連載も今回で最終回。1年間ありがとうございました。今回は最後ということで,私自身のファシリテーションに対する思いを話してみたいと思います。
コミュニケーションが苦手
まだ新人SEだったころ,私はコミュニケーションに大きな苦手意識がありました。特に人前で話すと緊張してしまい,そういう機会があると,苦痛を感じていました。ですから,会議の進行役なんてもっての外,自分自身の緊張を隠すのに精一杯で,とても話し合いのプロセスに目がいく訳はありません。
会議の前は自分の話す事をあらかじめ準備し,事前にリハーサルして望んだりしましたが,自分の思い通り話し合いが進むはずもなく,結局うまく進行できずに,会議の後は,いつもへこんでいました。
そんなとき,ある会議でお客さんの,すごい技を目にしました。その方は,話し合いを模造紙(イーゼルパッドというものでした)に書きとめ,議題を整理し,参加者の意見を引き出し,あっという間に行動計画に落とし込んでいくのです。しかも,みんなを納得させながら。
私はすごいと思うと同時に,これはとても真似できないと感じました。あの人だからできるのだと。そんなある日,そのお客さんが会議を欠席されたことがありました。会議が始まりましたが,参加されている人は当然のごとく,いつものように模造紙に話し合いが書かれる事を期待していました。
会議が始まってしばらくしても,誰も書きません。しかたなく,私は模造紙に議論を書き始めました。そうすると意外と書ける事に気がついたのです。「案外これはできるかもしれない」もちろんお客さんほど上手にはかけないので,参加者から「そうでなくて,こう書いて」とか,「そこは,こういう意味です」とかの指摘を受けました。それをその都度,書き直していくうちに,段々と,どういう風に書けばよいのかというコツがわかってきました。
その後,そのお客さんが出席されている会議でも,自分でも模造紙に書いたりする機会を申しでて,積極的に書く機会を作りました。お客さんからアドバイスを頂いたりもして,書けば書くほど上達していく実感がありました。
話し合いを書くと,みんなから喜ばれ,会議も活発になる。私は会議が楽しくなってきました。そして気がつけば,いつの間にか,コミュニケーションの苦手意識がなくなっていたのです。
コミュニケーションを良好にするためには,まず相手のいう事をきちんと受けとめる事です。そして,それは模造紙(やホワイトボード)に書く事によっても実現できることがわかったのです。
ファシリテーションとの出会い
話し合いの進行にも自信を深め,コミュニケーションの苦手意識を払拭した私は,その後いろんなプロジェクトで仕事をしていきました。そして時がたち,私も人を育てる事を期待されるポジションになりました。
若い人の中には,コミュニケーションに苦手意識を持つ人も多い,まして会議をうまく進行できない。どうすれば,できるようになるのか?いろいろと教えてみたものの,中々うまくいきません。かつての私のように,模造紙に書いてもらったりもしましたが,得意不得意があり,書く事が苦手の人には,うまくいきませんでした。
自分ができる事と,人に教える事は違います。名プレーヤーが必ずしも名コーチにならないように,「できる」と「教える」の二つは違う技術なのです。
そんなときに,私はファシリテーションと出会います。きっかけは,コーチングをしていた兄が,ファシリテーションの勉強会を立ち上げたのです。そこにさそわれて,さほど期待もせずに出かけていきました。
その勉強会の中でファシリテーションの概要を知るうちに,これはまさに,かつて会議を見事に進行していた(私の中で伝説となっていた)あのお客さんの技である事に気がつきました。
ファシリテーションは,その技が体系化されている。それはすなわち,若い人へも教える事ができるような形でまとめられている事を意味しました。
私は早速,若い人にファシリテーションを教えはじめました。素晴らしい技が体系化され整理されている,学ぶ人は,その中の得意なところから始める事ができるのです。
また,私も,人に教える事により理解が深まりました。ファシリテーションは,知れば知るほど奥行きの深いもので,それが私をさらに魅了しました。