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第25回 NokiaはなぜAndroid OSを採用したのか

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Nokiaが低価格スマートフォンであるNokia XにAndroid OS注1を採用することを発表した。Microsoftに買収されたはずのNokia がAndroid OSを採用したのには次のような事情がある。

注1)
本稿では,ハードウェアを表すAndroid,Windows Phoneと区別するために,OSを指す場合はこのように末尾に「OS」を付けて表記する。

Nokiaの誤算

Nokiaは,わずか数年前までは世界一の携帯電話のシェアを持つ企業であった。OSにはSymbianを採用し,ハイエンド向けにはS60(Series 60)⁠低価格携帯電話向けにはS40(Series 40)を提供し,ヨーロッパと開発途上国を中心に大きなシェアを持っていた。特にS40は稼ぎ頭で,この製品がNokiaに世界一のシェアを与えていたと言ってよい。世の中が徐々にスマートフォンへとシフトする中で,S60がその受け皿となる,それがNokiaの戦略であった。

しかしiPhoneの登場によって,Nokiaは一夜にして劣勢に追い込まれてしまった。S60の処理能力はiPhoneに到底太刀打ちできるものではなく,搭載しているSymbianもiOSと比べると一世代前のものだったからだ。iPhoneがスマートフォン市場を一気に立ち上げ,SamsungがAndroid OSを搭載するGALAXYでiPhoneを超える勢いでシェアを増やした結果,Nokiaは戦うための製品もないままに,一気に存在感をなくしてしまったのだ。

追いつめられたNokiaは,AppleとGoogleに遅れをとっていたMicrosoftとの提携(そして携帯電話部門の売却)という戦略に出た。Symbianに代わるスマートフォン向けのOSが必須だったからだ。しかし,この戦略には一つ大きな問題があった。Nokiaの稼ぎ頭でもあった開発途上国向けの低価格携帯電話には,MicrosoftのWindows Phone OSはオーバースペックだったのだ。

Symbianでは戦えない,でもWindows Phone OSは大きすぎる。その結果,Nokiaは苦肉の策としてAndroid OSを採用したのである。

MADAの呪縛

しかし,Microsoftによる買収が決まっていたNokiaとしては,ほかの携帯電話メーカーのようにGoogleのサービスと直結したAndroidスマートフォンを作るわけにはいかなかった。

通常,メーカーがAndroid OSをスマートフォンに採用する場合,単にオープンソースのAndroid OSを搭載するだけでなく,Googleが提供するGoogle MapsなどのアプリケーションやGoogle Playからのアプリのダウンロードを可能にするため,GoogleとMADAMobile Application Distribution Agreementという契約を結ぶのである。この契約を結ぶと,Googleが提供するアプリとサービスを中心に据えたユーザ体験を提供することが義務付けられるうえに,勝手にAndroid OSを変更することが許されなくなるのだ。モバイル端末向けのさまざまなサービスを提供することが最も重要と考えるMicrosoftとしては,Nokiaが低価格端末にAndroid OSを採用するのはしかたがないとしても,その端末がGoogleのサービスと密接に結び付いている状態だけは絶対に避けなければならなかったのだ。

そこでNokiaは,MADAをGoogleとは結ばずに,オープンソースのAndroid OSの上にNokiaとMicrosoftが提供する独自アプリケーションを搭載した,ハイブリッド型のOSを作るという選択をした。Android OSを採用しているのにもかかわらず,見た目がWindows Phone OSに酷似しているのはこれが理由である。

選択を迫られるほかのメーカー

興味深いのは,Android OSを採用しているほかの携帯電話メーカーの今後の動向である。特に,富士通やソニーなどの日本メーカーからすれば,MADAに縛られたまま,差別化のできない端末で価格競争をしても,収益にはつながらないことが明確になってきたからだ。

映画・音楽・ゲームなどの独自のコンテンツビジネスを持っているソニーは,本来はそれらとの連携を最大限に活かしたユーザ体験を提供するべきである。そのためにはMADAから脱却して,独自のユーザインタフェースを持ったAndroidスマートフォンを作る,もしくはAndroid OSを捨ててTizen注2に移行する,などの思い切った戦略の転換を考えるべきだろう。

富士通も,スマートフォンそのものから利益を上げることが難しくなっている現状を考慮すれば,彼らが提供するエンタープライズサービスにアクセスするための端末としてスマートフォンを位置付けるべきだろう。そうであれば,思い切ってOSをWindows Phone OSに切り替えたうえで,エンタープライズ向けのアプリケーションで勝負をかける,という戦略も十分に考慮する価値があると思う。

注2)
LiMo Foundation,インテルが主導するオープンソースのOS。

著者プロフィール

中島聡(なかじまさとし)

米国シアトル在住の自称「永遠のパソコン少年」。学生時代にGame80コンパイラ,CANDYなどの作品をアスキー(現アスキー・メディアワークス)から発表し,MicrosoftではWindows 95,Internet Explorer 3.0/4.0のアーキテクトとして,Internet ExplorerとWindows Explorerの統合を実現。設立企業「UIEvolution, Inc.」「Big Canvas Inc.」。ブログ「Life is beautiful」。現在はGoogle App Engine上でのサービス作りに夢中。iPadアプリ「CloudReaders」開発中。

近著『おもてなしの経営学―アップルがソニーを超えた理由』(アスキー)

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