Lifelog~毎日保存したログから見えてくる個性

第61回 解離性同一性障害対応メーラー

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複数の人格をもつ身体

アメリカの精神医学の判定用事例集の『DSM-IV』では解離性同一性障害を,人格が分裂したものという特別扱いではなく,そもそも人格は断片的なものであり,それが統合されていない場合を指す用語として位置づけています。

これは現在の脳科学で,意識は連続的なものではなく,むしろ断片的な想起と考えるのに近いといえます。

なぜこんな話をしたかというと,じつは最近,解離性同一性障害の人物と知り合い,きわめて大量のメールをやりとりしているためです。履歴を見ると(というあたりがライフログ)⁠約2カ月弱のあいだに360通以上のメールを受信しています。こちらが送信したメールの総文字数は,これまたじつに400字詰め原稿用紙で700~800枚に相当する分量です。さすが過書字の自分…というのは,褒め言葉でしょうか。

その人物は,すくなくとも8~10程度の分裂した人格をもち,わたし宛に届くメールにはすくなくとも5人程度の署名から送信されています。当然ながら行動も口調もしぐさも大きく変貌します。それぞれは断片的な人格であり,全体的な整合性には欠ける点もなくもないのですが,それにしても個性ははっきりしています。

マルチアカウント対応を超えたマルチ人格対応メーラー

べつにここは心理学のblogではないので,病状や判定はさておき,ここで問題になるのが,普通のメーラーがマルチアカウントに対応しているとしても,マルチ人格には未対応であることです。

あたりまえですが世の中,解離性同一性障害の方がぽこぽこいるのかどうかもわかりませんけれど,そういうひとが必要だといわなければ,対応したメーラーは存在しないわけですから。いままでそれが存在しなかったといっても,ある意味当然といってもいいかもしれません。

ところが,じっさいに解離性同一性障害の相手とメールのやりとりをしていると,ヘッダのfrom情報を見るだけでは,誰とメールをやりとりしているのかよくわからない,ということになります。

その人物の場合,基本的には人格ごとにメールアドレスとパスワードを使いわけていて,かならずしもすべての人格が他の人格のメールを読めるわけではないようです。⁠パスワードが違っていて読めないことがある」と,本人が述べていました。

また,人格ごとに完全にメールアドレスが異なっていればまだしも,ある程度の融通も利くらしく,異なる人格であってもひとつのメールアドレスからメールしてくる例も見られました。こうなると,誰と誰がメールをしているのか,よく考えないと,混乱してなにがなんだかわからなくなります。

そのため,こちらは読んでいるだろうと思って送ったメールが,じつは該当する人格には届いていない,なんてこともあります。

『PileMail 解離性同一性障害対応システム』の試作

そこで,本文の内容や署名によって書き手を判定して異なる人格として扱う『PileMail 解離性同一性障害対応システム』を開発し,運用を開始しました。これにより,おなじIDを共有する複数の人格を別々の人物として扱い,個々に履歴をとって返信することが可能になりました。

現代は,各種のネットサービスなどを匿名やネット名などで利用し,それぞれの人格(キャラクター)を使い分けるような時代です。ある人物があるサービスを利用するときにはAという名前を使い,別のサービスではBという名前を使うことは,ごくポピュラーなことです。⁠PileMail 解離性同一性障害対応システム』は,このような複数キャラクター(複数人格)に対応した実験的な試作システムであり,今後さらに研究を進めてみたいと思います。

なにしろ,その人物は,某ソーシャルサイトに5人の名前で登録をしているといい,その他のサービスを考え合わせると,じつに興味深いとしかいえないのです。

この『PileMail 解離性同一性障害対応システム』は,サービスごとにいくつかの名前を使い分ける場合にも応用可能であると思います。マルチアカウントをマネジメントする機能もあるので,ある人物にはAという名前でA@Aというメールアドレスを使い,別の人物にはBという名前でB@Bというメールアドレスを使って連絡するようなことを,ユーザーの負担なしに自由に行えるからです。ユーザーは単一のインターフェースを使うだけで,システムが自動的に内容判定して送信先を決定しています。

はたしてニーズがあるのかどうかはわかりませんが,わたし自身も重宝して使ってはいます。

著者プロフィール

美崎薫(みさきかおる)

夢想家,未来生活デザイナー,『記憶する住宅』プロデューサー,記憶アーティスト。住宅,書斎,机をはじめ,ハードウェア,ソフトウェアの開発をプロデュース。著書『デジタルカメラ2.0』(技術評論社)など多数。

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