モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第34回 よく描く絵「目には見えない『マスク』が描ける話」

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「バッテンマスク」が開く世界

この「バッテンマスク」のおかげで「耳が開く」という体験がどんなにすごいことなのかということをもう少し詳しお話します。わたし自身が,絵筆を持つ今の仕事をするようになって,聴こえてきたのは,わたしにとっては(正確にはわたしの耳にとって)すべてが新しい世界でした。

  • 「あの人は何度も同じことを言ってるな」とか。
  • 「さっきもその話は出たなあ」とか。
  • 「なんだか今の発言は何かに遠慮しているなあとか」とか。
  • 「結論を急いでいるけどどうもみんなは納得してない感じだなあ」とか。

こういう体験は,グラフィックファシリテーターとして「喋りたくても喋れない」という状態に追い込まれない限り出会えなかった世界です。わたしの耳は「開く」こともなく,聴こえてもこなかった世界でした。でも「耳が開いている」と同じ議論が全く別のものとして聞こえてくるようになりました。

  • 「やっぱりあの人は納得していないのかなあ」とか。
  • 「黙っているけれど本当は何か言いたそうだなあ」とか。
  • 「怒っているけれど本音は別のところにありそうだなあ」とか。

私の耳には,かつて会議の一参加者として座って聴いていたときとは全く違った世界として聴こえてきています。

  • 「なーんだ,本当はそれが言いたかったのか」とか。
  • 「なーんだ,そのことを気にしていたのか」とか。

そんな気づきから,堂々巡りの議論がぴたりと止まったり,絡まっていた議論がするりとほどけたりするという体験をするようにもなりました。これらはまさしく「バッテンマスク」のおかげで「耳が開いた」効能といえると思います。

「バッテンマスク」はグラフィックファシリテーターの疑似体験ができるツールともいえそうです。グラフィックファシリテーターと同じように議論を絵に描けますよとは言いませんが,冗談ではなく,実際に「マスク」をして会議や人の話を聴いてみると,今までとは違った聴こえ方を体験できると思います。プロジェクトでどうにも話がまとまらないと感じたときなどに,⁠マスク」は他人の話を全く違った世界としてあなたの耳に届けてくれる強制力のある補助ツールとして一役買えると思うのですが,どうでしょう。

組織活性のための,楽しく「バッテンマスク」活用

「バッテンマスク」の絵は,当初は,本当はしゃべりたくてたまらないその人に,わたしが半ば強制的に無理矢理描いていましたが,ある会社では,こんなに楽しく描けたことがありました。

その会社の幹部を集めた会議の冒頭で,経営企画室長がニコニコしながら次のように発言しました。

「みなさんは社長の前だと言いたいことも言えなくなるので,本日の会議に社長は出席させません」

そこで思わず描いた絵が下の絵です。

画像

その経営企画室長が,社長に向かってニコニコしながら「バッテンマスク」をつけている絵です。こんな楽しい絵が描ける会社ってなんだかステキじゃないですか。

実際このときの事前の打ち合わせでは,社長ご自身からも「社長のわたしが同席していると幹部のみんなが黙ってしまうので,今回は出席しない。議論した内容は後で絵巻物で報告してほしい」と言われていました。そして実際トップが⁠みずから⁠「バッテンマスク」をする絵が描けたこの日,当初は,普段大人しい幹部の皆さんが発言するかどうか心配されていたのですが,実際には幹部の皆さんの眠っていた自主性がめきめきと発揮され,とても有意義な議論が生まれました。

部下の本音を引き出すために,社長を見習って「バッテンマスク」⁠じぶんから⁠してみるのは,組織マネジメントにはとても有効な手段だったのです。今まで聴こえていなかったことが「聴ける」ツールになりうると思いました。組織でも,プロジェクトでも,上司や部下との間でも,コミュニケーションがうまくいかないなあと感じたとき,⁠バッテンマスク」を意識して本当に「マスク」をつけているつもりで黙って聴いてみると,とにかく何か全く新しい世界として聴こえてくると思います。若手や後輩の意外な可能性と自主性が,音声となって聴こえてくるはずです。

「バッテンマスク」“じぶんから”つけて「聴ける人」になる

少なくとも部下から「あの上司に『バッテンマスク』をつけさせたい」と言われる前に,⁠じぶんから⁠つけてみたいものですが,これまでグラフィックファシリテーションで同席した会議の中で,⁠この人はヒトの話を本当によく聴いているなあ」と絵筆が感じた人たちを思い出してみても,その人たちには自然と「バッテンマスク」「大きな耳」が描けてきます。

以前連載4回にも書きましたが,一見すると会議中とても無口な皆さんなのですが,わたしの筆がグイグイ走らされるその人たちは,⁠いいことを言うなあ」とか「その視点は見落としていたなあ」とか,筆が走らされる理由はいろいろですが,

  • 「会議中,発言が少ない人ほど,じつはよく議論を聴いていることが多いなあ」
  • 「会議中,静かな人ほど,じつはよく議論の流れを見ているなあ」

という印象でした。

そして,議論の要所要所で鋭い発言をする彼らの「聴いている」静かさは,喋り過ぎの傾向にあるわたしには憧れでもありました。ついついマスクを外して喋りがちな私としては,常に⁠じぶんから⁠「バッテンマスク」をつけるという行為を心がけたいと思いました。

さて,この「バッテンマスク」にはじつは2つのタイプがあります。次回は,もう1つのタイプについて紹介したいと思います。いずれのタイプもその存在そのものを知っているだけで,コミュニケーションが格段に楽になると思いますので,次回も楽しみにしてください。ということで,今日のところはここまで。

グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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