IT勉強会を開催するボクらの理由

第5回ハイスピードで進化する技術へのアプローチを求めて ~関東Firefox OS勉強会

IT勉強会に突撃レポートし、開始のきっかけや、運営ノウハウなどについてお聞きしていく本連載。第5回目はFirefox OS開発者向けの勉強会「関東Firefox OS勉強会」をご紹介します。2013年10月16日(水)に開催された「関東Firefox OS勉強会 4th WebAppsの陣」にお邪魔して、主催の「meco300」こと高尾安奈さんにお話を伺いました。当日は台風26号の影響が懸念されましたが、会場のGMOインターネット・セミナールームには100名近い参加者が集まり、関心の高さを感じさせました。

Firefox OSにかぎらず、幅広い分野で活動

「関東Firefox OS勉強会」は、もともとモバイル開発者向けのコミュニティモバイルクリエイターズ(仮) 」を背景に発足しました。

「モバイルクリエイターズ(仮⁠⁠」は組込み系やモバイルの初期から活躍され、Androidの「伝道師」としても著名な、kojira氏こと近藤昭雄さんを中心に発足したコミュニティです。⁠OSやプラットフォームの違いをまとめたり、新しい技術を味見してみたり、勉強会を開催するなど、モバイルの開発者・企画者・デザイナーがここさえチェックしておけば、最新情報をキャッチアップできる場作り」というのが、そのミッション。Googleグループ上のメーリングリストで相互交流が行われ、各地で勉強会が行われています。

GMOインターネットで開催された勉強会では学生からベテランまで幅広い層が参加した
GMOインターネットで開催された勉強会では学生からベテランまで幅広い層が参加した

高尾さん自身も、もともと参加者の1人でした。⁠Firefox OSをはじめ、Tizen、SenchaTouch、UbuntuなどのスマートフォンOSが複数発表され、他にもスマートウォッチやGoogleGlassなどのウェアラブルな電子機器が増えており、そのあたりの情報が集積されるのはとても便利だと思ったからです」⁠高尾さん⁠⁠。それが「関西で開催されるFirefox OSの勉強会に行きたい、けど遠い」と、高尾さんがTwitterで投稿したのをきっかけに、気がつけば自分が勉強会を開くことに。⁠関東Firefox OS勉強会」がスタートした瞬間でした。ウソのような本当の話です。

第4回目は「WebAppsの陣」と題して、アプリ開発のポストモータムを実施。電気通信大学の学生である@masawadaさんが「名称未設定⁠⁠、六本木で働くソフトウェアエンジニアの@iizukak(いいづかけー)さんが「Knockout.jsを用いたFirefox OSアプリケーションの開発⁠⁠、全文検索エンジンなどの開発を手がけたエンジニアの@unsoluble_sugar(星影さん)「Firefox OSがモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」と題して講演。加えてFirefox OSの開発元でもあるMozillaから、Mozilla Japanエバンジェリストの浅井智也さん(@dynamitter)が、新しい開発ツール「Firefox OS App Manager」について紹介しました。

なお、タイトルだけを見るとわかりませんが、ふたを開けてみると@masawadaさん、@iizukakさん、@unsoluble_sugarさんの講演は、いずれもFirefox OSでTwitterクライアントを作成するという驚きの内容。会場では「Twitterクライアントは新世代の『Hello, World』なのか?」という会話も飛び出したほどです。

幅広い項目をまんべんなくカバーするTwitterクライアントは学習素材としても優れている
幅広い項目をまんべんなくカバーするTwitterクライアントは学習素材としても優れている

確かに、Firefos OSで画面に『Hello, World』と表示させるだけなら「ホームページを作る感覚」でできるといっても、過言ではありません。内容の重複は想定外でしたが、高尾さんも「Twitterクライアントの開発は『Twitter APIの利用』⁠通信周りの制御』⁠画面の動的な制御』など、様々な処理を駆使して1つの機能が成立します。ライブラリを選択して使用するなど、実装方法も様々ですし、⁠今風』の学習に適した題材なのかなと思います」と振り返りました。

Web技術をベースとしたアプリ開発の実際

開発のアプローチも三者三様でした。@masawadaさんはStreaming APIでタイムラインを読み込み、Firefox OS向けのUIライブラリ、Building BlocksでUIを実装する手法を紹介しつつ、講演内でライブコーディングする荒技に挑戦。残念ながら起動するまでには至りませんでしたが、冒頭からアクセル全開の内容となりました。学生の講演をプロのエンジニアが傾聴していた点も、コミュニティならではの光景だったと言えるでしょう。

これに対して@iizukakさんは、MVフレームワークのKnockoutを用いたTwitterクライアントの開発手法を紹介しました。MVフレームワークを「データバインド機能を中心に、プログラムの構造化をサポートするライブラリ」と位置づけたうえで、Knockoutについて「宣言的データバインドで、動的なビュー書き換えの実装サポートを行うフレームワーク」と説明。HTMLを見ればどこの要素がいじられるのか明瞭なので、デザイナーと分業しやすく、拡張性も高いと評価しました。

実際、@iizukakさんも業務でiPhone・Android向けネイティブゲームアプリの開発に使用した経験があるそうです。Twitterクライアントの実例でも、タイムラインのリスト表示部分でKnockoutを使用したところ、⁠非常に素直に導入できた」と言います。

一方で@unsoluble_sugarさんは、ライブラリを組み合わせてTwitterクライアントを作成する手法について紹介。UIテンプレートの「FxOS Stub⁠⁠、PINコードベースの認証を行う「jsOAuth⁠⁠、タイムラインの表示を行う「twitter-text-js⁠⁠、新規投稿時の文字数をカウントする「charCount.js」などを活用したと言います。またTwitterクライアントのディスプレイガイドラインに沿ったタイムスタンプを行うために、JavaScriptを整形するテクニックについても補足しました。

台風の影響をものともせず、会場には100名近い参加者が訪れ、熱気に包まれた
台風の影響をものともせず、会場には100名近い参加者が訪れ、熱気に包まれた

このように、Firefox OSは「HTML5+CSS+JavaScript」というWeb技術をベースとしており、Webアプリを作成する感覚で開発できる点が最大の魅力です。OS自体もオープンソースで開発されており、全世界でアプリ開発者が急上昇中。開発環境についても、Firefoxのアドオンとして「Firefox OS Simulator」が用意されており、端末がなくてもアプリ開発が進められます。

Firefox OS Simulator上で開発されたTwitterクライアントのデモ
Firefox OS Simulator上で開発されたTwitterクライアントのデモ

しかし、Mozilla Japanエバンジェリストの浅井さんは「Firefox OS Simulator上での開発は、もう過去の話になった」と切り出し、新たにリリースされたアプリ開発・管理環境向けアドオン「App Manager」について紹介しました。コンソール・インスペクタ・デバッガ・スタイルエディタ・プロファイラという5つの機能を持ち、スクリーンショットや自作アプリのインストール、実機の接続とデバッグなども可能。シミュレータと開発環境が分離されたことで、複数バージョンのFirefox OSシミュレータを使用することもできます。また「One more thing」として、中国メーカZTEが提供するFirefox OS搭載端末「ZTE Open」のSIMフリー版についても、実機が披露されました。

Firefox OS搭載端末「ZTE Open」を披露するMozilla Japanの浅井智也さん
画像 画像 Firefox OS搭載端末「ZTE Open」を披露するMozilla Japanの浅井智也さん

勉強会は平日夜の開催で、スタートは午後7時から。20分ずつの講演にライトニングトークという、比較的ライトなスケジュールだったにもかかわらず、内容は大変濃いものとなりました。ライトニングトークでは、新たに発足した「FxOSコードリーディング」の紹介も行われ、さらなるコミュニティの輪が拡大。終了後は浅井さんや他の参加者が持参したFirefox OS搭載端末の周りに多くの参加者が集まり、手に持って感触を試したり、講師に質問をしたり、といった光景も見られました。

コンサルだと思ったらSIerだった!?

冒頭で述べたように、思わぬ形で勉強会を始めることになった高尾安奈さん。外語大出身で、社会人になってからプログラマを始めたという変わり種です。⁠コンサル系だと思ったら、実はSIerの会社だった」と入社後に気づきましたが、もともとWebやモバイル系の技術には興味があったため、プログラマとして精進しています。Androidに強く興味があって転職し、現在は⁠株⁠ブリリアントサービスに所属しています。コミュニティの運営によって、本業へのフィードバックは今のところとくにないということですが、社内で活動について話題に挙がることもあるそう。⁠互いに好影響を与えるように回せていければ」と語ります。

それにしても、⁠関東Firefox OS勉強会」で驚かされるのは、立ち上げ時のエピソードもさることながら、その開催頻度と規模感です。第1回目が2013年6月に開催され、これまで毎月のように開催されており、毎回100名から150名程度の参加者を集めています。もっとも、高尾さんは「開催して欲しい人がいるから、次回も企画開催しています」と、さらりと回答しました。⁠Firefox OSは開発のサイクルがとても早く、実装状況が刻々と動いています。常に追うのは中々難しいと思いますので、情報を求めている方は多いと思います⁠⁠。この速度感こそが、コミュニティを盛り上げる最大の要素なのでしょう。

また「今のところ、日本ではFirefox OS端末が販売されていないので、販売されるまで熱が冷めないようにしたいな、という気持ちもあります」という事情もあるとのこと。最新技術の勉強会だけでなく、開発者同士で交流し、わいわい話せる機会も併せて提供していきたいと言います。一方でモバイルクリエイターズ(仮)としては、特定の分野にフォーカスを絞らず、参加者のご要望や新しい流れに合わせて、さまざまな分野を柔軟に扱っていく予定とのことでした。

会を重ねるごとに参加者の年齢層が低下し、多様性が増していった
会を重ねるごとに参加者の年齢層が低下し、多様性が増していった

参加者は20代を中心に、学生らしい姿もチラホラと見られたのが印象的でした。⁠テーマがMozilla関連技術だからではないでしょうか。Mozillaさんは高校生向けにハンズオンをやっていたりしますし、オープンソースなところも若い人にウケると思います」⁠高尾さん⁠⁠。実際、第1回目はAndroidのアプリ開発者や、組込み系の人が多くみられましたが、回を重ねるごとにMozillaに興味がある人や、他のモバイル端末に興味がある人の参加率が上昇。中には営業系の参加者も見られるなど、多様化してきたとのことでした。

大規模会場を借りるのに正攻法で突撃

さて、一般にコミュニティ活動を進めるうえでポイントとなるのが、⁠会場」⁠講演者」⁠スタッフ」そして「金銭管理」です。とくに100名規模の勉強会ともなると、会場探しだけでも大変になります。

幸いにも「モバイルクリエイターズ」では、これまでIIJやGMOインターネットのセミナールームを無料でお借りしてきました。そのため、勉強会も無料で開催してきています。⁠当初は30名程度の勉強会を想定していたため、最初から有料開催は考えていませんでした。結局、参加費は会場代と懇親会代がおもな用途ですよね。今後、会場費の捻出などで必要になれば、有料化も検討すると思いますが、現状ではその予定はありません」⁠高尾さん⁠⁠。

もっとも、何かツテがあったわけではなく、Twitterなどで勉強会の会場を募集するところから始めたそうです。いくつか手をあげていただいた企業もありましたが、100人以上の参加者が集まったことで、いずれも実施不可能に。あらためて100人規模の勉強会会場を無償で提供している企業を検索し、サイトの申請フォームから会場提供をお願いしたとのこと。⁠ご提供いただけて本当に助かっています」と話されました。会場探しに苦労しているコミュニティにとって、大いに参考になるのではないでしょうか。

なお、

  • 大規模会場は人気が高いため、実施日を早めに決める
  • 勉強会後の現状復帰を徹底する
  • 勉強会の内容は会場の提供先企業にも有用なものにする

――などに注意しているそうです。このほか参加者が多いと、一定の喫煙者がいるため、喫煙スペースの位置も気にかけているとのことでした。

講演者は「ATNDで募集する」⁠Twitterで募集する」⁠知人からの紹介」⁠懇親会で募ったり、テーマについて詳しそうな方にお願いしたりする」などが中心。第4回で講師を務めた@unsoluble_sugarさんも、高尾さんのツイートを見て手を挙げた1人でした。⁠私は至らない点が多いので、失礼のないように気をつけているつもりですが、内心すごく不安です。登壇者の方も参加者の方も楽しく勉強会に参加していただければいいなと思います」⁠高尾さん⁠⁠。もっとも、見ず知らずの他人がSNSを見て講師参加されている点に、改めて驚かされました。SNSを通したコミュニティ拡大の一端を見た気がします。

また、今回は10名程度がスタッフ参加したとのことですが、これもほとんどがサイト上の、スタッフ募集の要項を見て手を挙げられた方だそう。もっとも、コミュニティが立ち上がって、まだ数ヵ月しかたっておらず、普段から連絡を密に取れないのがネック。そのため、第3回はかなりグダグダな進行となりました。その反省から今回は運営マニュアルを作成したとのこと。今後も運営には工夫を重ねていきたいと話されました。

参加者の若さは重要なバロメーター

このように大規模な勉強会を、かなりの頻度で開催されている本コミュニティ。もっとも高尾さん自身は手本にしたり、影響を受けたりしたものはとくになく、他のコミュニティに参加していきながら、いろいろ参考にしたそうです。⁠参加してくださった方が、参加して良かったと思えるようなコミュニティ、勉強会になるようにしていきたいですね」⁠高尾さん⁠⁠。ただ、参加者が多いのはとても嬉しいとしつつも、一人ひとりの参加者とあまりコミュニケーションがとる余裕がなく、うまく改善していきたいとのことです。

細うで繁盛記で勉強会をきりもりする高尾安奈さん
細うで繁盛記で勉強会をきりもりする高尾安奈さん

最後に「モバイルクリエイターズ(仮)もFirefox OS勉強会も、参加したいと思う方はどなたでもウェルカムです! ぜひ一緒にコミュニティを盛り上げていきましょう!! 勉強会の主催は、私でもなんとかなっているので、やる気があればなんとかなると思います! モバイルクリエイターズ(仮)としても、お手伝いしますので、ご相談ください」と、力強いコメントが寄せられました。

本勉強会で改めて感じたのは、情報の更新頻度が早く、盛り上がりを見せている分野(Firefox OS)があり、献身的なリーダー(高尾さん)がいれば、インターネットを通して登壇者・スタッフ・会場など、さまざまな要素が後から付いてくるということです。そして何より参加者の若さが重要な要素であること。普段筆者が参加したり、取材したりしている中には、学生や20代の参加者が少ないことに、大なり小なり危機意識を感じているコミュニティも少なくありません。参加者層の平均年齢はコミュニティ活動に限らず、広く成長のバロメーターなのだと気づかされました。

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