2008年度日本OSS貢献者賞受賞者インタビュー

第3章 受賞者インタビュー(2)─奥地 秀則氏

2008年11月17日

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受賞内容

ブートローダ「GRUB」の主要開発者で,GRUB2では中心となって設計,開発に携わった

プロフィール

株式会社Nexedi代表取締役社長,フランスNexedi SA最高技術責任者(CTO)。GNU Official Maintainer(GNU GRUB)。平成14年度未踏ソフトウェア創造事業採択者。2003年に渡仏し,以来オープンソースERP「ERP5」のテクニカル・リーダーを担当。 EADS Astriumなど,多数のプロジェクト管理を経験。

授賞式での奥地氏

授賞式での奥地氏

1問1答

Q1:今回の受賞の感想について一言

私は日本OSS貢献者賞を受賞された方の中でも,関与してきた年数という意味で,かなり古い部類に入ると思います。しかし,他にもたくさんの偉大な貢献を成し遂げられてきた方々がいらっしゃる中で,敢えて私を選んでくださったことに,誇りを感じ,自分の業績が良いものであると認められたことに,大変感謝しております。

Q2:自分にとってのオープンソースソフトウェアとは?

ご存知のように,私は長年GNUプロジェクトに関わってきた人間なので,本当にやりたいことはフリーソフトウェアであって,オープンソースではありません。オープンソースはあくまでビジネス用の別ブランドネームに過ぎないと割り切っています。

しかし,ソフトウェアの自由を離れて,実用性に重きを置くことで,ソフトウェアの普及に大きな前進を見たことは間違いありません。誰もが自由にコンピュータを利用できる世界に近づくために,オープンソースは大変重要な役割を果たしていると思います。

Q3:これまでのオープンソースソフトウェアへの関わりについて

ソフトウェア開発者として,GRUB,Hurd,Linux,Zope,Ruby等,数多くのプロジェクトに参加してきた他,GNUjdocのようなドキュメンテーション・プロジェクトにも深く関与してきました。これらの開発活動以外にも,開発者がのびのびと活動できるよう,著作権や特許のような法制度のあり方や,DRMやTPMのような技術の発展を妨げる仕組みに対して深い関心を持ち,社会活動にも参与してきました。これらは必ずしもオープンソースに限った話ではありませんが,オープンソースの発展のために,非常に重大な影響を持つと考えています。

また,近年ではNexediの日本法人の社長として,オープンソースのビジネス的側面の推進にも一役買っています。まだまだプロプライエタリなパッケージ製品が強いエンタープライズ業界ですが,私が研究開発にあたってきたERP5によって,少しでもユーザの皆さまのお手伝いをしたいと考えています。

授賞式後の記念講演での奥地氏。フリーソフトウェア開発と法律についてお話されました。
自由にものを考え,作って公開する権利は憲法で保障されているはずなのに,実際は他の法律が妨害しているとのこと。奥地氏はこうした規制に反対する運動にも参加し,積極的に活動を続けています。

授賞式後の記念講演での奥地氏。フリーソフトウェア開発と法律についてお話されました。自由にものを考え,作って公開する権利は憲法で保障されているはずなのに,実際は他の法律が妨害しているとのこと。奥地氏はこうした規制に反対する運動にも参加し,積極的に活動を続けています。

Q4:OSSにまつわる話で一番インパクトのあったできごと,あるいは一番影響を受けたOSS関連の話題は?

純粋にオープンソースという点では,やはり1998年にEric S. Raymond等によって「オープンソース」という言葉が造られたことでしょう。すでに10年の歳月が流れたわけですが,私の中では,比較的最近の出来事です。たったのこれだけの期間で,これほどたくさんの誤用が生まれた事実を見れば,オープンソースという造語が世間に与えた影響の大きさというものが見て取れます。

しかし,オープンソースとフリーソフトウェアを同一視するならば,GNUプロジェクトを創始した時に,Richard M. Stallmanが執筆したGNU Manifestが最大といってよいでしょう。この文書に影響されてフリーソフトウェアを始めた人は世界中に何十万といます。

彼がこの文書で提案したビジネス手法は,長い間荒唐無稽であるとみなされることが多かったのですが,現在オープンソースでビジネスを行っている企業のほとんどが,この文書にすでに書かれていた方法に則って,利益を上げています。彼の先見の明は素晴らしいです。

Q5:エンジニアに必要な要素とは?

たびたび申し上げていることですが,簡単に言えば,やる気です。ほとんどすべて,ここに集約されると感じています。人によって,何にやる気を感じるかは全く異なります。

技術そのものに興味を持ったり,ユーザの幸せに喜びを感じたり,流行のサービスを作ってユーザ数を集めることが楽しいと思う人もいます。いずれにしても,エンジニアとしてできることの中から,何かに夢中になることが必要です。やっている本人が楽しいと感じなければ,勉強する気になれないのでスキルも伸びないですし,ソフトウェアやサービスの質も向上しません。オープンソースがこれだけ発展できたのは,おもしろいと思って集まった人,そういう熱意のある人たちで作り上げてきたからだと思います。

講演では,自由な開発を阻害する動きに技術者ももっと声をあげるべきと提言されました。
海外を舞台に活躍されている奥地さんだからこそ言える,説得力のあるご意見です。

講演では,自由な開発を阻害する動きに技術者ももっと声をあげるべきとの提言されました。海外を舞台に活躍されている奥地さんだからこそ言える,説得力のあるご意見です。

Q6:これからOSS開発,OSSの世界に踏み出したいと考えている若手エンジニアへのコメント

オープンソースの世界は完全実力主義です。資格も学歴も関係ありません。がんがん貢献して,成果を出せる人は,確実に周りから評価され,尊敬され,信頼され,重要な役割を任せられるようになります。その中で,本人も成長し,たくさんの分かり合える仲間を見つけていくことができます。だからといって,初めから,すごく出来るエンジニアである必要もありません。みんな,私自身を含めて,参加して,手を動かしていく過程で,少しずつ新しいことを学び,失敗もしながら,段々成長していくのです。それが受け入れられるだけの懐の深さというものがあるように感じます。

オープンソースでは,みんな「本物」が好きです。決して職業プログラマの世界では味わえない,遙かに充実した世界が待っています。本当に技術が好きな人は,ぜひ参加して,楽しんでほしいと思います。

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