ライフハック交差点

第11回Google Gearsがワークスタイルを変える

去年の今頃にはまだ存在しなかったツールが、ゆっくりと私たちの毎日を変えようとしています。それは新しく開発された GTDアプリケーションのようにはなばなしい物でもなければ、ベストセラーの本のように耳目を集めるものでもありません。当初は注目されたものの、今は地味にブラウザの中にじわじわと入り込んでいる、縁の下の力持ちのような存在、それがGoogle Gearsです。

Google GearsはFirefoxとIE向けに書かれた拡張機能で、インターネットに接続していなくてもウェブアプリケーションを使用可能にしてくれます。ネットとの間の非同期の通信がなければ動作がままならないのが最近の多くのウェブアプリケーションですが、Google Gearsはネットに接続できない時に、SQLiteデータベースと自前の小さなウェブサーバー・Javascript拡張機能を駆使して、あたかもネットに接続しているかのようにユーザーにウェブアプリケーションの動作環境を提供してくれます。

モバイル接続が以前に比べて安価になった今でも、まだまだ世界の隅々までネットが広がったわけではありません。オフライン機能との上手な付き合いは、時間や労力を節約すると同時に、今までは意識的に避けていたワークスタイルの扉を開いてくれようとしています。

いくつか代表例を選んで、ご紹介しましょう。

Google Reader

情報インプットの手段として一般にも定着し始めているRSSですが、出先でRSSを購読しようとした場合、記事を手元にダウンロードして購読する専用のRSSリーダーを使う必要がありました。

その場合、複数のパソコンの間で既読・未読情報の共有が難しく、ノートパソコンで読んだ記事を、もう一度デスクトップPCでも目にしてしまうことが往々にしてありました。

www.google.com/accounts/ServiceLogin?hl=en&nui=1&service=reader&continue=http%3A%2F%2Fwww.google.com%2Freader>Google ReaderLivedoor ReaderのようなオンラインのRSSリーダーが定着した一因には、ネットに接続してさえいればどのマシンで購読していても既読・未読情報が一元管理できる便利さがあったと思います。

しかしここでGoogle ReaderがGoogle Gearsによるオフライン使用に対応してくれたおかげで、新しい可能性が生まれました。たとえば次のような、⁠時間を盗む」情報収集のワークスタイルの道が開いたのです。

  • 自宅で読み、通勤途中でブログの草稿を書き、次にネット環境に接続できたときに記事をアップロードするという流れの作業
  • ネット環境のない移動中にあとで詳しく読むべき記事にスターやタグをつけてゆき、自宅に帰ってからゆっくりと読む

常に創造的なアウトプットを行なうためには忙しくても情報のインプットの流れを絶やさないことが不可欠です。このようなワークスタイルを隙間時間に入れる手順を確立できれば、大きな助けとなってくれます。

Google Docs & Zoho Writer

ウェブアプリケーションの花形と言えば、オンラインのワープロが挙げられますが、先にこの分野でオフライン化に成功したのは本家Googleではなく、Zoho Writerでした。

しかし先月から、英語版を中心としてGoogle Docsでもオフライン利用が可能になり、やっと役者がそろったといったところです。日本語版のGoogle Docsではまだオフライン化が全てのユーザーには提供されていませんので、この機能を早く使いたい人は設定から言語に「英語」を選ぶようにしてください。メニューなどの表示が英語になりますが、機能には変化はありません。

Google Docsのオフライン機能にはいくつかの制限があります。まず現時点では表計算とプレゼンテーションは閲覧のみで、編集することはできません。また文書についても、既存の文書を編集することはできますが、オフライン中に新しい文書を新規作成することはできません。

ユーザーはオフラインで Google Docs を持ち出す前に、ページ右上のステータスが "Synchronized"になっていることを確認しさえすれば、その文書が最新のものであると安心できます。

また、Google Reader に比べて便利な点は、Google Docs をデスクトップにアイコンの形で置いておき、まるでネイティブのアプリケーションのようにダブルクリックでいつでも利用できるようになっている点です。

Google Docsの文書は複数の人で共有し、互いに強調して執筆を行なうことが可能ですが、ここでもオフライン機能は効果を発揮します。たとえば、次のようなワークスタイルが考えられます。

  • 現在作成中の文書を、完成前からチームと共有してフィードバックを得ながら、オンラインでもオフラインでも編集し続ける
  • 飛行機に乗る前にGoogle ReaderとDocsの文書草稿をGoogle Gearsでシンクロしておき、機上で仕上げてから目的地でブログにアップする

「文書は完成してから配布するもの」という考え方に修正を加えなければいけませんが、このスタイルには大きな可能性があります。互いに離れた場所で仕事をしている小規模のチームなどにとっては、アイディアを共有するよいツールとなってくれるかもしれません。

Google Docsの文書の場合、オフライン時に共有している他のユーザーが書き換えた部分と自分の変更点が競合した場合もその部分を把握できますし、変更履歴から誰がどの部分に手を加えているかをモニターすることも可能です。

Remember the Milk

オンライン上でタスク管理を行なうことができるサービス、Remember the Milkも早くにオフライン化に対応したサイトでした。

オフラインでのRTMはオンラインのそれとほとんど何も変わりません。新しいタスクの作成、情報の編集、削除、カテゴリの変更など、すべてがオフラインで可能になっています。ただし、オフライン・オンラインの切り替えはGoogle Readerと同じでユーザーが意識的に行なう必要があります。

タスクマネージメントはまさに「いつでも・どこでも」アクセスできることが必須ですが、これまでは何もこうしたタスク管理をウェブアプリケーションで行なわなくても、手帳やPDAのようなもので行なった方が、タスクの持ち出しは便利でした。

しかしウェブアプリケーションの利点の一つである「タスクの共有」を考えると、Google GearsでRTMを持ち歩けるようにした方が便利になります。タスクの一覧表はもはや自分だけのものではなく、あなたの仲間がリアルタイムにアップデートしたり、追加したり、消去しているものだからです。たとえば、次のようなスタイルを作ることができます。

  • 実行しなければいけないタスクをブレンストーミングしてRTMのタスクリストという形でチーム内で共有し、それぞれのメンバーが個別にタスクをこなしながら、新たに発生したタスクを加えてゆく

このとき、オフラインの利用ができれば出先にタスクリストを持ち出して、ネット環境に接続するたびに最新の状況をモニターすることができます。

Mindmeister

ブラウザのなかでマインドマップを作成できるMindMeisterというサービスも、Google Gearsに対応しているウェブアプリケーションの一つです。

マインドマップには思考やビジョンを他人と共有できるという利点がありますが、それはまさしくウェブアプリケーションに向いている点です。一方で、アイディアが生まれてくるのを「いつでも、どこでも」捉えてゆくために、マインドマップにいつでもアクセスできるのも重要です。

MindMeisterはその両方をGoogle Gearsを用いて可能にしています。マインドマップをオフラインで描きながら、ネットに接続したら一瞬でそれを仲間と共有することが可能なのです。

メール

今のところGMailはGoogle Gearsを使うようにはなっていませんが、あなたのアカウントがIMAPプロトコルに対応したGMail 2なら、お気に入りのメールソフトで同じような利用方法が可能です。IMAPならオフライン時に読んだメールの既読・未読情報、フォルダ整理状況がネットに接続されたときにGMail側とシンクロされるためです。

意識して利用するなら、たとえ電波の届かないジェット気流のただ中でも、洞窟のそこでも、Google Reader、Google Docs、そしてメールを開いて最低限の作業を進めることが可能だというわけです。

(あなたのアカウントがGMail 2になっていない場合は、Google Docs同様、言語を「英語」にすればメニューが英語かされるのと引き替えに新機能を使えるようになります)

オフライン・ワークスタイルの登場

ここまで見てきたように、発表から1年たったGoogle Gearsを用いたオフラインツールがそろい始めるのとともに、それらを意識して使いこなす新しいワークスタイルが登場し始めたといえます。

ここで鍵となるのが、Google Gearsは、次のようなウェブアプリケーションの利点をさらに補強する方向で使ったときに最もメリットが大きいという点です。

  1. ネット環境があればどのマシンで利用しても常に最新の文書、タスク、RSSが得られるシンクロした環境
  2. リアルタイムで他人と情報を共有し、フィードバックを得ることができる

また、Google Gearsを用いたオフライン環境の恩恵を最大に受けるためには、「いつ、どこで」使うかという計画を先に立てておくのが不可欠です。

たとえばこの原稿は15分の通勤バスの中でオフラインのGoogle Docsを用いて複数回にわけて書かれましたが、デスクトップのiMacのとなりのMacBookでブラウザが立ち上げておき、オフィスを出発する前に必要な情報がGoogle Gearsに格納されていることを横目で確かめてから出発するようにしています。

また、必要な周辺情報はGoogle ReaderとEvernoteに蓄えてあるので、途中で「あれ? あのメモがないと書き進められないぞ」という事態を最小限におさえる工夫も必要になりました。どの時点でどの情報にアクセスできることが必要かを先読みしておくことが、オフライン環境を最大限活かすことにつながります

オフライン・ワークスタイルは、これまでのオフラインのアプリケーションの良いところと、ネットの便利さとの交点に存在する、2,3年後には常識となっているような新しい時代を先取りしたもののような気がします。

まだまだいろいろな試行錯誤がされているウェブアプリケーションの最前線ですので、皆さんもぜひ毎日の生活のどの部分にこの新しいスタイルを取り込むことができるかトライしてみてください。

次回は、プラットフォームとして利用され始めたTwitterの可能性についてご紹介したいと思います。

それでは次回まで。

Happy Lifehacking!

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