ゲームをおもしろくするコツ

第5回 「ちょうどいい」と感じる難易度調整

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デジタルゲームが生まれる以前は,ルールに従って対戦相手と競う競技こそがゲームでした。プレイヤーにとってゲームの難しさは,対戦する相手の強さそのものであったのです。デジタルゲームが生まれると,ゲームは対戦から,与えられたステージ(面)を攻略しクエストを達成し,1つの目標を目指す形になりました。

ゲームデザイナーが構築した「面」のことを「レベル」⁠Level)と言います。レベルが生まれたことにより,ゲームのルール自体を設計する人である「メカニクスデザイナー」と,レベルを構築する人である「レベルデザイナー」にゲームデザインの仕事が細分化されました注1)⁠

こうしてゲームの難しさは,プランナーが設定した面のパラメータが決定するようになりました。ルールではなく,敵の数,敵のHP,武器の攻撃力,攻撃のパターン,行動AIなど,挑戦するプレイヤーに与える課題としてプランナーが意図的に調整するのです。

注1)
日本ではメカニクスデザイナーのことゲームデザイナーと呼び,レベルデザイナーのことは「プランナー」と呼んで区別しています。

フロー理論

「人はなぜゲームをおもしろいと感じるのか」という問題に対し,ハンガリー出身の心理学者Mihaly Csikszentmihalyiが提唱した「フロー理論」が一つの答です。これは人の幸福感について幅広く論じたものですが,ゲームにも応用できることが多くの研究で明らかになっています。

プレイヤーは,持っているスキルレベルに応じた課題を与えられることで上達し,さらにそれに見合った課題を与えられることで流れに乗るように自然にゲームがうまくなって楽しいと感じるのです。この状態を「フロー状態」と言います。

フロー理論によれば,プレイヤーのスキルレベルを超えた難易度の課題を与えると不安に感じます。また,課題の難易度は変わらないのにプレイヤーが上達してしまうと退屈に感じます。いずれもゲームがおもしろいと感じなくなるわけです。

ゲームの難易度は,ゲームをプレイするモチベーションにもつながる重要な要素なのです。

難易度調整の必要性

1970年代後半,アーケードゲームはピンボールからビデオゲームに主役が代わりました。そして1ゲーム100円という高い料金でも多くの人がプレイしていました。ここには一つの問題がありました。

ピンボールなどは上手な人が長い時間遊べるにしても,弾き返せない位置にボールが来てしまうことがあるため,ある程度の時間で必ずゲームオーバーになります。しかし,レベルデザインされたビデオゲームでは,攻略法が発見されるとうまい人は時間無制限にプレイできる状況が生まれました。

ゲームセンター黄金期と言われる1980年代前半は24時間営業が可能で,ヌシのようなプレイヤーがゲームを占拠して長時間プレイしていました。拙作の『ゼビウス』注2も,ある程度難易度が上がるとその後は繰り返しとなっていました。⁠ゼビウス』は6時間でカンスト注3し,プログラムが暴走してゲームがリセットしてしまうのですが,それまで連続プレイできたのです。

1ゲームに6時間もかかると1日の売上は400円,当時1日数万円を売り上げていた『ポールポジション』注4と比べると,ゲームデザインによるプレイ時間の短縮は大きな問題でした。レースゲームにはゴールがあるため,プレイ時間は数分に限定されていました。ゲームセンターの売り上げにとっては優等生だったのです。

注2)
1983年に現バンダイナムコエンターテインメントがリリースした縦スクロールのシューティングゲームです。アーケードのほか,ファミリーコンピュータを含む多くのプラットフォームに移植されました。
注3)
カウンタストップの略で,得点表示が最大に達した状態のことを指します。
注4)
1982年に現バンダイナムコエンターテインメントがリリースしたアーケードのレースゲームです。今のレースゲームのような後方視点からの疑似3D画面を採用していました。

難易度オプション

ゲームの時間貸しにあたるアーケードゲームに対し,家庭用ゲームは基本的には最初にコンテンツを購入する買い切りになります。ここには「買ったからには途中で諦めないで頑張る」という心理が働きますが,それでも難易度が高いとメーカーに苦情が殺到します。

そこでメーカーが用意したのが「難易度オプション」です。ゲームを始める際に「イージー」⁠ノーマル」⁠ハード」などから難易度が選べるしくみです。これは良い手法ですが,いくつかの問題があります。

イージーでも難しいと感じる人には対応できない

ゲームを作るときに注意すべきこととして,プレイヤーは作り手が想像するよりはるかに下手な人もいることが挙げられます。

レベルデザインの際に,⁠プレイヤーが上手になって」突破できるに違いない課題を初心者向けに設定してはいけません。下手な人ほどプレイを繰り返すことがありませんし,どんなに繰り返しても下手なままというプレイヤーは存在します。

難易度によってゲーム体験に差ができる

難易度の調整方法が単にパラメータの調整にとどまればよいのですが,敵の数や行動アルゴリズムの変更にまで及ぶと,イージーとノーマルでは違うゲームをプレイしていることになり,ゲーム体験に差ができてしまいます。

著者プロフィール

遠藤雅伸(えんどうまさのぶ)

ゲーム作家,研究者。アーケードゲーム『ゼビウス』『ドルアーガの塔』をはじめ,ファミコン『機動戦士Zガンダム・ホットスクランブル』『ファミリーサーキット』『ケルナグール』,カードゲーム『真・女神転生デビルチルドレン カードゲーム』『巫法札合戦 犬夜叉』など多数のゲームの制作に参加し,現在は東京工芸大学芸術学部ゲーム学科でゲームデザインを教えている。日本のゲームプレイヤーの行動と,コンセプト主導のゲームデザインに関する研究が専門で,ゲームデザイン教育の演習などの考案も行っている。

遠藤雅伸研究室:http://endohlab.org/

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