2008年度日本OSS貢献者賞受賞者インタビュー

第4章 受賞者インタビュー(3)─中野 雅之氏

2008年11月17日

この記事を読むのに必要な時間:およそ 2 分

受賞内容

Firefoxの開発に関わり,日本語入力システムとの連携機能などの実装に貢献

プロフィール

1999 年~2003年(株)コンピュータ技研 システム開発に従事。2000年~Mozilla Open Source Projectに開発者として参画。2004年~現在 有限責任中間法人 Mozilla Japan 技術部 国際化担当マネージャ。

授賞式での中野氏

授賞式での中野氏

1問1答

Q1:今回の受賞の感想について一言

今回の受賞理由である開発作業というのは私一人では成り立たないもので,多くのボランティアの貢献者の方に支えられて形になっています。そのボランティア活動は私自身もMozilla Japan設立以前に行っていましたので,その難しさ,厳しさは身にしみてわかっています。ですから,推薦を受けた際にフルタイムで作業している自分が受けるべき話なのかどうか,数日悩みました。ですが,支えてくれた貢献者全員への評価が行われるのだと考え,推薦を受けることにしました。その結果,受賞という最高の評価をいただけたことにはとても嬉しく思います。

Q2:自分にとってのオープンソースソフトウェアとは?

私自身,オープンソース「ソフトウェア」にはこだわりはほとんどありません。Mozillaに関わりだしたのもオープンソースソフトウェアだから,という訳ではなく,オープンソースだったおかけで単に気軽に参加することができたから,ということが理由です。気軽に開発に参加できるという点は開発に参加できる人には非常におもしろいことだと思います。気になるバグを追跡することもできますし,労を惜しまなければ自分で修正することも可能ですから。

ですが,私自身に開発する能力があったとしても,利用するオープンソースソフトウェア全てに対して開発作業に参加できる訳ではありませんので,単にユーザとして利用するだけの場合はオープンソースで開発されているのかどうかはさほど重要視していません。私に限らず,一般的なユーザが利用するソフトウェアを決定する際には,導入に必要なコストと製品のクオリティ以外に評価すべき点は無いと考えています。ユーザにとっては開発スタイルなんてどうでも良いことでしかないはずですし,そうでなくてはいけません。

ユーザに使ってもらえる良いソフトウェアを作るには,その開発スタイルに関わらず大変な開発作業が必要です。オープンソースかどうか,というのはその大変な開発作業を組織内で完結させるのか否か,この部分が違っているだけです。オープンソースだから良いものができるのではなく,オープンになった開発現場で汗をかいてくれる組織外の方々が居ることで,初めてオープンソースではない競合製品に対してアドバンテージが生まれるのです。

授賞式後の記念講演での中野氏。Mozilla Japanでの活動,とくにバグ報告とその解決についての苦労談を中心としたお話です。Bugzilla-JPはよく機能していますが,もう少し初心者向けのシステム,コミュニティが必要とのこと。

授賞式後の記念講演での中野氏。Mozillaジャパンでの活動,とくにバグ報告とその解決についての苦労談を中心としたお話です。Bugzilla-JPはよく機能していますが,もう少し初心者向けのシステム,コミュニティが必要とのこと。

Q3:これまでのオープンソースソフトウェアへの関わりについて

もともとNetscape Navigatorのユーザだったのですが,Netscape社はブラウザ戦争の後,オープンソース化してからも後継バージョンの開発に難航していました。そんな中,2000年にいくつかの開発版を試す機会がありましたので,追いかけてみることにしました。ですが,気になるバグが一向に修正されなかったんです。そこで気になるバグを報告し始めたのが開発に関わりだしたきっかけです。

その当時はブラウザとは全然関係のないシステム開発の会社で働いていて,仕事から帰ってから寝るまで色々とチェックするのが日課でした。この当時はC++のコードを書くことも,ビルドすることもできませんでしたので,もっぱらバグの管理やWeb標準仕様の啓蒙活動を行っていました。

そして会社を辞めて時間ができた時にC++の勉強がてらにMozillaのバグを修正するコードを書き始めました。そんな頃に Mozilla Japan が設立され,より真剣に関わり出すことになり,現在に至っています。

Q4:OSSにまつわる話で一番インパクトのあったできごと,あるいは一番影響を受けたOSS関連の話題は?

Firefoxはおかげさまで多くのユーザに利用されています。ソフトウェアの性格上,パソコン自体のライトユーザの方も非常に多いようです。

このようにユーザの幅が非常に広くなったためか,オープンにしている開発現場にサポートを期待して来る人がいることに驚きました。「オープン」とか「フリー」といったOSSの売り文句のうち,耳障りの良い単語を都合の良いように解釈しているのではないか,と感じています。『無料だけど,サポートはしてもらえて当然』『開かれているんだから入っていって何をしても良い』等,そのように考えているのではないかと思われるもめ事が後を絶ちません。

また,『自分の困っているバグを優先的に修正してくれて当たり前』『要望を開発者は聞き入れて当たり前』という考えの人もいました。もちろん現実的に考えて,そんなことはできるわけが無いのですが,それほど少数でも無い人たちがこう考えているようで,驚かされます。

今後,OSSがより一般的になっていけば,『モンスター○○』という呼ばれる人の出現が,各プロジェクトで問題になってくるのではないかと心配しています。

Q5:エンジニアに必要な要素とは?

よく,コミュニケーション能力が必要と言われます。これはその通りです。特にOSSの場合,コミュニティとの連携が重要ですので,コミュニティの方々とのコミュニケーションは重要です。

次にポジティブな発想と鈍感力が必要です。モノを作るということはそれが評価され,批判されます。オープンソースであれば名前も作業内容も露出してますので,名指しで行動を批判されたりもします。自分の問題点を知る上では有益ですので,ポジティブにとることが必要ですが,あまり真剣にとりすぎると潰されるだけなので,鈍感である必要もあります。

また,ニュアンスは違いますが,生活面も含めて,エンジニアが安心して開発作業や勉強に専念できる環境が必要です。日本のエンジニアは地位が低いと言われますが,実際に日本の多くの企業ではこの部分が軽視されていると思います。自由になる時間や金銭が無いと,勉強して自分を向上させることもままなりません。エンジニア自身はこの点に関してどん欲ではなくてはいけないと思います。そのために,エンジニアはその環境を得ようとする必要があります。非常に難しい話ですが。

講演の最後に,よりユーザに近い新たなコミュニティを2009年に立ち上げることが発表されました。

講演の最後に,よりユーザに近い新たなコミュニティを2009年に立ち上げることが発表されました。

Q6:これからOSS開発,OSSの世界に踏み出したいと考えている若手エンジニアへのコメント

ああ,もう若手じゃないんだ,(笑)…。

冗談はさておき,もし,あなたがエンジニアになるために勉強をしている最中なのであれば,勉強しすぎないように気をつけてください。

ソフトウェアのエンジニアになるために勉強しようとすると,知識を多く持とうとしがちです。興味のあるモジュールのコードを書ける程度に知識を持つことができればそれで十分です。広範な知識を得るために時間を割くよりも,その時間を実際にコードを書く時間に割いてください。知識だけでは評論家にはなれてもエンジニアにはなれません。RSSリーダに入っているエントリ数が膨大で,読むだけで1日が終わってしまうような人は要注意です。実際問題,広範な知識を持っていたとしても,あなたがそれを全て発揮することはできないでしょう。実際にコードを書くというのはそれほど短時間でできる作業ではないからです。

そして,PCの前に居ない時間を大切にしてください。息抜きは大切ですし,また,その時にPCとは関係のない「何か」を体験したことが,エンジニアとしてのあなたにとってきっとプラスになります。

最後に,きちんと寝ましょう。寝過ぎもよくないですが,睡眠不足でコードを書くといらない仕事が増えます。体調が優れない時には,ミスが許されない仕事はあえてしないことも重要です。

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