあわせて実装する例が増加しています。そのため企業の種類や立ち位置ごとに、市場の総括や技術展望が異なるといえるでしょう。

そこで本稿では国内の家庭用ゲーム産業を中心に整理しつつ、必要に応じて他の業態についても補足していくことにします。

2013年、ゲーム業界の動き

次世代ゲーム機 ~PS4、Xbox ONEの発売

まず2013年の最大のトピックとなったのが、PlayStation4Xbox ONEという次世代ゲーム機の発売でしょう。どちらも海外市場で200万台の出荷を遂げ、非常に好調なスタートとなりました。しかし、日本市場ではいまだ販売されていません(PS4は2月発売予定、Xbox ONEは未定⁠⁠。2012年に発売されたWii Uもパッとしないのが実情です。

ソフトでもモンスターハンター4が400万本、ポケットモンスターX・Yが250万本の出荷を記録しましたが、どちらも携帯ゲーム機のニンテンドー3DS向けというが象徴的です。このように国内では、特に据え置き機を中心に「家庭用ゲーム離れ」が進行しています。

ソーシャルゲーム ~パズドラと艦これのヒット

そのかわりに市場が拡大しているのがソーシャルゲームです。中でも市場を牽引したのがスマホアプリのパズル&ドラゴンズとブラウザゲームの艦隊これくしょん~艦これ~です。前者は二年連続の大ヒットを継続し、後者はブラウザゲームの復権をはたしました。また海外産のゲームでありながら、国内でも大ヒットしたのがクラッシュ・オブ・クランキャンディクラッシュサーガ⁠。さらには「LINE POP」をはじめ、ゲームプラットフォームとしてのLINEの躍進も見逃せません。

このように2013年のゲーム業界は、家庭用ゲームからソーシャルゲームへのシフトが進みつつ、一方でモバゲー、グリーの二強体勢が崩れるという、多様化の進展に伴う市場拡大の年だったといえるでしょう。2013年の市場統計は、まだ存在しませんので、参考までに2012年の数値を挙げておくと、家庭用ゲームの国内ソフトウェア市場が2202億円CESA白書調べ⁠⁠、ソーシャルゲームが4531億円(ゲームエイジ総研)と2倍近い差をつけました。もっとも家庭用ゲームは海外出荷分を含めると4244億円となりますが、それでも同程度といった感はぬぐえません。2013年はこの傾向がさらに進んだのではないでしょうか。

ソフトバンクによるベンチャー買収

象徴的だったのがソフトバンクグループによるスーパーセルの買収です。同社は前述のクラッシュ・オブ・クランを生み出したフィンランドのベンチャー企業で、約1500億円を投じた買収劇に世界中が唖然となりました。売買収が日常茶飯事のシリコンバレーでも、ソーシャルゲーム分野でこれだけの動きは見られません。このことからもわかるように、ことソーシャルゲームに限定すれば、2013年で世界中でもっとも勢いがあったのが日本市場でした。その背景にあるのが高いARPUで、10月にはアプリストアの支出総額が世界一を記録しました。この傾向は2014年もさらに進むと思われます。

2014年の注目技術とは? ~CESAロードマップから読み解く

さて、このように構造的な変化が進んだ2013年の国内ゲーム業界でしたが、2014年はどのような年となるでしょうか。そして、そこでポイントとなる技術タームとは何でしょうか。私見を交えつつ解説していきましょう。

ゲーム業界の技術トレンドをチェックするうえで、欠かせない資料があります。それが業界団体のCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)が発表している、CESAゲーム開発技術ロードマップです。内容はエンジニアリング、ゲームデザイン、ネットワーク、サウンド、ビジュアルアーツに分かれており、企業の第一線で活躍するゲーム開発者によって、各分野で実装されている最先端の技術トピックと、数年後に実装できるであろう技術トピックが、箇条書きでまとめられています。

もっとも、こうした研究開発は各企業がこれまで、独自に進めてきました。しかし、ゲーム開発に必要な技術が高度化するにつれて、一社ではまかないきれなくなっていきました。そのため、気がつけばゲーム機のアーキテクチャはPCやモバイルがベースで、半導体から基本ソフト、ミドルウェアや開発ツールに至るまで、研究開発の多くが海外企業や、海外の学会頼みというのが現状です。そこで国内における産学連携の活性化などの目的で、公開されているのが本ロードマップ。2009年から毎年公開されています。

ただし、このロードマップで示されているのは、文字通り「ゲーム業界全体」の技術トレンドです。そのため本当に必要な技術は企業や業態で異なります。また実装においては、各企業のビジネス戦略が影響することはいうまでもありません。そこで、2014年のビジネストレンドも踏まえて、注目すべき技術を抽出してみましょう。

家庭用ゲームとソーシャルゲームの急接近

まず家庭用ゲームとソーシャルゲームの融合が進展します。すでにPS3とPS VitaではF2P(基本プレイ無料のアイテム課金)ゲームがリリースされており、PS4の登場でさらにこの流れが進むでしょう。逆にスマホ、タブレット向けでは、ミッドコアと呼ばれる、家庭用ゲーム並みのクオリティを求めるユーザが拡大しています。こうした流れに苦戦しているのが、これまでフィーチャーフォンを中心に展開してきたソーシャルアプリプロバイダです。一方で大手ゲーム企業はF2Pに即したゲームデザインを、ようやく習得しつつあります。そのため大手ゲーム企業のリッチなF2Pゲームが2014年は増加しそうです。

こうしたトレンドを受けて、サーバサイドではクラウドストレージのさらなる活用や、デバイス間でのデータベースの融合、ビッグデータのさらなる活用などが求められます。開発と運営の融合も、より高度な次元で求められていくでしょう。また、PS4とXbox ONEではゲームのプレイ動画共有がゲーム機側でサポートされており、通信量の劇的な増大が見込まれます。10Gや40G、OpenFlow、SDNなどの導入も求められるでしょう。一方でクライアントサイドでは、リッチ化するコンテンツ開発のサポートに向けて、ゲームエンジンやミドルウェアの進化が期待されます。Webアプリ向けにHTML5+JavaScriptによる開発が本格化し、WebGLまわりの標準化や浸透も期待されます。

次世代ハードで浮き彫りになるハイエンドゲームの課題

一方でハイエンドの家庭用ゲームでは、次世代ハードの登場によって、これまで基礎研究で培われてきた技術が、一気に製品となって市場に出ていきます。リアルタイム・グローバルイルミネーションの活用と、キャラクターアニメーションの進化は大きな技術トピックのひとつです。グラフィックが美麗になったぶん、それに即した間接光の設定や、キャラクターの動きが伴わなければ、違和感が目立ってしまうのです。特に国産のハイエンドゲームではRPGやアドベンチャーなどキャラクターの魅力を押し出すゲームが多いため、世界の雰囲気作りや、キャラクターの微細な動きによる情感などが求められます。リアルタイム・グローバルイルミネーションの活用は、すでに普及期に入りました。次はゲームAIや物理シミュレーションなどと融合した、リアルな動きの生成です。これらの技術は最終的にゲームエンジンに統合化されていくことが望まれます。

周辺技術に見る2014年のトレンド

周辺技術に目を向けると、昨年業界内で一躍注目を集めたのが、ゲーム専用のヘッドマウントディスプレイOculus Riftです。FPS(一人称視点シューティング)などの用途に限定することで、これまでにない広い視野角と、頭の動きに合わせた高い画像追随性、立体視による映像などを提供しました。2014年の発売を予定されており、PC向けのハイエンドゲームなどから対応が進みそうです。ハイエンドの3Dモデルを出力して開発チーム内で参考資料として使用するなど、3Dプリンタの開発現場への導入も進むでしょう。ゲームの映像をフレーム単位で配信してプレイするクラウドゲームも、2014年後半にアメリカでPS4向けにサービスが開始される予定で、注目が集まりそうです。

課金と消費税増税の考えかた

このほか、盲点になりがちなのが消費税対応です。かつてアーケードゲームでは100円玉を投入して遊ぶ商習慣を重視し、消費税分を据え置いた価格設定を続けたため、大きな逆風となりました。F2Pゲームではプレイヤーのアイテム購入が売上の源泉となるため、消費税が5%から8%、そして10%へと増加することは、企業の収益を直撃します。この増加分をコンテンツ料金に転化できないビジネスモデルや、コンテンツの価値上昇を提示できない企業は、利益率の悪化に苦しむことになるでしょう。そのためにもコンテンツ開発における、さらなるイノベーションが求められそうです。

資金とインディゲームの関係性

最後に技術トピックではありませんが、2013年に続いて注目されるのが、クラウドファンディングによる資金調達と、それに伴うインディゲーム(独立系/小規模ゲーム)の躍進です。この分野では米Kickstarterの一人勝ちで、国内のクラウドファンディングサービスと資金調達額が大きく異なっています。これがコンテンツ産業全体の活性化を阻害している要因のひとつとなっていることに、異論は少ないでしょう。もっとも、クラウドファンディングについてはルールの明確化など、社会的な基盤整備も求められています。2014年は業界を越えた議論が求められそうです。

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