もう昔の話になります。ささいな行き違いもあって,言葉を交わすことさえできなくなった仕事仲間がいました。私も若くて態度が悪かった時期でしたが,向こうも徹底してこちらを無視していましたので,当然のことながらこの二人の間での仕事の能率はひどいものでした。
こうして大げさにいがみ合うのではなく,静かに無視し合う日々がある程度続いていたある日,どういう風の吹き回しか「この状況をハックできないだろうか…」という発想が浮かびました。苦々しい行き違いの過去はいったん横におき,「技」としてこの状況をなんとかできないかと思ったわけです。
そこでそれから毎日,次の3つを行うことをルールにして,相手の変化を観察(失礼!)してみることにしました。それは,
- 必ず挨拶をする
- 仕事上の話を必ず他人ではなくこの人に優先して相談する
- 意見の相違で対立しそうなときには自分がいったんその場を離れる
の3つでした。
最初の数日こそ相手も驚いたようでしたが,それから数週間目立った変化はありませんでした。一ヶ月もたつと,挨拶をして無視されても私自身が気にならなくなり,こちらが勝手に声をかける日が続きます。しかし数ヶ月たった頃から相手も反応も返すようになり,軽い会釈から,会話による挨拶に変化してきました。そして半年後には,仲が良くなったわけではないにせよ,仕事上必要十分な会話ができるようになりました。
気づけば,そもそもなんで関係が悪かったのか,思い出すこともできなくなっていました。
チームハックの3つの法則
あなたがチームの一員として働いているのであれ,チームをまとめる立場の方であれ,人間関係なしにはどんな仕事も進まないものです。
仕事のストレスの第一位が常に(特に上司との)人間関係なのは洋の東西を問わず同じです。それもあって,欧米のライフハック系ブログにもいくつか「人間関係」だけに特化したものがありますし,LifehackerやLifehack.orgにも人間関係,オフィス環境に関するカテゴリがあって,関心の高さを伺わせます。
しかし人間関係ほど複雑で,ルール化するのが難しいものもありません。先に紹介した悪い人間関係を解消するハックも,この場合はうまくいきましたが,別の場合には効果がなかったことがあります。人間関係・チームの関係をカイゼンするハックには,「これさえおさえておけば大丈夫!」という王道がないのです。
しかし横断的に広く人間関係のライフハックを読み込んでいるうちに,繰り返し登場する3つの法則のようなものがあることに気づきました。
第1の法則:惜しみなく与える習慣
第1に多く見られるのが,自分の持っているテクニックやスキルのなかで他人にも便利なものを積極的に共有してゆこうというものです。また,デザインのアイディアなど,自分がすぐに使わないアイディアも共有することで相乗効果を生み出そうという記事も多く見かけます。
この背景には,どんなスキルや情報であっても,いまはネットを通じて豊富に探せることがあります。プログラミングの便利なコツだとか,仕事のテクニックなどの情報それ自体の価値は下がりつつあるのです。
だからこそ,良い情報やアイディアは一人で抱え込むのではなく,どんどんとチーム内で共有してゆくほうが結果的にチーム力や人間関係の改善を通して自分自身に入ってくるメリットも大きくなります。よくブログで紹介される傾向にあるのは次のようなポイントです。
- 1. 自分の分身を作る
- 同じテクニックやアプローチをもった仲間を作ることで,仕事を任せたり,任されたりする連携を強められます。また,アプローチに共通点がある人は信頼したくなるものですので,人間関係のベースにもなります。
- 2. アイディアは天下の回り者
- アイディアにも鮮度がありますし,自分にとっていまいち利用できないアイディアが他人を強くインスパイアすることはよくある話です。自分の才能が盗まれるなどと考えず,思いつきやひらめきを共有することで,チーム全体の生産性が上がりますし,メンバーに聞けば誰がそれに貢献しているのかは一目瞭然となります。
- 3. 価値観の共有
- 情報,テクニック,ツール,アイディアを共有することで,露骨に間違った情報や使えないテクニックは自然に淘汰されていきます。そして残るのは,チームの力の源泉となる技術や価値観となります。いったんこうしたベースができあがると,人間関係はなかなか崩れません。
よい情報を常に発信するには,自分自身の努力も不可欠ですので,結果的に自分のためにもなって,チームのためにもなって一挙両得になるという点も見逃せません。
そもそもライフハックの盛り上がり自体が,ハックや日常の技の共有だったことを考えると,こうした情報の共有が持つ力は非常に納得がいきます。
第2の法則:コミュニケーションは基本的に全て失敗する
他人とのコミュニケーションを円滑にしようと試みるハックも数多くあります。その多くは「コミュニケーションは常に失敗する」ことを前提として,言葉の伝達に冗長性を与えることを目的にしたものです。
- 意図が通りにくそうな内容は口頭で伝えてからさらにメールで確認を行う
- 相手の言ったことを自分の言葉で言い直し(リフレーズ)する
- 話す以上に聞く
- 会議を起立したまま行い,アジェンダに集中した会話を交わす
こうしたものはハックというよりも社会人の常識に近いものが多いわけですが,ライフハック的な視点で分析すると,自分・他人の意図が正確に伝わることを2重にチェックするテクニック・会話のフローを作ろうというポイントにまとめられると思います。
コミュニケーション不全に伴う誤解やミスは取り返すのに何十倍も時間がかかることを考えると,こうした手間は決して無駄ではないでしょう。

