エンジニアと経営のクロスオーバー

第12回(最終回) エンジニアが社長になるのはあまり得策ではない,それでもその道を進むか?

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社長は専門職,エンジニアとしての経験や技能から転換できる部分が少ない

これまで,エンジニア出身の経営者というか社長の得手不得手について11回にわたって連載してきましたが,今回はその総括となります。

かいつまんでいうと,

  • 「エンジニア出身で社長になるのは,相対的にあまり得策ではない」

ということになります。身もふたもないですが。

会社を創業した場合,社長はそのまま創業者が就任するケースがほとんどだと思いますが,社長というのは営業,エンジニア,経理などと同様,ある種の専門職でもあります。専門職としての社長のスキルを考えてみると,⁠ビジネスモデルを考えて改善することができる」⁠会社の数字に強い」⁠社内外での交渉とか説得とか議論ができる」⁠マネジメント」「委任」⁠教育」などさまざまです。

一方でエンジニアは,そうした一連の専門職的スキルについて,向いているかどうかはさておき,経験がないケースがほとんどなうえに,そうした技術力以外の部分に関わるのがあまり好きではないケースがむしろ多いくらいなので,社長になった後にそうした部分で苦労する可能性が高いのでは,ということです。

一般的には「社長が専門職」という認識があまりないのではないかと思いますが,たとえば欧米だとCEOとして各社を渡り歩くというのはめずらしくありません。日本でも「プロ経営者」という言われ方をすることがありますが,これはだいたいネガティブなケースで使われることが多い気がします。

最初から社長業というものが得意な人はほとんどいないと思いますが,営業,マーケティング,財務・経理などに比べて,エンジニアは「一スタッフとして培った経験や技能のうち,社長業に転換できる部分が少ない」というのが,ある意味ハンデではあるかもしれません。もしエンジニアから社長になろうとするときには,そうした部分についてあまり楽観視せずに,それなりの苦労を覚悟しておく必要はあると思います。そうでないと,この連載の最初でも書いたように,⁠エンジニア出身の社長」ではなく,⁠社長という肩書を持った一エンジニア」もしくは「会社を創業した一エンジニア」になってしまい,⁠その後の企業の継続的発展」という最重要ポイントがおろそかになってしまう可能性が高いでしょう。

客観的・俯瞰的・総合的な視野が求められる社長,ある分野に深い知識を問われるエンジニア

ただ,その一方で,そうしたスタート時のハンデを克服できたときには,エンジニア出身というのはかなりの強みになることもまた事実です。これも連載で触れましたが,エンジニアからほかの職種への転換に対して,ほかの職種からエンジニアへの転換というのは相当難しいというか,ハードルが高いといえます。つまり,エンジニアという職種は,それだけ専門性が高いということです。

社長業というのは,だいたい物事をよりマクロに見るというか,客観的・俯瞰的・総合的な視野が求められます。一方で,エンジニアはある分野について,相当深い知識を問われるものです。

話はそれますが,一時期(今でも?)フルスタックエンジニアという言葉が流行りましたが,これは各分野についてある程度深い知識を持つことが重要なのであって,単に広く浅い知識のエンジニアなど役には立ちません。インフラ,プログラミング,設計,ハードウェアなどなど,⁠各分野において精通しているからこそ,一分野に特化しているだけでは持ちえない視点が持てる」というのがフルスタックエンジニアです。もちろん,ある一分野に特化して追求しているエンジニアにはその分野において敵わないのはしょうがないですが,それでも各分野で中堅以上のスキルがないと意味がありません。

話を戻すと,社長業というのは,そうした各分野にある程度精通している必要があるわけですが,非エンジニア出身の場合,エンジニアリングに「ある程度精通する」のは,かなり難しいのです。ですので,エンジニア出身の場合,がんばれば非エンジニア出身社長に比べて「エンジニアリングにおいても」精通した社長になれる可能性はあります。ただ,エンジニアリング以外においては,社長業のスタート時点で後塵を拝するケースが多いということです。

  • エンジニア出身社長 → エンジニアリングについては精通,それ以外については各分野ハードルが高い
  • 非エンジニア出身社長 → エンジニアリングに精通するのはかなり難しいが,それ以外についてはエンジニア出身より優位といえる

ものすごいざっくり書くとこういうことですが,どちらのほうがうまくいく可能性が高いかといえば,傾向としては後者のほうがうまくいくと思います。

もちろん例外はあります。ただ,⁠例外のケースが1つでもあればそうではない」ということではないのも事実です。あくまで傾向は傾向,可能性は可能性です。

「自分の好きなようにする権利」「まわりから見てやめておいたほうがいい」は背反しない

さらにいえば,⁠だからやめておけ」という話でもありません。自分の人生は自分のもの,自分の好きなように取り組む権利はだれにでもあります。

ここで問題になってくるのは,⁠自分の好きなようにする権利」というのは,⁠まわりから見てやめておいたほうがいい」というのと背反しないということです。

何十年も生きていると,たまに「絶対やめたほうがいい結婚」とか「絶対やめたほうがいい転職」というのを見かけます。たまに,ですが。でも,そうしたケースでその当人にそれを言っても,99%聞く耳を持ちません。そういう場合,⁠自分の好きなようにする権利」「まわりから見てやめておいたほうがいい」が両立しています。

そんなケースはたまにしかないですし,エンジニアから社長になることが「絶対」やめたほうがいいというケースも滅多にはありません。とはいえ,自分のやろうとしていること,進もうとしている道に

  • 「どんなハードルがあるのか?」
  • 「うまくいく見込みがどのくらいあるのか?」

などについて,主観だけではなく客観的な視野も持つほうがいいとは思います。

「まわりの意見に惑わされずに自分の信じた道を進め」なんていうとカッコいいですが,それはだいたいカッコいいだけです。たまにそうではない例外はありますが,そんな何万分の一の事例に自分がなれるかどうかは,冷静に検討してみても損はないでしょう。

なんだか否定的な内容ばかりになってしまいましたが,そもそも起業は大変ですし,社長業も大変です。創業して1年続く企業は50%ともいいますし,10年続く会社は数%ともいいます。それくらい大変な道なのですから,じっくり考えて,あとから後悔しないでがんばれるだけの覚悟を持ってその道を進んだほうが,きっと結果も良くなるのではないかと思います。

著者プロフィール

山崎徳之(やまざきのりゆき)

青山学院大学卒業後,アスキー,So-netなどでネットワーク,サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータセンターである「データホテル」を構築,運営。2003年にベイエリアにおいてVoIPベンチャーであるRedSIP Inc.を創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現 ZETA株式会社)を設立,代表取締役就任(現任)。ECソリューションの「ZETA CX」シリーズとして検索エンジンやレコメンドエンジンを開発,販売している。

blog:http://blog.zaki.jp/
社長コラム:https://zetacx.com/column

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