エンジニアと経営のクロスオーバー

第8回教育におけるエンジニア出身社長の得手不得手

今回は前回の続きで、教育について、エンジニア出身社長の得手不得手を考えてみます。

技術を教えるのが得意でも、自分の今の技術力を見誤ると迷惑になってしまう

まず技術力ですが、これは正直ピンキリでしょう。技術力の高い社長、低い社長、教えるのが得意な社長、不得手な社長などさまざまです。ただ、技術力の高低はあっても、教えるのが不得手な社長というのはあまりいないような気もします。技術力が高くても、インフラとプログラミングなどジャンルが違うとハードルが上がりますが、エンジニア出身であれば、技術力そのものの教育に向いている可能性は、エンジニア以外の職種出身の社長よりは断然有利なのはまちがいありません。ほかの職種に比べて、傾向としては一番アドバンテージがある部分の1つだといえるでしょう。

だからといって、謙虚さを失うとけっこう厄介なのも事実なので、そこは気をつける必要があります。⁠自身の技術は今でも通用するのか?」⁠教える対象の社員よりも技術力が高いのか?」そこを見誤って教育すると、正直相手は迷惑なだけですし、社長相手だと断りづらいので自覚しにくいのも事実です。

技術力の磨き方は、ほかの職種出身の社長とそこまで大きな差がつかない面も

次に技術力の磨きかたですが、正直こちらのほうが教育に向いているケースが多いような気もします。社長になっている時点で、技術力の磨き方についてもそれなりに自身のポリシーを持っている可能性が高いですし、技術そのものよりもその内容が役に立つケースが多いでしょう。

ただ反対に、技術力の磨き方は、ほかの職種出身の社長とそこまで大きな差がつかないという面もあります。営業出身とか管理出身の社長がプログラミングやネットワークやサーバや設計について教えるのはほぼ不可能だと思いますが、技術力の磨き方であれば、営業や管理で有用な内容のうち、ある程度は役に立つ可能性があります。

そういう意味では、技術力というのは次の2つに分けられます。

  • 技術に特化した内容(⁠⁠どこのサイトが有用である」⁠良書はどれか」⁠結果の評価の仕方」など)
  • 技術に特化していない内容(⁠⁠心構え」⁠他人の意見の汲み取り方」など)

エンジニア出身の社長が得意とする可能性が高いのは、前者であるといえます。

コミュニケーション力が高いと、技術力が低いことが露見しづらい

仕事の進め方については、エンジニア出身という点が有利に働くケースが多いかもしれません。エンジニアから社長になったのであれば、自身が関わったプロジェクトや案件をそれなりに成功に導いた経験、すなわち成功体験があり、⁠どういう取り組みをすると成功に導けるか」という基準をもっている可能性が高いといえます。

もちろん、失敗だらけで嫌になったりとか、コピペコードばっかり書いてバレそうになると逃げるというのを繰り返していて消去法で独立したりとか、その延長で社長になっている場合は別ですが、そういう人は連載の第1回で書いたように「エンジニア出身の社長」ではなく「社長という肩書を持つエンジニア(未満?⁠⁠」なのでまた別です。

エンジニアというのは、概してコミュニケーションが苦手な人の割合が高いものです。そのため、逆に技術力が未熟でもコミュニケーションが達者だと「ある程度まで」通用してしまうエンジニアがいるのもまた事実です。ただし、本質的には技術力が高くないので、最後まで通用することはありません。

そういう繰り返しの中で、足元を見つめ直して性根を据えて取り組むのか、楽なほうへと逃げ続けるのか。これは大きな岐路で、かつ5年とか10年経ってから取り返しがつかないことになる可能性が大きい部分でもあります。

「コミュニケーションが達者だといけない」ということではありません。⁠技術力も高く、コミュニケーションも達者」というエンジニアもそれなりにいます。ただ、コミュニケーション力が高いと、技術力が低いことが露見しづらいというだけです。

「社長であれば他職種についてくわしい」のは、ほかの職種出身の社長でも同じ

他職種の職務内容についても、仕事の進め方の教育と似た部分があります。というのも、エンジニア出身で社長になったのであれば、前述したとおりプロジェクトや案件を成功に導いている経験があるでしょうし、そうした経験の中では他職種とうまく連携して業務に取り組む方法とその重要さについて理解している可能性が高いためです。

そして社長であれば、⁠ビジネスモデルを考える」⁠ある程度経理や財務についても理解する」⁠営業の現場に出ていく」⁠マーケティングに取り組む」なども避けられませんから、そもそもエンジニア時代よりは他職種について、いちエンジニアよりはくわしいはずです。

ただ、⁠社長であれば他職種についてくわしい」というのは、ほかの職種出身でも同じですから、これはエンジニア出身という面でアドバンテージがあるということではありません。

リーダーシップやマネジメントは、前回同様割愛します。交渉や協調性も、仕事の進め方、他職種の業務内容と似ています。結局のところ、技術力そのものとその磨き方以外の教育については、だいたいが共同作業、コラボレーションという要素がもとになっているケースがほとんどですから、これは当然といえば当然です。

「データを構造的に理解し、活用する」能力は大きなアドバンテージに

さて、こうして前回挙げた各項目とは別に、エンジニア出身であると有利な点が1つあります。それは、⁠データを構造的に考える癖がついている、もしくは長けている」ということです。会社を円滑に経営して成長させていくためには、この「データを構造的に理解する」ということがわりと必要不可欠です。

もちろん、中には勘を頼りにして見事に経営をこなす人もいるでしょうが、それでは再現性がありませんし、⁠勘がいいとうまくいきます」では話になりません。あくまで統計的に、かつ傾向として、今の世の中では会社を成長させていくにはデータというものが非常に重要です。

ITのエンジニアというのは、データの取り扱いについては、たいがいはほかの職種よりは長けているものです。そして、社長になっているのであれば、そのメリットを技術そのものではなく、営業、マーケティング、財務や経理などにも活用できますし、していることでしょう。

そうした能力や経験というのは、教える内容を問わず、スタッフに教育を施すときにも大変役に立ちます。テーマや問題を構造的に捉え、必要であれば分解したり集計したりして、普遍的な内容として伝えることができるからです。

仕事というのは、思考と感情の組み合わせです。感情ももちろん重要ですが、少なくとも思考については、こうしたメリットは教育においてまちがいなくアドバンテージになることでしょう。

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