IT勉強会を開催するボクらの理由

第6回 ガジュアルなナレッジ共有でクラウドサービスを使い倒す~AWS(Amazon Web Services) Casual Talks

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他サービスとの比較を通してAWSが見えてきた

3番手の@naoya_itoさんこと伊藤直也さんは「MBaaSで巨人の肩に乗る」と題して,Parseの使用事例について紹介。後半ではAWSとMBaaSの比較考察も行いました。BaaSはクラウド時代のサーバ関連ミドルウェア的なサービスで,ユーザ管理・データ管理・プッシュなどの機能がひと通り揃っており,2017年には7700億円市場になるという予測もあります。MBaaSはそのモバイル版で,はてなブックマークをタイムライン形式で読むためのiOSアプリ「HBFav2」でも,数あるMBaaSの中からParseが使用されました。毎月100万APIコールまでなら無料で,抽象度がちょうどよく,PFQueryとの親和性も良好。スケーラビリティなども気にしないで使え,レイテンシもモバイルでは気にならない程度と言います。

MBaaSとAWSの違いを客観的な立ち場から比較して論じた伊藤直也さん

MBaaSとAWSの違いを客観的な立ち場から比較して論じた伊藤直也さん

ただし機能が便利すぎると,それに依存しすぎてしまうリスクもあります。伊藤さんは冒頭で星野さんが紹介したAmazon SNS Mobile Pushについても触れ,MBaaSほどの機能や柔軟さはないが,利用料が安いメリットを挙げました。もっとも,星野さんが指摘したとおり,プッシュ機能をSNS Mobile Pushで行うと,DeviceTokenの管理やユーザIDとのマッピングなど,細部を自社で作りこむ必要があるとも言います。伊藤さんは「AWSは部品で,MBaaSはサービス」だと説明し,依存リスクを避けるためにも,MBaaSはAWSの組み合わせて使用することを推奨していました。

最後に登壇した@shot6さんこと大谷晋平さんは,アマゾン社のエンジニアで会場提供者。そんな大谷さんは「AWS断捨離」と題して講演しました。断捨離すなわち不要なモノなどの数を減らし,身の周りをキレイにするだけでなく,ストレスから解放されてスッキリすること。たとえベストプラクティスとして紹介される活用事例でも,現場においては,さらにシンプルな構成にするのも一案だと指摘しました。その一方で,ただ不要な部分を削るだけでなく,さまざまなツールセットを活用して,自分だけのプラクティスを積み上げていく重要性について語りました。

アマゾンの中の人だから説得力がある,大谷晋平さんの「AWS断捨離」

アマゾンの中の人だから説得力がある,大谷晋平さんの「AWS断捨離」

大谷さんが重視するのは,AWSに過度に依存せず,AWSもまた1つの手段として能動的に使いこなしていく姿勢です。AWSはオンプレミスとは異なるため,軽快さを下げずに柔軟性を維持することが求められます。エンジニア自身がコスト意識を持ち,必要な機能は自分たちで実装する気概も必要でしょう。講演内では仮想マシンを簡単に立ち上げられるツール「Vagrant」と,オープンソースのAWSマネージメントコンソールで,オートスケールもバージョン管理できる「ASGARD」が紹介されました。そのうえでAWSサービスとの依存関係を考えて,どこまで踏み込むか考えて欲しいとまとめられました。

このほか@kenchanさんこと永和システムマネジメントの髙橋健一さんは,クラウドアプリケーション用のタスク調整と状態管理を行うサービス「Amazon Simple Workflow Service(SWF⁠⁠」の活用事例について紹介。⁠ワークフローの中で人手を入れるだけならFlow Frameworkを使用すれば良いが,途中でバッチ処理を挟む場合や,処理の順番を入れ替える場合は,自前で実装する必要がある」と指摘しました。また@hirose31さんこと,ひろせまさあきさんは「NATインスタンス冗長化の深淵な話」と題して講演。会場からは「パブリックIPが任意のVPCで使えるようになったため,NATインスタンスの意義も薄れつつある」といった声が聞かれました。

高橋健一さん(上)と,ひろせまさあきさん(下)のライトニングトーク

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運営スタッフは1人という究極のミニマム仕様

さて,この勉強会を主催したのが,冒頭にも記した星野豊さんです。驚いたことに運営スタッフは星野さん以外にゼロ。つまり星野さんが自分の問題意識に基づいて企画・運営された勉強会というわけです。準備期間は約2ヵ月間。知り合いに声をかけたり,Web上で募集するなどして講演者が集められました。にもかかわらず,前述の通り募集開始15分で満員御礼になったのです。発表内容も星野さんの予想通り,普段なかなか一堂に会することのない濃いテーマが並び,参加者の満足度も高かったとのこと。勉強会として最高の立ち上がりとなりました。

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前述の通り,告知されて15分で席が埋まっただけに,AWSの中上級者が中心かと思いきや,意外と「カジュアル」という名前に引かれて,初心者も多かったとのこと。いずれにせよアンテナ感度が高かった人ばかりだと言えそうです。なによりAWSの使いこなしかたについて,潜在的なニーズの高さが浮き彫りとなりました。これに対して星野さんは,発表内容も初心者向けから中上級者向けまで幅良くばらけて,良かったと振り返ります。

講演内で大谷さんから,AWSをさまざまなツールと組み合わせてカスタマイズしていく「ぼくのかんがえた最強のAWS」勉強会を開催したいという要望も出されました。こうした公式セミナーやハンズオンではとりあげにくい,ユニークなアイデアも,次回以降で考えていきたいとのことです。2014年1月~2月くらいに開催したいとのことで,今回参加できなかった人は要チェックでしょう。

またテーマに合わせて参加者の増減も見込まれることから,その都度で会場を探していくと話されました。一般的に勉強会の開催には「会場探し」⁠コンテンツ(講演者への依頼⁠⁠告知・宣伝」⁠当日の運営」⁠お金の管理」など課題となりますが,中でも一番大きいのが会場探し。一方で今回,多くの参加希望者が出たことから「Ustreamなども機材がそろえば考えたいですが,きわどい話ができなくなる恐れも……」と語ります。実際オフラインだからこそ共有できるナレッジもあります。ぜひ適切な会場が借りられることを期待してやみません。

勉強会の主催者である星野豊さん(左)と,会場を提供した大谷晋平さん(右)

勉強会の主催者である星野豊さん(左)と,会場を提供した大谷晋平さん(右)

本勉強会で改めて感じたのは「熱意があれば1人でも勉強会は開催できる」こと。そして「自分の一番関心があることにテーマを絞ったほうが,かえって多くの人にリーチできる」ということです。星野さんも「これからも発表者が興味のある話題を好きに話してもらえる会にしたいですね。きわどい話も出てくるといいなあと個人的には思っています」とのこと。まさに「自分が楽しいと思えないことが,他人に喜ばれるはずがない」ということなのでしょう。究極のオレ様マーケティングこそが正解といえそうです。

最後に星野さんから,勉強会やコミュニティ活動に臆しているエンジニアがいたら,ぜひ自分の興味のあるテーマから足を運んだり,ライトニングトークから発表してみてはと勧められました。⁠最初からコミュニティを立ち上げようとせずに,まずは興味あるテーマで勉強会を開いてみると,案外気楽にできるのではないでしょうか。無理にコミュニティにする必要もないと思います。AWS Casual Talkもコミュニティではなく,勉強会ですので」⁠星野さん⁠⁠。スタートしたばかりの本勉強会が,どのように成長していくか楽しみです。

著者プロフィール

小野憲史(おのけんじ)

特定非営利活動法人国際ゲーム開発者協会日本(NPO法人IGDA日本)代表。ゲームジャーナリスト。3匹の猫の世話をしながら,奥さんの弁当を作って仕事に送り出す日々。

メール:ono@igda.jp
Facebook:https://www.facebook.com/kenji.ono1