なぜ、エンジニアの採用は難しいのか?

第2回見つからないエンジニアを探し出す技術

能力に自信がないのは、評価する機会に恵まれていないことの裏返し

  • 「自分にそんなに自信を持っているエンジニアはいませんよ」

先週、とあるエンジニア対象のイベント(トークショーのゲストとして出演していました)で出会ったエンジニアの多くは、⁠エンジニア採用が難しいと企業が悩んでいる、だからエンジニアにとっては売り手市場なのだ」といくら説明しても、自分自身の能力にイマイチ自信が持てない、といった様子でした。

しかし、求人倍率などのデータを見れば、転職市場にエンジニアが足りていないのは一目瞭然です。私自身がプロデュースしているCodeIQへも、企業の採用担当者たちからの期待が高いことからも明らかなのですが。

本連載を読んでいる皆さんの中にも「自分の能力に絶対の自信がある」という人は、それほど多くないのかもしれません。しかし、それは同時に、自分の能力を客観的にアセスメント(評価)する機会に恵まれていないことの裏返しでもあるのです。

言い方は悪いのですが、自分勝手に1人で「能力がない」と思い込んでいるだけのケースも少なくありません。資格試験を別にしたら、特段自分の能力をアセスメントする仕組みが用意されているわけではありません。

「勉強会に参加している=自ら能力の向上に努めようとしている」ととらえる採用担当者も

けれども、その気になれば自分の能力を客観視することはそれほど難しくありませんよね。たとえば「勉強会に参加する」のは、手っ取り早い方法の1つです。

CodeIQのプロデュースを始めて驚いたのは、エンジニアの間では勉強会が盛んなことです。エンジニアはとにかく勉強会やカンファレンスやミーティングやセミナーや、あれこれ理由をつけ、集まり、そして学ぶということを繰り返していることに気がついて、とても感心したものです。

たとえば、営業マンが集まってセールススキルを磨き合うという勉強会はゼロだとは言いませんが、とても少ないと思います。総務の担当者たちが集まってスムーズにレイアウト変更をするためのセミナーを頻繁に開いている、という話も耳にしません。そう考えると、エンジニアの皆さんは、他人と触れ合うことで、自分のスキルを客観視する機会に恵まれている、と言っても良いでしょう。

そのエンジニア独特の文化や特性に着目した採用担当者も、実は少なくありません。勉強会に参加している=自ら能力の向上に努めようとしている(本当はそうではないということを理解していますが、採用担当者の中にはそう思ってしまう人も少なくないようです)と考えます。

だから、そこに行って「転職したい人はいませんか?」と声をかければ、いままで見つからなかった良質で前向きなエンジニアと出会えるかもしれない、と期待して足を運んだり、スポンサーとしてかかわったりします。

もっと積極的な企業だと、自社のエースエンジニアたちに働きかけて、積極的に勉強会を開いてもらうというケースもあります。さらに、自社の技術を開陳する機会を作って、その技術にほかの企業のエンジニアに興味を持ってもらう「接点」を生み出そうとしているところもあるようです。⁠エンジニアの勉強会には積極的に会議室を貸し出す」という仕組みを持っている企業も増えてきました。そのためだけの担当者を用意する企業も出現し始めるほど。

そう、⁠出会いの場所としての転職市場が機能を発揮していない」もしくは「なかなか出会えない場所になってしまっている」ことに危機感を持っている企業は、自前で出会いの場を作ろうと、いま懸命になっているのです。

これを読んでいる採用担当者の中で「勉強会に着目したことなどなかった」という人は、可及的速やかに、自社のエンジニアに話を聞いてみるべきだと思います。

変な人、使えない人、困った人がやってくるのを防ぐには、採用担当者を巻き込む

こう書いてしまうと、⁠勉強会はそういう場所じゃないから、企業の変な論理を持ち込まれるのは迷惑だ」とか、⁠だから、勉強会で名刺を配りだす妙な人事がいるのか」という、怒りにも似た声が上がってきそうです。ただ、エンジニアの勉強会などの活動に採用担当者たちが注目し、積極的に接点を持ちたがるようになると、エンジニアの皆さんにとっても大きなメリットがあるはずです。

たとえば、次に自分自身が転職するときに「過去の遺物としか思えない履歴書」「仕事がどのくらいできるのかわからない職務経歴書」を一生懸命書き続け「何十社もの転職エージェント」たちにばらまくという活動をしなければならない、という状態が変わるかもしれません。

いまでも、GitHubにコードを上げておくことで発見してもらう、もしくは、ソーシャルネットワークツールを使って転職活動をする方法もあります。しかし、まだまだ主流ではありません。そもそも、採用担当者たちがその場所にたどり着けるかどうか(エンジニア出身の採用担当者なら大丈夫なのですが⁠⁠。

「自社のエンジニア採用がうまくいっていないな」と気がついているエンジニアの皆さんは、どうぞ自社の採用担当者たちに「エンジニア同士の勉強会を採用に活用し始めている企業があるようだぞ」とインプットしてあげてください。エンジニアの皆さんのそういう地道な努力が、エンジニア自身の採用環境を変えることにつながりますし、ひいては「自分の同僚」に変な人、使えない人、困った人がやってくる、そんな悲劇の予防にもなるのです。

「とりあえず接点を持とう」とする採用担当者は落とし穴に落ちる

ここからは、エンジニアの皆さんにとっては「ちょっと気分の悪い」話かもしれません。人材採用とは狩りと同じです。獲物がどこにいるのかがわからないと、ハンティングはできません。

いままでは「求人しています!」と大きな声を出せば、人がやってくる時代でした。しかし、現状はそうではありません。転職したいと考えている人たちが「どこにいるのかわからない」のです。だからこそ、まずは「獲物が集まっている場所」を見つけ出すことが、採用担当者がエンジニアを採用するために身に付けなくてはならない技術の1つなのです。

ただ、今回の話だけでは「エンジニアが集まっている場所」の1つが特定できたに過ぎません。当然のことながら、彼らが転職する意思を持っているかどうかはわかりません。⁠採用する」という視点に立つと、⁠転職しようとしている人たちと接点を持たなければ意味がない」と考えがちです。が、そう短絡的になってしまうと、落とし穴に落ちてしまいます。

次回は「エンジニアを転職させたいと翻意させる技術」について、少し考えたいと思います。お楽しみに!

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