無関心な現場で始める業務改善

第7回 御社のトップは腹をくくっていますか?―改善活動は部活ではない

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現場だけの業務改善

「業務改善は現場だけで自発的に行っていけばよいのか?」という質問を受けることがあります。理想的な答えは「イエス」です。現場の自主性・主体性を活かせればそれに越したことはありません。

改善活動の初期段階に立ちはだかる壁として多いものは,⁠改善ばかりしていて仕事をしていない」と言われることです。他部門への働きかけを行おうとすると,⁠何の権限があって,うちを巻き込むんだ?」と部門責任者から断られます。良かれと思って,動き始めてもこのような場面に直面し,⁠ちゃんと社内で認知されていないアングラ活動なんだ…」と無力感を感じて,一気にトーンダウンすることも少なくありません。

したがって,現実的な答えとしては,僕らは「ノー」と言います。業務改善ができないというのではなく,現場だけで進めると業務改善の限界が早く来るということです。

改善は仕事ではない?

もう1つ考えなければいけないことがあります。⁠改善が仕事ではない」という認識が組織内にあると,ほとんどの業務改善はうまくいかないことです。ひどい場合は,⁠あいつ,仕事しないでサボっている」とさえ言われます。

仕事をしていないように見られると,改善はきちんと評価される仕事ではないという風潮を生むので,自ら手を挙げる自発性を損ねる大きな要因となります。

業務改善が小さな活動で,部門の中だけで取り組むのであれば,部門責任者の責任と権限で何とでもなります。しかし,自部門以外の前工程・後工程の部門に原因があると,他部門と協力しながら改善に取り組まないと根本的な解決にはなりません。部門の枠を超え,改善を組織的な動きにしていくためには,経営トップとしての「後押し」が必要となります。

トップが腹をくくること

経営課題としてコスト削減などが急務の場合,どの企業でもあの手この手とコスト削減のための施策を考えます。今まで我々が相談を受けた会社の中には,経営重点施策として業務改善を掲げていながらも,トップが改善現場やコアメンバーのミーティングに一度も顔を出さない会社がありました。現場は,トップが関心を示してくれないことが不満で,⁠現場が無関心な最大の理由はトップの姿勢の縮図じゃないか!」という声すら出てきたこともあります。そこでトップに話を聞いても,⁠現場に任せているから」の一点張りです。我々も,一番の問題はこの経営者だなと思ったくらいです。

こういう会社は珍しくありません。現場からすると,重点施策と位置づけられていながら,言っていることとやっていることが違う「言行不一致」を感じ,経営に対する信頼感も薄っぺらくなります。改善活動そのものがバカらしくなり,熱もどんどん冷めて自然消滅するのは目に見えています。

業務改善そのものを経営的にどのように位置づけるのか,どうやって支援するのか,それは仕事なのか・仕事ではないのか?トップの後押しがあるだけで,それは現場にとっては前向きなモチベーションなります。

では,トップが腹をくくるということは,どういうことでしょうか?

痛みを伴うときに逃げないか?裏切らないか?

多かれ少なかれ,企業の変革には「痛み」を伴います。

現状の問題点が出てきた段階で,それにきちんと向き合うことができないと改善ができません。業務上の問題が全て業務プロセスの改善で解決することは稀で,組織構造を見直さないと機能しないとか,たった1人の部門責任者のマネジメントがボトルネックの場合は,人事的な解決策も考えないといけない局面もあります。何かを変えるために一時的に,何かを捨てなければいけない二者択一の厳しい選択を迫られる場合もあります。

会社経営者に「腹はくくっていますか?」と聞くと,多くの場合「背水の陣で臨む」とか「腹くくりはできている」という答えが返ってきます。素直に考えれば,社外の我々から,こんなことを聞かれて面白い感情を持つはずはなく,意地やプライドもあるので,このように答えざるを得ない気持ちもあることは理解できます。

我々は経営者が腹をくくっているか聞くときは,⁠痛みを伴う場面に遭遇したときに,逃げないか?と質問します。一瞬,⁠え?」となることもありますが,要は「裏切らず,現場を見殺しにしないか?」ということです。

トップの本気度が社員をその気にさせる

ある程度の規模以上の会社になると,毎日,社長と顔を合わせて話をするという人は少ないでしょう。しかし,直接話をすることがなくとも,トップの発言や会社の経営方針などを気にする社員はいます。

トップが腹をくくったとしても,その腹のくくり具合が見えてこないと,社員や現場はシラケるものです。見えてこない,伝わらないと,いくらトップが「俺は腹をくくったから,思う存分やれ!」と言ったところでさっぱりピンときません。

最も効果的なのは,社外に経営のスリム化・体質改善などと銘打って,業務改善を盛り込んだ経営計画をIR活動の一環として開示してしまうことです。経営計画に業務改善が盛り込まれれば,具体的なコスト削減目標や納期短縮日数,そして投入するリソースなども明確になります。そして,外部に言ってしまった手前,後戻りはできなくなるので,トップ自らも「やらざるを得なく」なります。

このような大掛かりな仕掛けやリソースなどの予算が確保できなくとも,社員は上司やトップの一挙手一投足をよく見ているものです。「どうも今回は本気らしいぞ」と社員が思い始めたらしめたものです。

専任・兼任と業務改善の位置づけ

業務改善に取り組む場合,人的リソースは専任と兼任の2つが考えられます。専任の場合は業務改善そのものが仕事になるので,業務改善に専念できます。余力のある企業では可能ですが,多くの企業ではそういうわけにもいかないでしょう。兼任しながら改善を行うケースがほとんどになります。

いずれにしても,改善活動は日常業務の中に位置づけるのが望ましいと言えます図1)⁠定時後に改善活動をする企業もありますが,この場合,時間外の賃金の支払を正式な残業代として会社が認めるか,原資をどうするかなど改善活動に対する新たな問題が出てきます。

図1 改善活動の位置づけ

図1 改善活動の位置づけ

改善のきっかけは業務に関する問題であり,それを改善するために活動をするわけですから,「仕事と活動は切り離さない」ことが鉄則です。学生の部活動のように,5時までは授業で5時から部活というものとは違います。アフターファイブの部活動のような動きと業務改善は全く異なるということです。

実際,業務時間内は時間が確保できずに改善を進められないという意見は多く出ます。定時時間内で改善ができないので,残業や休日出勤をして改善活動に取り組みます,遅れも取り戻しますという人をたくさん見てきましたが,本人の中で改善よりも本業の優先度が高いと,結局,改善活動がおざなりになるのは目に見えています。

実はここに,本質的な時間管理(タイムマネジメント)や一人ひとりの従来の仕事のやり方を見直すという"仕事のやり方の側面からの改善"があります。これは,改善活動の表には出てこない裏目的みたいなものです。自分自身の仕事のやり方の棚卸もすると,意外と無駄な,いわゆる「付加価値を生まない仕事」を一生懸命やっていることに気づきます。

我々の経験上,業務時間内で改善活動を行うようにしてしまうと,実際には業務時間内に改善活動がかなりできてしまうことがかなりあります。本連載の第1回「改善が進まない理由」の1つとして「時間がない」という殺し文句の存在を挙げましたが,「そんな時間はない」と言いながらも,やってみたらできてしまったということです。

少し先のことになりますが,業務改善が進み実際に改善効果が出てくると,効果測定などの検証が必要となります。その際,改善を先の部活動のようにアフターファイブに位置づけていると検証が難しくなります。仕事の中で改善を進めることで,リアルタイムで効果を検証することができます。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/

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